Scenario

Chapter21『道しるべ』

(夏樹は、再び、
意識を集中させ。
小町通りの路地を出た。)

夏樹『ひよこのことも、気になるけれど。』

『もうすぐ、“闇”が現れても良い頃だ。』

(夏樹は、視線を。
赤レンガの歩道に落とし、探しながら。

通りの人々に、意識を向けた。)

夏樹『今朝出会った、“闇”の気配は。

とても大きな力を秘めているように思えた。』

「・・ひよこは居ないな。」

「はぁ。 バス停の方へ、行ってみよう。」

(夏樹は、再び歩き始めた。)

***

紫苑「クロ~っ。」

(紫苑は、明るいベージュ色の髪を
軽やかに揺らし、あたりを見回して。 走ってゆく。)

紫苑「んもうっ。

置いて帰っちゃうぞ。」

(怒った様子を見せ、立ち止まった茶色いプリーツのスカートが風に揺れる。)

-1-

(夕暮れの風が、髪と頬を撫で。
白いブラウスの胸元、赤い大きなリボンを揺らす。)

サワサワサワッ

紫苑「あっ!」

(紫苑は、ふいに動いた。
路地横の花壇に気が付いた。)

紫苑「居たっ。

もう~っ、クロ~。」

(紫苑は、花壇に近づき。
プリーツスカートの膝をつくと。

そっと、生い茂った草を、両手で掻きわけた。)

サワッ

紫苑「・・ん?」

「あれ・・?」

(紫苑の、茶色い大きな瞳が。
見開く。)

紫苑「わぁっv

かわいい~♪v」

(屈みこんだ、紫苑の手の先に。
草むらに隠れていたのは。 小さな黄色い、ひよこだった。)

紫苑「・・きみも迷子?」

-2-

(紫苑は、静かに。
脅かさないよう、小さな黄色いひよこを
両手で拾い上げた。)

紫苑「かわいい~v

ふかふかだね。」

(ピンクに色づく頬で。
そっと、温かな。 黄色い羽毛に触れた。)

紫苑「どうしてこんな所にいるのかしら?

ふふっ。 ネコさんに見つかったら大変よ。」

「ああっ!

そうだ、クロを探してるんだった。」

(紫苑は慌てて立ちあがった。)

***

紫苑「クロ~っ。」

(紫苑の呼び声に、気づいた。)

(クロエが再び、小さな黒ネコの姿に変わり、
フェルゼンから歩き出した時だった。)

サァァッ

(実体を持たない、フェルゼンの身体に。
街並みを抜け。 風が吹く。)

-3-

(風は、フェルゼンの。 半透明の身体にも届き。
深紫色の。 星座が煌めく、長いマントの裾をはためかせる。)

フェルゼン「くっ・・。」

(乱れて四方に伸びる、青髪の奥。 フェルゼンは、不快な表情を刻み、
血走る、真っ赤な瞳を揺らした。)

フェルゼン「チッ・・。 うざってぇ・・なぁ・・、こんな身体でも・・、

感覚が残っているのは・・、

くっくっ・・。

俺の感覚が・・。 腐る・・。」

(フェルゼンの瞳は、まるで。

赤い絵の具を流したように。 水分を含み、光り。
冷たく。 奥に潜む、狂気を隠している様だ。)

(時折吹く、街の風に。 フェルゼンの青髪が吹き乱れ。
見え隠れする。 不安定な気性をざわつかせた。)

(鋭い視線を、街行く人々に投げる。)

フェルゼン『許せるか・・。

こんな処に・・、俺は・・、僅かでも

触れたくない・・。』

(フェルゼンの赤い瞳は。
冷たく、人々を捉えた。)

-4-

フェルゼン『・・お前の力が・・。 こいつらの側にあると思うだけで・・。

俺は、ぞっとする・・。

とても、耐えられそうにない・・なぁ。』

「くっくっ。 こいつらは・・皆。」

「屑だ・・。」

サァァァッ

(冷たいフェルゼンの視線の先に。)

