Scenario

『8月1日(継承)』

Chapter1『花火』

(冷たいソーダを手に、二人は。 大きな緑の樹の下の、
ベンチに腰を下ろした。)

(木陰が心地良く、頭上にはためく、鮮やかな旗や風船が。
優しい風を連れ、座る二人を包んだ。)

紫苑 「わぁ/// おいしい!」

(紫苑は嬉しそうに、ソーダを飲んだ。)

紫苑「お散歩カフェ『花』」

紫苑「可愛い名前ね。 遊びに来て良いって、言ってたね。」

(紫苑は、可愛らしいカップと、お店の看板を見て、
夏樹を覗いた。)

夏樹「うん。」

(夏樹は、何か考えている様子で。 カップを片手に、まだ口を付けずに、
見つめていた。)

夏樹「natural cafe『青』(ナチュラルカフェ アオ)」

(夏樹が呟き、紫苑が瞬いた。)

紫苑「え?」

(夏樹は、首を振り、微笑んだ。)

夏樹「ううん。 ・・、夢の中で。」

夏樹「父と母が、カフェを開いてた。」

夏樹「僕がまだ、生まれる前のことで。 昔の記憶かもしれない。」

(白い指先の中で。 鮮やかな、紫色のソーダが、
小さな泡を弾かせていた。)

夏樹「(すぅ・・。)」

(夏樹は、目を閉じ、カップの中のソーダの香りに想いを馳せた。)

夏樹「母が、ラベンダーソーダを作っていたんだ。」

(爽やかな香りと一緒に、弾ける炭酸が、夏樹の肌に当たった。)

夏樹「(こくっ)・・、おいしい!」

(鼻に届く香りと、喉に染みる冷たさを噛み締め。 夏樹は、目を細めた。)

(こうして、紫苑と並び、ソーダを飲み、夏樹の胸に、想いが湧き上がっていた。)

夏樹「僕もこんな風に生きられたらって・・、思った。」

(紫苑は、瞳を輝かせた。)

紫苑「え・・?」

(夏樹はソーダを片手に、穏やかに微笑んでいた。)

(子供たちの声が、行き過ぎる。 家族連れは、幸せそうだった。)

***

千歳「夏樹には、夢がある?

どんな夢?」

(幼い夏樹の手を、温かな母の手が握っていた。)

(もう、その温もりはない。 深い紺色の瞳が、手の中の、
鮮やかな紫色のソーダに、映る記憶を見つめた。)

(記憶の中の、幼い夏樹は。 戸惑い、母を見上げた。)

小夏樹「もしも、かなわなかったら・・?」

(母は、穏やかに微笑んだ。)

千歳「夢は、叶うのよ。 夏樹。」

千歳「夢はね、形を変えてゆくの。

夏樹が一番望んでいる形に。

一番、幸せになれる形に。

気づいてゆくのよ。」

千歳「夢は、叶うのよ。 夏樹。」

(母の言葉は、迷いなく。 強く心に残った。)

夏樹『このまま、僕の命は、消えてゆくのだろうか。』

***

(霧雨が、夏樹の頬を濡らす。 星空を覆い隠す雲が、頭上に立ち込め始めたが。)

(人々の熱気は絶えず。 雨が降らぬことを願う思いと、打ち上げの時を待ちわびる
期待に。 辺りは包まれた。)

ソラ「夏樹、こっちだ。」

ソラ「ここから、良く見える。」

(ソラは、遮る物の無い、開かれた場所へ、夏樹を案内した。)

(だが、花火を見ようと、集う人々は増え。 ソラたちは、熱気の中に。
押し合い立った。)

紫苑「夏樹くん。 ドキドキするね!」

(紫苑は、夏樹の傍に立ち。 人波に押され、夏樹に寄り添い、星空を見上げた。)

(高鳴る鼓動に、つま先立ち、両手を合わせる。 紅潮する頬に、髪がかかる。
熱気に包まれる汗と、小雨の滴が。 髪を頬を。 瞬く睫毛を濡らした。)

夏樹「うん。」

(夏樹は、皆の喜びの中に、立っていることを感じた。)

夏樹『聖。』

(夜風は、心地良く。 熱をはらみ。 強く、夏樹を鼓舞する。)

紫苑「は・・っ。 夏樹くんっ。」

(広場に灯っていた街灯が。 全て消えた。)

(息を飲み、時が止まるような時間。 広場に集う皆が、星空を見上げた。)

(太陽が落ち、夜に変わったばかりの空は、深い紺色に。 雲間にも、星を強く、輝かせた。)

夏樹『あなたが、僕に、本当の、力の使い方を教えてくれた。

目に見えるものが、すべてではない。』

(紫苑は緊張感に思わず、夏樹のシャツの袖を握った。)

夏樹「くすっ。」

(夏樹は、微笑んだ。)

ソラ「時間だ。」

ソラ「ミイ、し~っ。」

(ソラも、傍で、隠れ行く、星空を見上げた。)

