Scenario

『8月1日(継承)』

Chapter3『闇』

「くそっ。 この“闇”(やみ)の数。」

「簡単に、晃(あきら)のところまで、通してくれない。」

(光は、空間通路を渡り、“闇”を人々から切り離し。)

(通信機で、晃の位置を確認した。)

「白(しろ)さんが向かっているわ。 私たちは、街の人々を

守るようにと。」

(葵は、光の怒りを収めるように、静かに頷いた。)

(白が、晃の元へ向かいながら、“闇”に足止めされる様子が伝わる。)

『晃。』

「あいつっ。 聖(ひじり)とやり合うつもりか?」

「聖が、国が、夏樹を狙いに来ることを。 あいつは知ってる。」

「馬鹿が、かっこつけやがって。」

(光は、強い煌めきで、“闇”を仕留め。 元の人の姿に戻し、抱き留めた。)

***

(夏樹に、迷っている暇はなかった。
雨に浮かぶ観覧車は。 虹色のイルミネーションを覆い隠すほど、
無数の真っ黒な“闇”に覆われている。)

(ゴンドラは、春日一家を乗せ、頂上で止まっている。)

【ゴォォォォーッ!】

(“闇”の吠え声が響き。 ゴンドラを揺らした。)

(イルミネーションの明かりが、点滅し。
闇夜を引き裂く、雷鳴が、地面を揺らした。)

コォッ・・

(風が、夏樹を包み込み。 雨を切り、夜空へ運ぶ。)

(雨粒の向こうに、深い紺色の瞳が、“闇”を捉えた。)

ゴォォーッ!

ガシャーンッ

【ガァァァァーッ!】

(春日家を乗せたゴンドラは、上空で大きく傾いた。)

(一体の“闇”が、窓ガラスを破り、侵入口を得た。)

バリッ ビシュシュッ・・ ドロッ

ボトッ ボトトッ

蒲公英「きゃぁぁっ!///」

(蒲公英は、悲鳴を上げ。 桜にしがみ付いた。
誠司は、ガラスの破片から、皆を守る様に、桜と蒲公英の身体を覆った。)

バリリッ!

数馬「このっ・・! どけ~っ!!」

グワッ!

(数馬の力が創り出す、土で出来た、動物の形の可愛らしい戦士たちは。
“闇”をゴンドラから離そうと。 格闘していた。)

(窓ガラスの侵入口から、顔を出した、恐ろしい“闇”を、
うさぎのぬいぐるみ型の土の戦士が。 可愛らしい手で、引き離した。)

【ゴォォーッ!】

(“闇”の力はこれまでよりも強く。 巨大に開いた無数に牙を持つ口が、
うさぎの首を噛み切り、鋭い爪を持つ獣の腕が、戦士を。 無残な土塊に戻した。)

数馬「!」

数馬「くっそっ!」

(数馬は、悔しさに歯噛みした。)

蒲公英「数馬くんっ!///」

蒲公英「きゃぁっ!」

(蒲公英は、叫んだ。 “闇”は再び、勢いを増し。 破られたガラス窓に、
飛び付いた。)

ビシャッ・・ ガガガッ!

(一匹が、窓ガラスから顔を突き出し。 長い舌で、中にいる人間の香りを探る様に
呼吸した。 もう一匹が、我先にと。
狭いガラスを突き破り。 穴を広げる。)

「あなたっ・・!」

(桜は青ざめ、蒲公英を抱えた。 窓は破れ、ゴンドラは、崩れ落ちそうに
揺れた。)

(数馬の視線の先で、土塊に変わってゆく、動物たち。 窓の外、ゴンドラを支える
鉄の柱は、しがみ付く無数の“闇”で、黒く覆われ。
数を増す、黒い怪物が。 残された一つのゴンドラを目がけ。 群がっていた。)

数馬「・・・っ!」

(数馬は思わず、目を閉じかけた。)

(黒く覆われてゆく、窓の外。 赤い、無数の目が。 こちらを見て瞬いている。)

ゴオッ

(数馬が、諦めかけた一瞬。 強い風が、吹いた刹那。)

(窓から、こちらへ突き出していた、“闇”が。 強い力で後ろへ引き戻された。)

ゴバァッ!

【ガアアァァァーッ!】

ババババババッ!

