Scenario

『8月1日(継承)』

Chapter5『青葉』

【ガァァァァーッ】

(壊れそうな結界の中で、“闇”は吠え。
辺りを振動させた。)

(雨の中、雷鳴に逃げてゆく人々。
祭りの熱に興じて、止まる人がいる。)

(誠司が、遊園地の関係者と連絡を取り。
非難を促したが、場は混乱していた。)

(破れそうな、結界の中で、
“闇”が暴れる様子を。 菖蒲は。
紫苑の前で、盾になりながら、間近に見つめた。)

【ガァァッ】

(新たな“闇”が、結界に捕らえられた“闇”の前に。
菖蒲たちの前に、上空から落下した。)

ドササッ

菖蒲「!」

菖蒲「夏樹様!」

(“闇”が落下するのと同時に。 風を纏う夏樹が、
菖蒲の前に。 強い風を巻き起こし、舞い降りた。)

ゴオッ バシャシャッ

(夏樹は、“闇”を風で包み、結界の中へ、放ると。
菖蒲と、紫苑。 皆に向かい、微笑んだ。)

夏樹「大丈夫か、菖蒲。」

夏樹「皆も。」

(夏樹は、皆の無事を確認した。)

ピュア「ピュアも守るですv」

(辺りには、ピュアの魔法。 “虹のベール”が
まるで、傘の様に開き。 皆を雨と“闇”の攻撃から、守っていた。)

夏樹「ありがとう、ピュア。」

(虹色に光る魔法が、雨粒を光らせ。 きらきらと零れ落ちる様子を、
夏樹は、眩しそうに見つめ。 微笑んだ。)

***

『それは、守りのベールを解くためだった。』

『油断させ。 懐(ふところ)に飛び込む。』

『最も大切なものが何か。』

『見失った者に、目を覚まさせるため。』

(彩は、瞳を開き。 息を飲んだ。)

「青葉(あおば)さんは、どこ?」

(彩の中で、時が止まる様に思えた。
彩は、モニターを切り替え。 病院と通信した。)

幸(看護師)[「先生? 青葉(あおば)さんは病室です。 何も変わりは・・、」]

「良く見て!」

(彩の言葉に、看護師は、顔色を変えた。)

幸(看護師)[「そんなはずはっ! そんなっ、」]

幸(看護師)[「さっきまでここに!」]

(聞いて、彩の瞳が、涙に滲んだ。)

「分かったわ。」

「何が、大切なのか、分かった。」

(モニターの向こうで、病院内は、混乱していた。
だが、彩の目は。
モニターを見ずに。)

(石垣を見て。 潤んだ。)

「遠い夢と、理想ばかり見たわね。」

「一番大切なものは、

私の患者だった。」

(彩は、微笑み。 涙が伝う。)

「あなたにとってもよ。」

「石垣首相。(いしがきしゅしょう)」

(石垣は、怒りに燃え。 瞳を開いた。)

「大切な人は、たった一人だったはず。」

「お金と地位。 名誉に眩んで。」

「多くの物を、手にしようとした。」

(彩の目から、止めどなく涙が零れた。
彩の言葉に、石垣は。 炎の様に、怒りが湧いた。)

「もう、間に合わないわ。」

「FOTを信じ切れなかった。」

「そんな甘い考えで、世界は救えないと思った。」

『夏樹君。』

「あの紺色の瞳を。」

「信じるべきだった。」

(彩は、涙を零し、叫んだ。)

「それだけで、良かったのに!」

(彩は、意を決し。
議事堂を、飛び出した。)

バタンッ

(動き出せない大臣達に向かい、
石垣が吠えた。)

石垣「部隊を出動させろ!」

(大臣達は、躊躇い、息を飲んだ。 FOTに非は見出せず。 民間人に犠牲者が
出ることを、避けられる見込みはない。)

石垣「構わん!」

石垣「理由など、必要ない。」

石垣「捕えた後、地下施設で。 “闇化”させてやる。」

(頬骨が目立つ顔は、心労で黒ずみ。
爛々と光る瞳は。 骸骨の中に灯る炎の様だ。)

(取り付かれたように。 石垣の顔は変わった。)

ドクンッ

【くっくっくっ・・。】

(背後に、善の笑い声が響く。)

石垣「FOTと“鍵”の宿主。 彩と契約した能力者を。」

石垣「始末する。」

(石垣の目は、鋭く前方を見た。)

【僕が・・。】

【本当は・・、何を望んだか。 分かるかい?】

【くっくっ。 お前だよ。】

【お前が、この国を、動かしているんだろう?】

【その力を、僕におくれよ。】

【もう少しで。】

【お前の心は、僕のものだ。】

(石垣は、怒りに身を任せ。
迫る危機に、気付けなかった。)

(善の魔法は、彩を通し。 石垣を捕らえようとしていた。)

石垣『聖・・。(ひじり)』

石垣『貴様・・っ。 貴様という奴は・・っ!』

石垣『青葉・・っ!(あおば)』

***

(歯ぎしりする、石垣の視線の先に。
空間の扉の先に。 こちらを見ている、聖が居る。)

「始まりだね。」

(金色の瞳が、流れる銀髪の奥で、輝いた。)

「願いを。」

『守りたいものを。』

「失った者が、負ける。」

(夜光に、真っ白なスーツが光り、
聖は、立ち上がった。)

「さて。」

「行こうか。」

***

(鋭い瞳で、周囲を睨む。
嵐を避けてゆく人々に反して。
遠く。 一人、雨の中。 立ち止まる少女が居る。)

