Scenario

『8月1日(継承)』

Chapter4『結界』

(晃は、雨の中呼吸し。 両手で、押さえ付ける時雨の身体の向こうに。
怒りを纏い、こちらへ向かってくる。 善の殺気を捉え。)

ポッ ポッ・・

(さらにその奥に。 こちらの様子に気づき、姿を現した、
もう一人の人物を捉えていた。)

「時雨。 手を離せ。」

「俺から離れろ。」

(晃は、自分を押さえ付けている、時雨の肩を掴み。
引き離そうとした。 だが、頑として、時雨は動かなかった。)

「くっ。

汚れるのが、嫌いじゃなかったのか?」

「いつも俺が、服を汚すと。

文句を言っていたじゃないか?」

(晃は笑い、いつも整う時雨の、美しい髪が。
ほつれるのを見て、血の滲む、左手で、そっとなぞった。)

時雨『!』

時雨「見す見す、お前だけ、逝かせるか。」

(遠く善は、行く手を遮る妖魔を切り捨てながら。
二人の元へ近づいた。)

【言いたいことは、それだけか・・。 “鍵”を持つのはお前か・・?】

「残念だな。 外れだ。」

【ギャギャギャ・・ッ】

ザバッ・・!

「離れろ、時雨。」

(考えを変えない晃に、時雨は、怒りをぶつけた。)

時雨「そんなに、あいつの処へ逝きたいのか?」

時雨「ならば、俺を殺してから、逝け。」

(晃は、驚き、瞬いた。)

「・・そうじゃない。」

「あいつは嫉妬深い。」

「俺に、触れていては、巻き込まれるぞ。」

(晃の言葉に、時雨は、眉をひそめた。)

時雨「何を言っている・・?」

バキッ

(魑魅魍魎は、晃に向かう善を遮る様に、絶え間なく、
善に向かい襲い掛かった。)

【邪魔だ・・っ!】

(善は、怒りに燃え。 ハエを追う様に、残された右手で妖魔を払った。)

(怒りに湧く、瞳は赤く燃え。 晃だけを見ていた。)

ポチャンッ・・

サーッ・・

(雨は降りだし、
石灯籠の上に。 敷石の上に。 影を残す。)

(静かに、破られた幔幕の下に。
姿を現した者が居る。)

ザーッ・・

(雨音に、静かに歩む、草履の足。
黒い袴に、長い黒髪がなびく。)

ポウッ

(灯籠の炎に、浮かび上がる黒袴の青年の姿は。
仄かな残像の様でありながら、しっかりと。 質感を帯び、
幔幕から、黒い鳥居へ。)

(破壊された、本殿の様子を。
横目に見た。)

(雨の中。
即座に、眩い光が、煌めいた。)

ザッ キンッ・・

(時宗は、抜刀した。)

ザザザッ・・!

ザバッ・・!

(善が、気付いた時には遅かった。)

【何・・!】

【ゴワァァァァーッ】

(振り向いた善の目に映るのは、素早く舞う、刀の切っ先だった。)

(身軽に闇夜を駆け抜ける青年が。 黒い袴をたなびかせ
善の周りに巣くう、妖魔たちを、あっという間に切り捨てた。)

【ギャギャギャッ】

ザッ・・!

(それは、善を助けるためでは無かった。)

【!】

(視界を邪魔する者を、先程の善が、そうした様に。
払い除けたに過ぎなかった。)

バッ・・!

(飛び散る妖魔の残骸が。 目の前を通り過ぎる。
抜けた先の向こうに、見えたのは。)

(鋭い刀の切っ先。)

「時宗!(ときむね)」

(晃は止めようとしたが、時雨を引き寄せただけで、
すでに、間に合わなかった。)

時雨「!」

(振り返った時雨の瞳に。 振り下ろされる刀が見える。)

(それも束の間。 刀は、
視線を上げた、善の胸を。 力強く貫いた。)

ズバッ!

【・・ぐっ。】

(時雨は瞳を開いた。 身を横たえる、時雨の前に立っていた。
善の身体は、硬直し。 時宗の刀が、突き刺さっていた。)

【(・・ごぼっ。)】

(力を込め、刀は、善の胸を貫通し。 切っ先は、
背後にいる、時雨の目の前に。 迫った。)

時雨「・・!」

(半月型の眼鏡が、赤に染まる。)

(時宗の、黒い着物の袂から、白い腕がのぞく。)

(時宗は、善に止めを刺しながら、その鋭い視線は。
善ではなく、背後の時雨に向けられていた。)

ズッ・・

(時宗の怒りは、時雨に向けられているように見えた。)

時雨『化け物が・・。』

時雨『術者の命を絶ち、術を解くか・・。』

(晃は、助かった。 だが、時雨には、この者が味方には、思えなかった。)

【・・謀(たばか)ったな。】

ズッ・・ ゴキッ・・

(振り向いた善は、胸を貫く刀に。 手を掛けた。)

(だが時宗は、さらに深く刀を差し込み。
骨を砕く音が響く。)

【・・お前が・・、当主か・・?】

(時宗は、力を弱めず。 善を貫いたまま、
目を細めた。)

時宗『〈お前には・・。〉』

時宗『〈“鍵”(かぎ)は探せまい。〉』

時宗『〈“鍵”と同じ、魂を持つ者だけが、触れるであろう。〉』

ズバッ!

(時宗は、刀を引き抜き。
善は、倒れた。)

ドザッ

フェルゼン【あはははははっ!】

ドウンッ・・!

(たちまち、善の身体から。 透明な、フェルゼンの身体が、浮かび上がる。)

(フェルゼンの身体は、黒い衝撃を生み出し、
辺りの残骸を弾き飛ばしながら、上空へ舞い上がった。)

(血溜まりの中に倒れていた、善の身体は。 黒い煙を上げ、
消えた。)

ゴォォォォーッ

(黒煙に乗り、透明なフェルゼンは、空間通路を逆流した。)

バッ・・ ゴオオオオーッ!

フェルゼン【謀(たばか)ったな。】

フェルゼン【・・謀ったな。 あの女・・!】

フェルゼン【あはははははっ!】







『8月1日(継承)』

Chapter4『結界』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

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『8月1日(継承)』

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