***
(聖は、アンティークの門の前に立った。)
(目の前に広がるローズガーデン、生い茂る緑の枝が、
より深く。 暗く。
仄暗い夜の森の中で、自分の位置さえも、見失いそうなのは。
空間移動の中の、道に似ていた。)
カサッ
(香るハーブを抜け、聖の真っ白な靴に、
夜露と、心地良い香りが、付く。)
■聖「今日は・・、
君に、話したい事がある。」
「君以外に、聞いてくれる人なんて、
居ないからね。」
『辺りを取り巻く、強いバラの香りが。 僕の目的地を示していた。』
『どこへ行っても。 ここへ、帰って来られる様に。』
(聖の、流れるような、銀色の髪が。
夜空の雲の切れ目から、差し込む月明かりに。 時折煌めく。)
■聖「くっくっ。 ここへ来る事を、晃君に、叱られても
仕方がない。」
「さぼっている様に見えて、当然だろうね?」
(聖は、頭上に高くそびえる。 バラの砦の様な、枝で作られた壁を見上げた。)
-1-
■聖「それに・・。」
「結界創りに、集中しないから。」
(聖は、バラの壁の先へ。 星空の彼方へ目を細めた。)
■聖「僕は・・、
別に、闇化を防ぎたいわけじゃない。」
(見上げる聖の銀の髪や。 幾つもの金の装飾が、
月明かりの下で、煌めいた。)
■聖「だって、そうだろう?」
「分かっている事は、一つ。」
「皮肉にも。 “時の欠片”は、
闇化しなければ、取り出せないのだからね・・。」
(金色の瞳は、流れる銀髪の奥で。 揺れた。)
(白いスーツ姿の足は、まだ、アンティーク扉の前で止まっていた。)
■聖「くっくっ。
君は、意地悪だ・・。」
『この扉の向こうに、いつも居るとは限らない。』
「僕が君を愛した代償に。
まるで、僕を試している様だね・・。」
-2-
キンッ
(聖は、左手の指にかけた。
幾つもの銀の指輪の中から、煌めく銀の鍵飾りを外した。)
■聖『屋敷の裏手にあるガーデンの奥に。
この特別なバラの庭は、いつでもそこにあったが。』
カチャッ・・
(聖は、銀の鍵を、アンティークの扉に差し。
鍵を開けた。)
キイッ
■聖『・・思い出には・・。』
『誰もがいつでも、出会えるとは限らない。』
『だから僕は。
扉を開ける前に、
深い、紺色の瞳を思い描いた。』
トッ
(扉の向こうは、四方をバラの壁に囲まれた。
広く、四角く切り取られた。 芝生の庭になっていた。)
トッ
(白いスーツの裾が、金の装飾を煌めかせ。 靡く。)
■聖「会えたね。」
-3-
■聖「粒樹。」
(聖の視線の先に、仄かな月明かりの中で、
眩いほど輝く、不思議な少女が立っていた。)
■粒樹【・・聖・・。】
(呼ばれた少女は、聖の声に振り返った。)
■粒樹【また、ここへ来たの・・?】
【わたしは・・。】
【あなたに・・、さよならと言ったのに・・。】
(少女は、バラに触れていた手を離した。)
(少女の、小さな白い素足。 柔らかな芝の上に、夜露を気にせず、
立っていた。 まるで少女自身から、光が発せられているかの様だ。)
■聖『夏っちゃんは、どこか
君に似ているよ。』
(小さな足元に、透き通る、長く白いレースのワンピース。 淡いグラデーションに、
ピンクに色づき。 重なり合い揺れた。)
(小さな胸にも、重なり合う繊細なレース。)
(緑の芝生に映る、淡いピンク色の色彩が、
儚く。)
(胸元に、光るビーズのアクセサリーが。)
(真っ白な、素肌を引き立てていた。)
-4-
■聖『驚くくらい、色白で。』
『深い、紺色の髪をしてる。』
(小さな、白い頬にかかる。
夏樹と同じ、深い紺色の髪。 右横の髪に、胸元と同じ光のビーズ飾り。)
(柔らかな短いソバージュの髪が、
透明な素肌の、頬を覆っている。)
■聖『それから、夜空みたいに綺麗な目は・・。』
『君と、同じだ。』
「くすくすくすっ。
僕は、別れを告げた覚えは、無いけどね。」
(聖は、金色の瞳を揺らし、笑った。)
■聖「会えて良かった。
君に、話したい事があったんだ。」
(聖は、粒樹の側に寄った。)
■粒樹【なあに?】
【きっと・・彼の事ね・・。】
(粒樹は、優しげに。 すぐ隣で、自分を見る、
聖の金色の瞳を見上げた。)
■聖「夏っちゃんを、彼女に会わせたのは、君かい?」
-5-
■聖「粒樹・・。」
■粒樹【どうして・・?】
■聖「くっくっ。
おかげで、夏っちゃんが、屋敷を出ることになったよ。」
「夏っちゃんは、願いが叶った様だが。
僕の方は、大変困ったよ。」
■粒樹【・・嘘。】
【あなたは、そう望んでた。】
■聖「そうかな?
