(晃は、雨の中呼吸し。 両手で、押さえ付ける時雨の身体の向こうに。
怒りを纏い、こちらへ向かってくる。 善の殺気を捉え。)
ポッ ポッ・・
(さらにその奥に。 こちらの様子に気づき、姿を現した、
もう一人の人物を捉えていた。)
■晃「時雨。 手を離せ。」
■晃「俺から離れろ。」
(晃は、自分を押さえ付けている、時雨の肩を掴み。
引き離そうとした。 だが、頑として、時雨は動かなかった。)
■晃「くっ。
汚れるのが、嫌いじゃなかったのか?」
■晃「いつも俺が、服を汚すと。
文句を言っていたじゃないか?」
(晃は笑い、いつも整う時雨の、美しい髪が。
ほつれるのを見て、血の滲む、左手で、そっとなぞった。)
■時雨『!』
■時雨「見す見す、お前だけ、逝かせるか。」
(遠く善は、行く手を遮る妖魔を切り捨てながら。
二人の元へ近づいた。)
■善【言いたいことは、それだけか・・。 “鍵”を持つのはお前か・・?】
■晃「残念だな。 外れだ。」
【ギャギャギャ・・ッ】
ザバッ・・!
■晃「離れろ、時雨。」
(考えを変えない晃に、時雨は、怒りをぶつけた。)
■時雨「そんなに、あいつの処へ逝きたいのか?」
■時雨「ならば、俺を殺してから、逝け。」
(晃は、驚き、瞬いた。)
■晃「・・そうじゃない。」
■晃「あいつは嫉妬深い。」
■晃「俺に、触れていては、巻き込まれるぞ。」
(晃の言葉に、時雨は、眉をひそめた。)
■時雨「何を言っている・・?」
バキッ
(魑魅魍魎は、晃に向かう善を遮る様に、絶え間なく、
善に向かい襲い掛かった。)
■善【邪魔だ・・っ!】
(善は、怒りに燃え。 ハエを追う様に、残された右手で妖魔を払った。)
(怒りに湧く、瞳は赤く燃え。 晃だけを見ていた。)
ポチャンッ・・
サーッ・・
(雨は降りだし、
石灯籠の上に。 敷石の上に。 影を残す。)
(静かに、破られた幔幕の下に。
姿を現した者が居る。)
ザーッ・・
(雨音に、静かに歩む、草履の足。
黒い袴に、長い黒髪がなびく。)
ポウッ
(灯籠の炎に、浮かび上がる黒袴の青年の姿は。
仄かな残像の様でありながら、しっかりと。 質感を帯び、
幔幕から、黒い鳥居へ。)
(破壊された、本殿の様子を。
横目に見た。)
(雨の中。
即座に、眩い光が、煌めいた。)
ザッ キンッ・・
(時宗は、抜刀した。)
ザザザッ・・!
ザバッ・・!
(善が、気付いた時には遅かった。)
■善【何・・!】
【ゴワァァァァーッ】
(振り向いた善の目に映るのは、素早く舞う、刀の切っ先だった。)
(身軽に闇夜を駆け抜ける青年が。 黒い袴をたなびかせ
善の周りに巣くう、妖魔たちを、あっという間に切り捨てた。)
【ギャギャギャッ】
ザッ・・!
(それは、善を助けるためでは無かった。)
■善【!】
(視界を邪魔する者を、先程の善が、そうした様に。
払い除けたに過ぎなかった。)
バッ・・!
(飛び散る妖魔の残骸が。 目の前を通り過ぎる。
抜けた先の向こうに、見えたのは。)
(鋭い刀の切っ先。)
■晃「時宗!(ときむね)」
(晃は止めようとしたが、時雨を引き寄せただけで、
すでに、間に合わなかった。)
■時雨「!」
(振り返った時雨の瞳に。 振り下ろされる刀が見える。)
(それも束の間。 刀は、
視線を上げた、善の胸を。 力強く貫いた。)
ズバッ!
■善【・・ぐっ。】
(時雨は瞳を開いた。 身を横たえる、時雨の前に立っていた。
善の身体は、硬直し。 時宗の刀が、突き刺さっていた。)
■善【(・・ごぼっ。)】
(力を込め、刀は、善の胸を貫通し。 切っ先は、
背後にいる、時雨の目の前に。 迫った。)
■時雨「・・!」
(半月型の眼鏡が、赤に染まる。)
(時宗の、黒い着物の袂から、白い腕がのぞく。)
(時宗は、善に止めを刺しながら、その鋭い視線は。
善ではなく、背後の時雨に向けられていた。)
ズッ・・
(時宗の怒りは、時雨に向けられているように見えた。)
■時雨『化け物が・・。』
■時雨『術者の命を絶ち、術を解くか・・。』
(晃は、助かった。 だが、時雨には、この者が味方には、思えなかった。)
■善【・・謀(たばか)ったな。】
ズッ・・ ゴキッ・・
(振り向いた善は、胸を貫く刀に。 手を掛けた。)
(だが時宗は、さらに深く刀を差し込み。
骨を砕く音が響く。)
■善【・・お前が・・、当主か・・?】
(時宗は、力を弱めず。 善を貫いたまま、
目を細めた。)
■時宗『〈お前には・・。〉』
■時宗『〈“鍵”(かぎ)は探せまい。〉』
■時宗『〈“鍵”と同じ、魂を持つ者だけが、触れるであろう。〉』
ズバッ!
(時宗は、刀を引き抜き。
善は、倒れた。)
ドザッ
■フェルゼン【あはははははっ!】
ドウンッ・・!
(たちまち、善の身体から。 透明な、フェルゼンの身体が、浮かび上がる。)
(フェルゼンの身体は、黒い衝撃を生み出し、
辺りの残骸を弾き飛ばしながら、上空へ舞い上がった。)
(血溜まりの中に倒れていた、善の身体は。 黒い煙を上げ、
消えた。)
ゴォォォォーッ
(黒煙に乗り、透明なフェルゼンは、空間通路を逆流した。)
バッ・・ ゴオオオオーッ!
■フェルゼン【謀(たばか)ったな。】
■フェルゼン【・・謀ったな。 あの女・・!】
■フェルゼン【あはははははっ!】
『8月1日(継承)』
Chapter4『結界』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。
■物語全文はこちらから。
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