(流れる、暖かな。 街の風に乗って。
一人の人物が、現れた。)

フェルゼン「・・・!」

(虚ろな目で、不機嫌に、街並みに目をやっていたフェルゼンの。

血の様に赤く光る瞳に。 飛び込んでくる、一人の人影がある。)

ザワザワザワッ

(ただ、行き過ぎる。 多くの街行く人々の中で。)

(たった一人。 その人だけが。
フェルゼンの瞳を引き付けた。)

フェルゼン「・・誰だ・・あいつは・・。」

(人波の中で一際目立つ、その人物を、フェルゼンが捉えた。)

(ゆっくりと、街中に現れた。
細身の少年。)

-5-

(普通の高校生だが。
不思議な空気を纏い。 暖かな街の風が、包み込むように。
少年から、流れてくる。)

(風は、まるで少年を守っている様だ。)

フェルゼン「・・誰だ・・・。」

(一際目立つ、白い肌のせいか。 夕日に照らされる、深い
紺色の髪と、瞳のせいか。)

(暖かなスポットライトの光源と共に、立っているようだ。)

  (夏樹の持つ、中からの力が、目の前に現れたその時から、
その場をより明るくしていた。)

フェルゼン「・・・!」

『雪のように・・透き通る肌・・。』

『夜を映したように、深い紺色の目・・。か・・。』

(フェルゼンは、ちょうど辺りを見ていた夏樹の顔を見た。)

フェルゼン「くっ! 驚いたな・・っ。

さすが地上だ・・。

胸糞悪いものを思い出させて・・くれやがる・・。」

「どの世界にも・・、似ている奴が

一人くらい・・、居ても可笑しくは無いか・・?」

「それとも・・まだ、地上に居たのか・・?」

-6-

フェルゼン「まだ・・あいつの前に・・

俺の前に・・現れるのか・・?」

「・・ふざけるな・・。」

(誰にも聞こえない。 フェルゼンの声は。
氷の様に冷たく振動した。)

フェルゼン「・・消えろ。」

ドクン・・

フェルゼン「・・道理で、俺の神経が逆撫でられるわけだ・・。」

(深紫色のマントの下。 しなやかな足や、広い胸から、振動の様に。
あふれ出たエネルギーが、鎖の装飾を鳴らし。 音を立てる。)

フェルゼン「あいつが誰であろうと・・、問題じゃない。」

「・・目障りだ・・。」

ドクン・・

(暖かな、風と夕日に。 夏樹の深い紺色の髪が光り。
真っ白な肌に映える。 深い紺色の瞳が瞬きする。)

(その姿を捉えた、フェルゼンの赤い瞳が。

見開かれ、突如。

深紅の閃光を放った。)

フェルゼン「・・俺が・・

消してやろうか?」

-7-

ドクン・・!

(乱れた青い髪が、フェルゼンの頬を打つ。
青髪の奥で、深紅の瞳が。 鋭く光った。)

(怒りを通り越す、
憎悪。)

***

(夏樹がバス停へ向かおうと。
路地から、メイン通りへ踏み出した時だった。)

ドクン・・

(何かが、夏樹の足を止めた。)

夏樹「・・はっ。」

『何だ・・?』

(それは、夏樹が、街中で感じる。 どの視線とも異なっていた。)

(興味深げに、自分に向けられる視線や。
異質なものと捉えられる、国の大臣たちからの視線でもない。)

(夏樹が苦手な、自分をまるで監視しているかのような、
本部の黒服の執事たちの視線でもない。)

ドクン・・

夏樹「うっ・・。」

(夏樹は思わず、自分の胸元を掴んだ。)

-8-

チリンッ

(ワイシャツの内側で、小さな金属音が鳴る。)

