Scenario

Chapter37『時を生きる』

***

(聖は、アンティークの門の前に立った。)

(目の前に広がるローズガーデン、生い茂る緑の枝が、
より深く。 暗く。
仄暗い夜の森の中で、自分の位置さえも、見失いそうなのは。
空間移動の中の、道に似ていた。)

カサッ

(香るハーブを抜け、聖の真っ白な靴に、
夜露と、心地良い香りが、付く。)

「今日は・・、

君に、話したい事がある。」

「君以外に、聞いてくれる人なんて、

居ないからね。」

『辺りを取り巻く、強いバラの香りが。 僕の目的地を示していた。』

『どこへ行っても。 ここへ、帰って来られる様に。』

(聖の、流れるような、銀色の髪が。
夜空の雲の切れ目から、差し込む月明かりに。 時折煌めく。)

「くっくっ。 ここへ来る事を、晃君に、叱られても

仕方がない。」

「さぼっている様に見えて、当然だろうね?」

(聖は、頭上に高くそびえる。 バラの砦の様な、枝で作られた壁を見上げた。)

-1-

「それに・・。」

「結界創りに、集中しないから。」

(聖は、バラの壁の先へ。 星空の彼方へ目を細めた。)

「僕は・・、

別に、闇化を防ぎたいわけじゃない。」

(見上げる聖の銀の髪や。 幾つもの金の装飾が、
月明かりの下で、煌めいた。)

「だって、そうだろう?」

「分かっている事は、一つ。」

「皮肉にも。 “時の欠片”は、

闇化しなければ、取り出せないのだからね・・。」

(金色の瞳は、流れる銀髪の奥で。 揺れた。)

(白いスーツ姿の足は、まだ、アンティーク扉の前で止まっていた。)

「くっくっ。

君は、意地悪だ・・。」

『この扉の向こうに、いつも居るとは限らない。』

「僕が君を愛した代償に。

まるで、僕を試している様だね・・。」

-2-

キンッ

(聖は、左手の指にかけた。
幾つもの銀の指輪の中から、煌めく銀の鍵飾りを外した。)

『屋敷の裏手にあるガーデンの奥に。

この特別なバラの庭は、いつでもそこにあったが。』

カチャッ・・

(聖は、銀の鍵を、アンティークの扉に差し。
鍵を開けた。)

キイッ

『・・思い出には・・。』

『誰もがいつでも、出会えるとは限らない。』

『だから僕は。

扉を開ける前に、

深い、紺色の瞳を思い描いた。』

トッ

(扉の向こうは、四方をバラの壁に囲まれた。
広く、四角く切り取られた。 芝生の庭になっていた。)

トッ

(白いスーツの裾が、金の装飾を煌めかせ。 靡く。)

「会えたね。」

-3-

「粒樹。」

(聖の視線の先に、仄かな月明かりの中で、
眩いほど輝く、不思議な少女が立っていた。)

粒樹【・・聖・・。】

(呼ばれた少女は、聖の声に振り返った。)

粒樹【また、ここへ来たの・・?】

【わたしは・・。】

【あなたに・・、さよならと言ったのに・・。】

(少女は、バラに触れていた手を離した。)

(少女の、小さな白い素足。 柔らかな芝の上に、夜露を気にせず、
立っていた。 まるで少女自身から、光が発せられているかの様だ。)

『夏っちゃんは、どこか

君に似ているよ。』

(小さな足元に、透き通る、長く白いレースのワンピース。 淡いグラデーションに、
ピンクに色づき。 重なり合い揺れた。)

(小さな胸にも、重なり合う繊細なレース。)

(緑の芝生に映る、淡いピンク色の色彩が、
儚く。)

(胸元に、光るビーズのアクセサリーが。)

(真っ白な、素肌を引き立てていた。)

-4-

『驚くくらい、色白で。』

『深い、紺色の髪をしてる。』

(小さな、白い頬にかかる。
夏樹と同じ、深い紺色の髪。 右横の髪に、胸元と同じ光のビーズ飾り。)

(柔らかな短いソバージュの髪が、
透明な素肌の、頬を覆っている。)

『それから、夜空みたいに綺麗な目は・・。』

『君と、同じだ。』

「くすくすくすっ。

僕は、別れを告げた覚えは、無いけどね。」

(聖は、金色の瞳を揺らし、笑った。)

「会えて良かった。

君に、話したい事があったんだ。」

(聖は、粒樹の側に寄った。)

粒樹【なあに?】

【きっと・・彼の事ね・・。】

(粒樹は、優しげに。 すぐ隣で、自分を見る、
聖の金色の瞳を見上げた。)

「夏っちゃんを、彼女に会わせたのは、君かい?」

-5-

「粒樹・・。」

粒樹【どうして・・?】

「くっくっ。

おかげで、夏っちゃんが、屋敷を出ることになったよ。」

「夏っちゃんは、願いが叶った様だが。

僕の方は、大変困ったよ。」

粒樹【・・嘘。】

【あなたは、そう望んでた。】

「そうかな?