(強い風が、“闇”を巻き取り。 ゴンドラへ群がる、黒い塊を。
夜空の向こうへ、引き離してゆく。)

数馬「夏っちゃんっ!!」

(安堵と喜びに。 数馬の瞳に、涙が弾けた。)

誠司「夏樹君・・。」

(誠司は、桜と蒲公英をかばいながら、顔を上げた。)

(ゴンドラを支える、鉄の柱の上に。 嵐の中、風を纏い現れたのは、
夏樹だった。)

ゴオオオッ

(引き剥がされて行く、黒い“闇”の向こうに、
夏樹の白い腕が。 見える。 白い肌に、闇夜の中、
鋭く煌めく、深い紺色の瞳の眼光が。 月明りを受け、
眩しく光る。)

ゴババババッ!

バキキッ・・

ガガガガッ

誠司「!」

(誠司は、桜と蒲公英。 そして、数馬を抱え。
叫んだ。)

誠司「伏せて。」

(夏樹の風と、“闇”は激しく衝突し。 打ち付ける“闇”が
観覧車の巨大な柱を圧し折り。 耳に響く轟音を上げながら、
七色のイルミネーションをショートさせ。
崩壊してゆく観覧車は、ゆっくりと。 傾き。)

(分解し、落下する柱と、ゴンドラが、
土と、水飛沫を上げ、地面に突き刺さった。)

バキキキッ ドーンッ

誠司「夏樹君・・!」

(誠司の見つめる先で、“闇”を四散させた風が。
深い紺色の髪を、真っ白な肌を、
暗闇の中に、浮かび上がらせる。)

(深い紺色の瞳の鋭い輝きは。
怒りに満ちているように見えた。)

ゴオオォォォーッ

(風は、春日一家の乗るゴンドラを包み。
衝撃を与えぬ様、そっと。 地面に下ろした。)

ドッ ガクンッ

夏樹「大丈夫ですか。 すみません、

外へ。」

(夏樹は、ゴンドラのドアをこじ開け。
白い腕を、桜に差し出した。)

「ええ。」

(桜は、戸惑い。 夏樹に手を出した。
夏樹は、強く、桜の腕を引き。
蒲公英と二人を、外へ出した。)

「・・・。」

(強く引く、夏樹の腕は白く。 冷たく、
雨に混じり、黒い“闇”の飛沫が、白い手に、頬に掛かっている。)

(深い紺色の瞳は、微笑んでいたが。
風の力を宿す、瞳の奥は。 底知れぬ気配を発し。 煌めく紺色の深い輝きに。)

(桜は、どこか、触れてはいけない、恐ろしさを覚えた。)

夏樹「怪我は、ありませんか。」

(覚醒した風の力は、夏樹を包み。
躍動する“鍵”が、夏樹の胸を鼓動させる。)

(止まることのない波動が、流れ出し、夏樹の胸は痛んだ。)

夏樹『記憶の保持を許された、春日一家(かすがいっか)だけが、

取り残されている。』

(夏樹は、居たたまれない気持ちで、深く頭を下げた。)

夏樹「危ない目に会わせて、すみません。

ここを離れてください。」

(顔を上げた誠司が、微笑み、頷いた。)

誠司「私たちは、大丈夫です。」

誠司「皆を、避難させるよう、手配します。」

誠司「夏樹君。 君は、行くべきところへ。」

(誠司は、体を起こし。 夏樹の腕を、強く掴んだ。)

誠司「気を付けて。 必ず、帰って来て下さい。」

誠司「でなければ、迎えに行きます。」

(夏樹は、微笑んだ。)

夏樹「はい。」

夏樹「数馬。(かずま)」

夏樹「頼んだぞ。」

(夏樹は、“闇”の滴る白い手で、数馬の頭を。
カラフルな帽子の上から、強く撫でた。)

数馬「わっ///」

数馬「わかってるっ!」

(数馬の目に、涙が浮かんだ。)

数馬『・・・っ。』

(思っていても、力の足りない、自分が悔しかった。)

(紺色の瞳は、微笑んでいたが、
透き通る肌は、蒼白で。 皆を残し、飛び立って行く
夏樹の横顔は、悲痛に見えた。)

蒲公英「数馬くん。」

(蒲公英が進み出て、夏樹を真似て、帽子の上から、数馬の頭を撫でた。)

蒲公英「よくがんばりました!」

(数馬は驚き、見開く瞳から。 涙が弾けた。)

数馬「・・っ、ああ・・っ。」

数馬「行くぞ。」

数馬「みんなを無事に、帰す。」

(熱を持つ、数馬の頬に、涙がこぼれた。)

(数馬は、気にせず。 拳で、涙を拭った。)

数馬「きっと。 雨は、止む。」

(お気に入りの帽子を。 数馬はぎゅっと、被り直した。)

***







『8月1日(継承)』

Chapter3『闇』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

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