夏樹「・・はぁっ。」

(夏樹は、深い紺色の瞳を歪めた。
握られた真っ白な手の内側で。 服に隠れて見えない。
首から掛けた、小さな銀の指輪が鳴った。)

夏樹「・・っ。」

バッ

(夏樹は、自分に向けられる気配を、
振り払うように。
大きく、後ろに振り返った。)

夏樹『誰だ・・?』

(息を整え、あたりに目を凝らす。)

夏樹「・・っ。」

『誰かが居る。』

ドクンッ・・

(夏樹は、立ち止まり。
周囲の人々に意識を向けた。)

(しかし、自分に向けられた視線の主は見つからない。)

夏樹『“闇”とは違う・・

別の、何かが・・。』

-9-

ドクンッ・・

夏樹『僕を見ている。』

(あまりの威圧感に、夏樹はその場を
動けなかった。)

(まるで、自分だけが、その場に留まり。
街行く、全ての人々が。
夏樹を残し。 素早い時間の流れを通り過ぎていく様だ。)

ザワザワ

(人波に取り残される錯覚と、
強い気配に。

夏樹は目まいを覚えた。)

夏樹「・・っ。」

ドクンッ・・

(射る様な強い視線が、
夏樹を捉えていた。)

***

静乃[「周囲に、“闇”の気配を察知しました。」]

[「オート、オペレーションモード作動します。」]

(紫苑の、両手のひらの中で。
小さな黄色いひよこが。 可愛いくちばしを開き。 突然しゃべりだした。)

紫苑「えっ?」

-10-

(両手に乗る。
柔らかな羽根の、かわいいひよこに。
紫苑は、驚き、近くで覗き込んだ。)

紫苑「ぴよちゃん・・しゃべれるの?」

「・・女の人の・・声?」

静乃[「自動、空間結合まで、カウントダウンを開始します。」]

(小さなひよこは。 くちばしをパクパクさせ。
女性の声で、カウントダウンを開始した。)

紫苑「何の・・カウントダウン?」

(驚いた紫苑は、ひよこを手に。
立ちつくした。)

(明るく長いベージュ色の髪が、ピンク色に染まる頬を包み。
赤い、大きなリボンの下で。 紫苑の胸は高鳴った。)

静乃[「5秒前・・。」]

***

夏樹「はっ!」

(その時。 夏樹は、すぐそばで、
“闇”の気配がしていることに初めて気付いた。)

(自分に向けられた、強い視線の気配に遮られ。
“闇”の気配が、側に来るまで。

気づけずにいた。)

-11-

夏樹「・・可動している・・。」

(夏樹は、左腕にかけた黒い腕時計が。
作動し始めたのを見た。)

夏樹「僕じゃない。」

ピッ

(恐ろしい不安にかられ、
瞬時に前方を見た。)

(“闇”の気配が流れ出したその場所に。)

(1台のバスが止まり。
扉が開いた。)

ガガッ

(おそらく、今朝見かけた、女性が。
降り立つであろうその場所に。)

(茫然と、立ちつくしている
一人の少女がいる。)

(茶色のプリーツのスカート。
制服に身を包むその少女の手に、

小さな、黄色いひよこが乗っているのを
夏樹は見た。)

静乃[「4・・。」]

夏樹「・・!」

『うそだろう・・!』

-12-

(夏樹の嫌な予感は、
的中した。)

夏樹『だめだっ・・!』

ダッ

(夏樹は、少女に向かって

走り出した。)

ピッ

(自分の腕時計からも聞こえ出した。
カウントダウンの音と共に。)

(鼓動が、大きくなる。)

トクン・・

(街中の風が、
走り出す夏樹の上着を舞い上がらせた。)

***

菖蒲「はっ・・!」

「白さんっ・・。」

「大変です、夏樹様の自動空間誘導システムが

作動しています。」

(リムジンの運転席のモニター画面で。
夏樹の行き先の、データ変化を追っていた、菖蒲が。)

-13-

(突然の、異変に気付いた。)