ミイ「きゃぁっ///」

(ミイは、ドキドキした。)

春人「3(さん)」

(春人がカウントダウンを開始した。 駆が続いた。)

「2(に)」

ソラ「1(いち)」

夏樹『風を、味方につけ。

大切な人を想うのだ。

そうすれば、強い力が出る。』

(ソラの合図を待っていたように。 ポッと、夜空に、炎が瞬いた。)

夏樹「はっ。」

(夏樹は、息を飲み。 小さな炎が。 夜空に上る、軌跡を追った。)

(花開く、一瞬を、夢見て。)

***

(頬杖をつく、長い指先に。 いくつもの銀の指輪が煌めく。)

(聖は、瞳を閉じ。 静かに、その時を待っていた。)

(その表情は、穏やかで。 一瞬。 この世の苦しみから、解き放たれるようだ。)

(花開くことを待ちわびながら、その時が、訪れなければと、願った。)

***

夏樹『あなたは、彼女のことを想い続けた。

だから強い。』

(息が止まる一瞬。 夏樹は、見上げる視線の先と、隣り合う皆の体温を感じた。)

夏樹『あなたは、僕に、居場所をくれた。』

(ミイの表情は輝き、ソラの腕を抱いた。 指さす夜空に、
眩い、花火が。 花開く。)

ミイ「ああ~~っ!/// ソラ、綺麗っ!」

ドーンッ

(海岸から打ち上がる花火は、大きく。 皆の頭上に、鮮やかに開いた。)

ソラ「すげーっ。」

(水色の瞳は、輝いた。)

(花火は、音楽とコラボレーションするものだった。 大きな花火の音に、
重なる、心揺さぶられる音楽。)

(強くなる雨に、消えることのない熱気に包まれる。)

夏樹『ここに居てもいいと、言ってくれた。』

(大きくなる、雨粒が。 深い紺色の髪を、白い肌を濡らす。 感動に包まれ、
立つ紫苑の赤らむ頬に、ベージュ色の髪に、滴が流れたが、もう濡れることも気にならず。
二人は、熱く、燃えるような心を抱き。 雨に、燃え立つ、
鮮やかな花火を見つめ。 濡れる身体で、強く手を取り合った。)

夏樹『僕は、あなたと。

あなたの残した、FOTの皆のことを想おう。』

夏樹『そして、あなたが導いてくれた。

僕の友。

そして、君のことを。』

ドーンッ

ドーンッ

(晃は、風見市全体と、海浜公園の結界を見つめた。)

(眩い火花が、海面に散るのを見る。)

(光と葵。 白と剛も、結界の中を注視した。)

***

(鮮やかな花火と、ドラマチックな音楽が、辺りを包む。
強くなる雨を、物ともせず。 人々は、花開く夜空に歓喜した。)

夏樹「降り始めたね。」

(夏樹は、頭上に、次々と上がる花火を見つめ。 目に焼き付けようと、
大きく開く、深い紺色の瞳に。 雨粒を受け。 隣に立つ紫苑に、振り向いた。)

(紫苑は、雨の中。 夏樹を見上げ、頷いた。)

紫苑「うん。」

夏樹『僕は少しずつ、君に触れていたんだろう。

国家機密組織として、

僕は、僕の力を胸に秘めて来た。』

(二人は、手を離さなかった。)

(本降りに成り始める雨が、冷たく打ち付けたが。 離れなかった。
いつ中止になるか、なれば二人の時間は、壊れると思われた。)

夏樹「終わらないで欲しい。」

夏樹「花火が、消えないと良いね。」

(紫苑も、同じ思いだった。 強くなる雨が、頬を伝い、髪を濡らす。
お洒落に、カールした髪も、髪飾りも。 雨が台無しにしてしまったが。)

(紫苑は、構わず、微笑んだ。)

ドクンッ

夏樹『だけど、君の前で、君を守るために、

風を使った。』

***

(人々が、雨雲に隠れる、夜空を見上げる中。 FOTのメンバーは、人々とは反対の方へ。
地上に張り巡らされた、結界の中を。 人々の無事を願い、見つめた。)

***

夏樹『君の傍(そば)で暮らし。

僕が何を想い、何を願うか。

君は知った。』

***

(議事堂の室内に、最後に残された空席に。 首相である石垣は着席した。
円形に頭上に灯る。 ランプの明かりに、人々の表情は見えない。)

夏樹『そうやって、少しずつ君に触れ。

僕は、秘密を解き。

僕になったんだろう。』

(議事堂と、対面するように。 異空間の向こうで、聖は、目を閉じていた。)

(鮮やかな花火。 音楽が、止まる時を待つ。)

(互いの存在は、見えなかったが。 張り詰める空気に。 時を待つのは、同じだった。)

夏樹『もう一度、生まれるような気がした。

僕の命と。 鍵(かぎ)と。』

***

ドクンッ

(人々は、雨の中、喜びに湧いていた。 飛び上がる人々。
両手を、雨に。 負けずに、次々と頭上を染め、花開く花火に。 高く伸ばした。)