確かに。 夏っちゃんが、より街に近づけば。
より、“闇”を見つけやすいだろう。」
■粒樹【・・いいえ。】
【そうじゃないわ。】
■聖「ん?」
■粒樹【彼が・・。
“闇”に負けないくらい・・。
強くなる為・・。】
【そして・・。】
-6-
■粒樹【いつか、あなたの願いを止めるため・・。】
(粒樹は、深い紺色の瞳で聖を見つめた。)
■聖「・・粒樹。」
(聖は、粒樹に触れるほど近づき。
そっと、長い指先で。 粒樹の深い紺色の、柔らかなソバージュの髪を撫でた。)
■聖「くっくっ。 誰にも、僕の願いを止めることは
出来ないよ?」
「もしも、そうなら困ったことになる。」
「僕の願いを阻むものがあるのなら・・、
僕は、全力で。 立ち向かわなければいけないな。」
「それが、誰であろうと。」
(聖は、粒樹の小さな頬に触れた。)
■粒樹【もしも、誰かを傷つけることになっても・・?】
(粒樹は、聖に問いながら。 自分の頬に触れている。
銀の指輪の光る手に、そっと。 白い小さな手を重ねた。)
■聖「そうだね。」
(金の瞳が月明かりに揺れた。)
■粒樹【誰かを、裏切る事になっても・・?】
(聖は粒樹に触れ、引き寄せると。 静かに。 傍らにあるベンチに腰を下ろした。)
-7-
■聖「そうだ。」
(粒樹は、ベンチに座り同じ視線になった聖の。
輝く、金色の瞳を。 深い紺色の瞳で見つめた。)
■粒樹【大切なものを・・失くしても・・?】
■聖「ああ。」
(二人の距離は、縮まり。
粒樹は、小さな膝を。 聖の膝の上に乗せた。)
(幾重にも重なる、淡いレースの裾が。
聖の白いスーツの上に、舞う。)
■粒樹【・・たった一人に・・なっても・・?】
(深く、ベンチに背中を沈ませた聖の。
視線の先で。 覆う様に、粒樹は、聖の瞳を上から覗いた。
深い紺色のソバージュの髪が。 聖の頬に触れる。)
(粒樹は、聖の胸に。 小さな身体を預けた。)
■聖「くっくっ。 理解されないのは、今に始まったことじゃない。」
「そんな事は、平気さ。」
■粒樹【・・聖・・。】
【わたしは・・。
あなたに・・、幸せになって。
ほしいのに・・。】
■聖「粒樹・・。 気付かない振りはよしてくれ。」
-8-
■聖「僕が、君と居る今。
どれだけ幸せか。
気付いていないわけじゃないだろう?」
■粒樹【・・・。】
(粒樹は、聖に触れ。 吐息が届く傍で、
小さな唇を震わせた。)
■粒樹【・・ごめんなさい・・。】
■聖「・・!・・」
(粒樹の深い紺色の瞳からは。
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。)
■聖「・・粒樹。」
(聖は、粒樹を抱き寄せ、口付けた。)
(深い紺色の。 柔らかなソバージュの髪が揺れる。 小さな頭を。
銀の指輪が光る大きな手が、強く支えた。)
■粒樹【・・・っ。】
(二人は幾度か口付けた。)
■聖『思い出は・・。』
『僕の心を揺り動かし。』
『時には、僕の心に力を宿す。』
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(決して、消えることの無い思い出と、出口の扉さえ見失う。
四方を取り囲むバラの海の中で、二人は。 甘く強い芳香に包まれた。)
■聖『囚われてはいけないと、知りながら。』
『魔力の様に惹きつける。 甘い香りが。
僕達を包んでいた。』
(深い紺色の瞳は、こぼれそうな涙の雫をいっぱいに集め。
潤んでいた。)
■粒樹【あなたは・・、思い出を選んだりしない・・。】
【もっと大切なものが・・、必ずあるから・・。】
■聖「粒樹・・。」
(まるで、淡雪の様に儚い。 粒樹の身体を、聖は支えた。)
(目の前で、夜露と甘い香りを纏い。 聖の流れる、銀髪が揺れた。)
■聖「僕の願いは・・
ただ一つ。」
「君を取り戻す事だ。」
「君と出会ったあの時から・・、何年経っただろうか?」
「必ず、君を元に戻してみせる。」
(金色の瞳は、強い光を放った。)
(粒樹の真摯な言葉は、聖に届かず。
少しも、聖の意志を揺るがさない。)
-10-
■粒樹【・・困った人・・。】
■聖「くっくっ。
僕に、諦めさせようとしても無駄さ。」
「この事を話すのは。 君だけと決めている。」
「晃君に、殺されたくないからね。」
(微笑む、聖の白いネクタイに。 FOT No.1と刻まれた、
金色のネクタイピンが光る。)
■聖「君が。 唯の思い出だと言うのなら、
せめて僕に笑顔を見せてくれ。」
■粒樹【(にこっ。)】
(粒樹は、微笑んだ。)
■粒樹【わたしは、あなたの思い出・・。 あなたが望む時。 いつでもここに居るわ・・。】
【それでも・・、あなたと共に・・。】
【時を生きる事は、出来ないの・・。】
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Chapter37
『時を生きる』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
シナリオは、Chapterの各場面です。
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