確かに。 夏っちゃんが、より街に近づけば。

より、“闇”を見つけやすいだろう。」

粒樹【・・いいえ。】

【そうじゃないわ。】

「ん?」

粒樹【彼が・・。

“闇”に負けないくらい・・。

強くなる為・・。】

【そして・・。】

-6-

粒樹【いつか、あなたの願いを止めるため・・。】

(粒樹は、深い紺色の瞳で聖を見つめた。)

「・・粒樹。」

(聖は、粒樹に触れるほど近づき。
そっと、長い指先で。 粒樹の深い紺色の、柔らかなソバージュの髪を撫でた。)

「くっくっ。 誰にも、僕の願いを止めることは

出来ないよ?」

「もしも、そうなら困ったことになる。」

「僕の願いを阻むものがあるのなら・・、

僕は、全力で。 立ち向かわなければいけないな。」

「それが、誰であろうと。」

(聖は、粒樹の小さな頬に触れた。)

粒樹【もしも、誰かを傷つけることになっても・・?】

(粒樹は、聖に問いながら。 自分の頬に触れている。
銀の指輪の光る手に、そっと。 白い小さな手を重ねた。)

「そうだね。」

(金の瞳が月明かりに揺れた。)

粒樹【誰かを、裏切る事になっても・・?】

(聖は粒樹に触れ、引き寄せると。 静かに。 傍らにあるベンチに腰を下ろした。)

-7-

「そうだ。」

(粒樹は、ベンチに座り同じ視線になった聖の。
輝く、金色の瞳を。 深い紺色の瞳で見つめた。)

粒樹【大切なものを・・失くしても・・?】

「ああ。」

(二人の距離は、縮まり。
粒樹は、小さな膝を。 聖の膝の上に乗せた。)

(幾重にも重なる、淡いレースの裾が。
聖の白いスーツの上に、舞う。)

粒樹【・・たった一人に・・なっても・・?】

(深く、ベンチに背中を沈ませた聖の。
視線の先で。 覆う様に、粒樹は、聖の瞳を上から覗いた。
深い紺色のソバージュの髪が。 聖の頬に触れる。)

(粒樹は、聖の胸に。 小さな身体を預けた。)

「くっくっ。 理解されないのは、今に始まったことじゃない。」

「そんな事は、平気さ。」

粒樹【・・聖・・。】

【わたしは・・。

あなたに・・、幸せになって。

ほしいのに・・。】

「粒樹・・。 気付かない振りはよしてくれ。」

-8-

「僕が、君と居る今。

どれだけ幸せか。

気付いていないわけじゃないだろう?」

粒樹【・・・。】

(粒樹は、聖に触れ。 吐息が届く傍で、
小さな唇を震わせた。)

粒樹【・・ごめんなさい・・。】

「・・!・・」

(粒樹の深い紺色の瞳からは。
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。)

「・・粒樹。」

(聖は、粒樹を抱き寄せ、口付けた。)

(深い紺色の。 柔らかなソバージュの髪が揺れる。 小さな頭を。
銀の指輪が光る大きな手が、強く支えた。)

粒樹【・・・っ。】

(二人は幾度か口付けた。)

『思い出は・・。』

『僕の心を揺り動かし。』

『時には、僕の心に力を宿す。』

-9-

(決して、消えることの無い思い出と、出口の扉さえ見失う。
四方を取り囲むバラの海の中で、二人は。 甘く強い芳香に包まれた。)

『囚われてはいけないと、知りながら。』

『魔力の様に惹きつける。 甘い香りが。

僕達を包んでいた。』

(深い紺色の瞳は、こぼれそうな涙の雫をいっぱいに集め。
潤んでいた。)

粒樹【あなたは・・、思い出を選んだりしない・・。】

【もっと大切なものが・・、必ずあるから・・。】

「粒樹・・。」

(まるで、淡雪の様に儚い。 粒樹の身体を、聖は支えた。)

(目の前で、夜露と甘い香りを纏い。 聖の流れる、銀髪が揺れた。)

「僕の願いは・・

ただ一つ。」

「君を取り戻す事だ。」

「君と出会ったあの時から・・、何年経っただろうか?」

「必ず、君を元に戻してみせる。」

(金色の瞳は、強い光を放った。)

(粒樹の真摯な言葉は、聖に届かず。
少しも、聖の意志を揺るがさない。)

-10-

粒樹【・・困った人・・。】

「くっくっ。

僕に、諦めさせようとしても無駄さ。」

「この事を話すのは。 君だけと決めている。」

「晃君に、殺されたくないからね。」

(微笑む、聖の白いネクタイに。 FOT No.1と刻まれた、
金色のネクタイピンが光る。)

「君が。 唯の思い出だと言うのなら、

せめて僕に笑顔を見せてくれ。」

粒樹【(にこっ。)】

(粒樹は、微笑んだ。)

粒樹【わたしは、あなたの思い出・・。 あなたが望む時。 いつでもここに居るわ・・。】

【それでも・・、あなたと共に・・。】

【時を生きる事は、出来ないの・・。】

***

-11-









Chapter37
『時を生きる』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapterの各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

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