(夏樹は、祭りに興じる人々。 また、嵐に叫ぶ人々の間を、
駆け抜けた。)
(走りざまに、“闇化”する人々を見極め。
FOTの、聖の創り出す結界の中へ。 誘導した。)
(風が、雨を弾く。)
(嘆いている暇は無かった。 元凶である、自らが。 風に触れる度、
“闇化”は起こる。)
(いや、自らが呼吸し。 生きていることが、“闇化”を起こしている。)
(ソラの魔法の抑制が効かぬほどに、夏樹の感情は、流れ出し。
鼓動する“鍵”が、辺りに黒い波動を漂わせた。)
■夏樹「晃(あきら)さん・・!」
■夏樹『狐次郎が、僕の情報を、晃さんの物とすり替えたと言っていた。』
■夏樹「あいつは、“鍵”の在り処を探りに来る。」
■夏樹「僕のために・・、誰かを。 傷つけさせたくない・・。」
(夏樹の思いと裏腹に、晃は。
自らを、守りの無い場所に置き。 静かな表情で、FOTが創り出してゆく結界を。
見つめていた。)
***
■聖「邪魔だよ。 晃(あきら)君・・。」
(薄く開いた、金色の瞳が。 空間の向こうから。
その光景を見ていた。)
■聖「くっくっ。」
(自分はここに居ると、言いたげに。 無防備に立ち。 それでいて、満足そうに、
仲間の様子を見つめている。 晃の笑顔に。
聖は、面倒くさそうに笑った。)
■聖「君の。 そういうところが、
嫌いだ。」
***
■夏樹「はぁ・・っ、はぁっ。」
(雨の中、夏樹は、晃の元へ向かい走った。)
(聖の注意が、晃に向いているのを感じた。
挑戦的な晃の行動は、聖の感情を逆撫でた。)
ピコンッ
■夏樹「・・はっ、菖蒲(あやめ)。」
(呼び出し音に、夏樹は立ち止まり。 雨の雫が滴る手で、
通信機を起動した。)
■菖蒲[「夏樹様。 数馬(かずま)様の元へ向かってください。」]
(夏樹は、迷い、首を振った。)
■夏樹「だめだ・・! 晃さんが、結界の外に居る。 おとりになるつもりだ。」
(菖蒲の傍で、静乃が通信機を手にした。)
■静乃[「夏樹くん。 数馬くんと、春日(かすが)さん一家が一緒に居るの。」]
■静乃[「お願い、行って。」]
(静乃の言葉に、夏樹は、瞬時ためらいながら、苦渋の決断をした。)
■夏樹「・・・っ!」
ダッ
(雨が、白いシャツを濡らす。 水たまりを蹴る、スニーカーが、
風を纏い、夏樹を前に進ませた。)
(だが、頭上で、闇夜を照らす、稲妻が。
あちこちで、戦闘が起こっていることを、映し出していた。)
(滴る雨に、夏樹は、顔を歪めた。 雫を払い。 深い紺色の髪を掻き上げる。)
(夏の熱を冷ます、雨は。 人々から、幸せを覆い隠し。
激しく打ち付ける先は、見えず。 稲光が、暗闇の中に。
目を背けたくなる現実を、見せた。)
(夏樹の見上げる、空の彼方まで。 覆い隠す、結界が無数に広がっている。)
(それだけの数の“闇”が、今起こり。
戦いが起こっていた。 自らの向かう先を示していた。 決して、
普通の人々が、向かう場所へは戻れない。)
■夏樹「はぁ・・。 はぁっ。」
(祭の中、人々の笑顔の中に、居られた時は。 幻だった。)
(幸せは、一瞬で、壊れるものに思われた。)
■夏樹「壊させない・・。」
(深い紺色の瞳は、鋭く光り。
クリーム色に結界が。 淡く、振動するのを、見た。)
■夏樹『聖。』
■夏樹「僕は、守る。」
***
【ガアァァァァーッ!】
【ゴワッ・・!】
ボキキッ・・ グシャッ
(猛烈なスピードで、数を増す“黒い獣”。 男は、筋骨の目立つたくましい腕一本で。
みなぎる力と、素早さを合わせ持ち。 雨を弾き、黒い血飛沫を上げ、獣たちを倒した。)
■剛「おうら! まだまだ!」
(男は、獣に負けぬ、荒々しさで。 雨に吠えた。)
バシャシャッ・・
(見開く麗の瞳に。 前方から、雨よりも激しく、水飛沫を上げ。
強い水流に乗り、白いシルエットの人物が。 もう一人、姿を現した。)
ピチャンッ
(現れた長身の男の腕の中で。 先ほど、剛と呼ばれた男が
倒した、獣が。 姿を変える。)
シュゥゥゥーッ ドロロッ・・
(倒した獣の身体は。 白い髪の、気だるげな表情を浮かべる男の腕の中で。
黒い滴から、透明な水に。 解き明かされるように、