(四角い縁取り眼鏡の奥で、真剣な瞳が画面を見つめる。)

菖蒲「・・いえ・・。

これは、いつもと違いますね。

ひょっとして、ひよこさんの方の反応でしょうか?」

(後部座席で。 毛布から、顔を上げた白が、
映像に切り替わったモニターを指さした。)

(毛布に身を包む白の、
白く流れる髪の奥、うつろな瞳は。 その場の緊張感からは、
かけ離れていたが。)

(眠りかけた白が、顔を上げたことは。
言われなくとも、良くない状況を示していた。)

「まずい~よ~・・、菖蒲ちゃ~ん・・。

見てごら~ん・・。 女の子だ・・。」

「女の子が~・・、ぴよちゃんを~・・。

持ってるよ~・・。 どうしよう~ねぇ~・・。」

(白の声は、こんな時でさえ、眠気を誘うようだった。)

菖蒲「!

追いかけます!」

-14-

菖蒲「掴まっていて下さい。」

ギギッ

(菖蒲は、白手袋の手で、
素早くギアチェンジし。 リムジンを急発進させた。)

ゴオオッ

「うわっ・・・。」

(後部座席で、白が、毛布と一緒に。 動き出した衝撃に、
クッションソファーの上に弾き飛ばされた。)

***

「ニャァ」

(黒ネコは、
紫苑まで、あと数歩のところまで来ていた。)

(そう、遠くない位置に。

乱れる青髪の奥。 赤い瞳を、鋭く光らせる。
フェルゼンがいる。)

(フェルゼンは、ゆっくりと。
身体を、夏樹の走り出す先へ向けた。)

静乃[「3・・。」]

フェルゼン「・・消えろ・・。」

トクン・・

(しかし、今は、

-15-

風と走り出した、夏樹のもとに。

フェルゼンの視線は、届かない。)

夏樹「はぁっ・・!」

ダッ

(走る先。

深い紺色の瞳に見えているのは。

目の前に立つ、少女だけだった。)

ピッ

トクン・・

紫苑「あっ!」

(突然、目の前に走り込んでくる。
夏樹の姿に、紫苑の明るい茶色の瞳が

大きく見開かれる。)

紫苑「・・・っ!」

(現れた少年の。 白い肌は、まるで透き通るよう。
流れる深い紺色の髪。
自分に向けられた、大きな、深い紺色の瞳は。

輝き、吸い込まれるように鮮やかだった。)

紫苑『きれいな目・・。』

-16-

(ほんの数秒の間に。)

(紫苑に触れる、ぎりぎりの距離に、
夏樹は、駆けこんだ。)

ダッ

静乃[「2・・。」]

(空間が途切れる瞬間。)

(腕をいっぱいまで伸ばし、
紫苑に手を差し出す。)

夏樹『届いた・・!』

紫苑「きゃっ・・。」

(紫苑は。 伸ばした手が。 触れるほど近づいた、
色白の少年に驚き、思わず目を閉じた。)

静乃[「1・・。」]

夏樹「手をっ・・!」

紫苑「はっ・・。」

(考えている暇はない。
夏樹の声に、目を開いた紫苑は、

目の前に差し出された。
白い指先に、触れた。)

夏樹「くっ・・!」

(おぼつかない紫苑の手を、

-17-

夏樹は強く握り直し。

自分の元へ、強く引き寄せた。)

ピーンッ

静乃[「・・空間結合完了。」]

ゴォォッ

ドオーンッ

***

(風見市、小町通り商店街に。
淡い黄色の光柱がきらきらと煌めき。
すぐに消えたのが見えた。)

(光の柱は、
側にいた、黒ネコを弾き飛ばし。)

(歩を進めようとした、フェルゼンの侵入を拒んだ。)

(新しい闇と共に。
夏樹と紫苑を、別空間へと導いた。)

***

-18-









Chapter21
『道しるべ』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapterの各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

SCENARIO

『太陽と月』

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