夏樹「・・・。」

(夏樹は、口を開いた。)

紫苑「ふふっ。」

(紫苑は、微笑んでいた。 強まる雨に、前が良く見えない。
クライマックスを迎える、花火は。 強く、無数に開き。 激しく、雨を割り、
地面を震わせる、打ち上げ音に。)

(互いの声は、届かないように思え。 苦しみや悲しみ、全てのものが、小さくなり。
溶けあうその空気に。 一つになる躍動する命の音と。 喜びに満ちる時の中に。
二人は、皆と共に。 同じ空を見上げた。)

夏樹『世界に隔たりが無い。

僕はまるで、解き放たれ。

子供の頃から、味わったことのない世界に。

身を置いたようだった。』

夏樹『まるで

結界の無い場所に。

僕は立っていた。』

(夏樹が、何か言ったような気がして、紫苑は瞬き微笑んだ。)

紫苑「・・?」

(激しい打ち上げ音に、言葉を交わすことさえ、無理だ。)

(それで、良いように思えた。 夏樹は、微笑み。 味わったことのない感覚に。
間違いなく、生涯で。 忘れられないひと時を。 今に感じた。)

夏樹「くすっ。」

(大粒の雨に濡れる瞳は、頬は。 赤く染まり。 微笑んでいた。
互いの想いを、上手く言えずに。 持て余す心が、流れ出る。)

(微笑みながら、躍動する時に。 瞳を伝うのは、涙かもしれなかった。)

夏樹「紫苑さん。」

(最後を飾る、大輪の花火が。 夜空を染める前に。)

(一瞬の、静寂が訪れた。)

(雨粒が、舞い散る花火の火の粉を。 きらきらと反射し、紫苑の瞳を輝かせ。
頬を、髪を。 伝う滴を煌めかせる。)

紫苑「なあに?」

夏樹『僕と、世界を。

君とを、隔てるものは、何もない。

僕が、望んだ場所だった。

僕の、夢だ。

僕たちは、同じ場所に、立っていた。』

(静寂は、一瞬で。 紫苑は、その言葉を予期していなかった。)

(僅かな時。 夏樹は、ただの人間として。
初めて、そこに、存在していた。)

(夏樹自身も、そのことを、予期していなかった。)

(ただ、口をついて、形になった。)

(何も、考える余裕は無かった。)

(それが、最後を。 もたらすとは、思いもしなかった。)

ヒュー・・

ババババババッ

ドーンッ

ドーンッ

(紫苑は、驚き。 信じられない表情で。 夏樹を見た。)

夏樹「君が、好きだ。」

(最後の花火の前、僅かな静寂の中。 聞こえた夏樹の声が、
紫苑を震わせた。)

(紫苑には、もう、何も見えなかった。)

(考えることは出来ず。 ただ、せきを切った様に、あふれ出す心のままに。
夏樹を両手で、抱き締めた。)

紫苑「・・・っ、・・・っ。」

(雨が、激しく、二人を打った。)

(最後を飾る、大輪の枝垂れ花火が。 頭上に花開く。)

(人々の歓声。 海の上へ、地上へ。 人々の上へ。)

(長く、消えぬように、尾を引く。 枝垂れ花火が。 金色に、二人の頭上に、
降り注いだ。)

ババババババッ

ドーンッ

***

(地響きと共に、黄金色の火花が、暗い夜空を覆いつくした。
何が起きたのか、奇跡的な変化をもたらした出来事は、一瞬で。)

(菖蒲は、驚き。 瞬いた。 雨の滴が、眼鏡にかかり、
金の滴が、視界を覆う。)

菖蒲「夏樹様・・。」

(菖蒲は、この時を胸に焼き付け。 瞳を滲ませた。)

ソラ「やったな! 夏樹!」

(ソラは、拳を握り。 雨が。 歓喜する頬を、身体を。 伝う。)

(それは不思議と心地良く。 祝福を受けるように思えた。)

ミイ「夏樹さんっ/// 紫苑ちゃん・・///」

(ミイは喜びに、叫びたい気持ちを抑え、口元を覆った。)

(佐織も、千波も、チイも。 静乃も、駆も、春人も。 ピュアも。)

(皆が、喜びに包まれ。 二人を見つめた。)

(夜空を明るく燃やす、金の花火の中。 二人は、強く抱き合っていた。)

(強くなる雨が、作る。 水たまりが、眩しく花火を映す。)

(二人の足元と、空。 全ては、金色の滴に包まれていた。)

***

石垣「“闇化”を開始せよ。」

(石垣の光の無い、灰色の瞳が。 眼鏡の奥で、鋭く前を見た。)

石垣「これより、“Fragment of Time Project”を始動する。」

(彩は向き合い、口を開いた。)

「“闇化”を起こして。」

***







『8月1日(継承)』

Chapter1『花火』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

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『8月1日(継承)』

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