本来の少女の姿を取り戻した。)
■白「“時の欠片”がこんなに“闇化”(やみか)するなんて、」
■白「さすがに、夏っちゃんの力は~・・、強いね。」
■白「もう。 じきに~・・、結界は~・・。」
■白「もたないよ。」
(男は。 絶望的な、うつろな瞳で。 激しい雨空を見上げた。)
■音々「“時の欠片”・・?」
■音々「お前たち、能力者か!」
(音々は、麗の腕の中から、顔を上げた。)
■麗「音々ちゃん!」
(麗は、止めたが。 音々は男たちの前に、躍り出た。)
■剛「おおっと。 少年。 お嬢ちゃん。」
■剛「FOT(エフオーティー)の結界に入り込むとは。」
■剛「あんた達も、誰かの友達(フレンド)《Friend》かい?」
(巨大な男は、“闇”の返り血を浴びたまま。 雨に濡れる鋭い瞳で、
音々を覗き込んだ。)
■音々「(ヒッ)化け物・・!」
(音々は、“闇”の香りから離れる様に、麗の方へ身を引いた。)
■剛「がっはっはっ!」
(剛は笑い、口に付いた黒い飛沫を。 大きな手でぬぐった。
頬に伸びる、黒い跡に、音々は身震いした。)
■音々「こいつらが原因だって、父が言ってた!」
■音々「国に背いた、反逆者たちだって。」
■音々「この街を、こんな風にした、元凶を隠し持ってる。」
(剛は聞き、面食らったあと、笑った。)
■剛「お嬢ちゃん。 俺たちが、倒れたら。
この場所は、お終いだ。」
(剛は、“闇”の雫の滴る顔で、音々の顔を覗き込んだ。)
■剛「お嬢ちゃん、記憶を無くさねーとは。」
■剛「国側の関係者かい?」
(麗が、剛と音々の間に、割って入った。)
■麗「ここから。 音々ちゃんと俺を。 もとの場所へ、戻してくれ。」
■麗「頼む。」
(両手を上げ、降参のポーズを取り、下手に出る麗に。
音々は、愕然とした。)
(麗を意気地がないと思った音々は、思い切り拳で、
麗の背中を殴った。)
■音々「ばかっ!!」
(麗は、音々の拳を掴んだ。)
■麗「俺に、音々ちゃんを守らせて。」
(音々は、驚き、瞳を開いた。)
■音々「!」
(剛は、にっと笑い、身体を起こした。)
■剛「少年。 良い判断だ。」
■剛「お嬢ちゃん、たやすく能力者に触れるもんじゃねーぜ。」
■剛「戦いを知らない人間は、噂だけで、判断しやがる。」
■剛「まだ、戦いを。 その目で見るには、早い。」
(音々は、剛に。 子供だと、馬鹿にされた様に思った。)
■剛「帰りな、お嬢ちゃん。」
(剛は、麗と音々を、異空間の中から、送り出した。)
シュンッ・・!
(麗と、音々は。 淡いクリーム色の光が。 自分たちを押し出すのを感じた。)
(眩い光に、瞬き、麗は、音々の肩を抱き留めた。)
(音々は怒りと恐怖に、肩を震わせた。)
(花火が終わり、約束の時間を過ぎても、青葉は訪れない。)
(音々は、はっとし。 雨の中、麗を見つめた。)
■音々「青葉(あおば)は、知りすぎてるんだ。」
■音々「きっと、能力者に接触してるっ。」
(音々は言うと、携帯を取り出した。 雨に濡れて、手が震え。
上手くボタンを押せない。)
■音々「・・っ、青葉っ!」
■音々「電話に出てっ!」
(音々は、携帯を手放し。 麗の腕を掴んだ。)
■音々「青葉を探してっ! 来させたらだめだっ
ぜったいに!」
(音々はもう、雨の中へ走り出した。)
(思ったら一直線の音々に。 麗は、雷鳴の中で唇を噛んだ。)
■麗「待てって!」
(麗は、混乱する頭を、振り払った。 見上げる頭上には、無数の淡いクリーム色の
輝きがある。 幾つも浮かび上がる異空間へと続く結界が。
次々と現れる怪物を、閉じ込め。 地上から切り離す。)
■麗「遊園地の、アトラクションってわけじゃねーよな。」
■麗「さっきの人たちが、戦ってるんだ。」
(麗は、信じられない気持ちで、雨の中を、駆け抜けた。)
***
『8月1日(継承)』
Chapter2『嵐』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。
■物語全文はこちらから。
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