狐次郎「首相(しゅしょう)の一人娘?」

(瞬時に。 狐次郎は。 聖の意図を察した。)

狐次郎「アホが。」

狐次郎「あの能力者が。 来やがった。」

(次の瞬間。 狐次郎は、予想した、最悪のシナリオ通りに。
雷雨に、目の前に。 駆け込んで来る人物を。
横目で捉えた。)

狐次郎「夏樹!」

ガッ・・! ドッ

(狐次郎は、夏樹の他に。 もう一人。
少女に向かい、姿を現した。 少年から、夏樹の姿を隠すように。)

(雨に走り込んできた、夏樹の腕を掴み。
自らが身を隠していた、アトラクションの建物の。 狭い路地に、
夏樹を引き込んだ。)

夏樹「(はぁっ)・・! 狐次郎!」

(不意に両腕を掴まれ、深い紺色の瞳は、困惑し、狐次郎を見上げた。)

(雨音が、二人を隠す。 底知れぬ“闇”を秘めた、深い紺色の瞳は燃え。
息が掛かる距離で睨む、狐次郎の吊り上がる瞳を映した。)

(狐次郎は、夏樹を全力で押さえ込んだが。 細く白い夏樹の腕は、
満身の力で、狐次郎をはね除けようとしていた。)

夏樹「見逃してくれ。」

狐次郎「馬鹿野郎が。」

(揺れる、紺色の瞳を捉え。
夏樹を抵抗できぬ様、路地の外壁に、身体ごと押さえ付けた。)

狐次郎「行かせたら、死ぬじゃねーか。 ひっひっ。」

(夏樹は、怒りを覚え、狐次郎を睨んだ。 だが、狐次郎は譲らず。
夏樹の冷たい身体を、全身で受け止めた。)

夏樹「離してくれ。」

狐次郎「離せるか。」

夏樹「!」

夏樹「僕を、かばったら、お前も命が無いぞ。」

(深い紺色の瞳の内側に、“闇”が灯るようで、怒りに燃える白い肌に、
深い紺色の瞳を包む。 睫毛に。 頬に。 零れる雨粒に、狐次郎は息を飲んだ。)

夏樹「頼む。 離してくれ。」

(夏樹は、狐次郎の腕の中で、抵抗を止めなかった。)

狐次郎「させるか。」

狐次郎「忘れろ。」

狐次郎「あのお嬢ちゃんは、寿命が尽きてる。」

ゴオッ!

夏樹「嘘をつくな。」

(抑えきれず、夏樹は叫び、堪えられない思いが。 風を湧き起こした。)

狐次郎「馬鹿野郎が。」

(狐次郎の瞳が、滲んだ。 夏樹が、自分に、風の力を使うまいと、
堪えているのが、分かった。)

(だが、長身の狐次郎に、腕力で敵うはずも無かった。)

狐次郎「“時の欠片”が生かしていただけだ。」

(狐次郎は、あえて、その言葉を告げた。)

夏樹「嘘だ!」

夏樹「青葉は、生きている!」

夏樹「僕とは、違う。」

夏樹『生きる価値も無い、僕とは違う。』

(狐次郎は、歯ぎしりした。)

狐次郎「分かってるんだろう、おめぇだって。」

狐次郎「それが、運命だ。」

(狐次郎は、夏樹に。 一言一言。
刻むように、言葉を告げた。)

夏樹『・・っ!』

夏樹「運命は、変えられる。」

(夏樹は、心の中に。 ソラの、水色の瞳を、思い描いた。)

狐次郎「ふざけんじゃねー!」

(狐次郎の瞳が揺れ、夏樹を壁に、押さえ付けた。)

(夏樹から伝わる、冷たい体温が。
狐次郎に、夏樹も青葉と同じだと。 伝えていた。)

(子供の頃、死んでしまった夏樹の身体は。
夏樹の中に秘められた、粒樹の心臓。 “鍵”と呼ばれる、巨大な“時の欠片”の
力により。 生かされているに過ぎない。)

夏樹「・・っ!」

(狐次郎は、滲む瞳で、薄ら笑った。)

狐次郎「ひっひっ。 見ろや。」

狐次郎「あぁ? この状況を。」

狐次郎「甘いこと、言ってんじゃねーぞ!」

(特殊部隊が、FOTの結界の周りを、包囲している。)

(聖が、守ることを放棄した。 街の結界は。
薄らぎ。 中で戦っている、FOTと無数の“闇”たちを、今にも。
この世界に、解き放とうとしていた。)

狐次郎「見捨てなけりゃ、おめーが殺される。」

狐次郎「この俺が。」

狐次郎「二度も、てめぇを、死の淵に。 たった一人、残してたまるか。」

***

(狐次郎は、子供の頃を思い出していた。)

狐次郎『俺は逃げた。』

狐次郎『俺は、子供の頃、もう一度、あいつに手を差し伸べることが、

出来なかった。』

狐次郎『“闇”に飲まれた街に。』

狐次郎『恐ろしさに、その場を動けず。

立ち尽くしていた・・。』

(掴んだ手から伝わる冷たい体温に。 雨に目がにじんだ。)

狐次郎『あいつに手を差し伸べたのは、

あの男だけ。』

(それが出来たのが、自分だったらと。 幾度後悔しても、
過去を取り戻すことは出来なかった。)

(あの日、海に取り残された、夏樹と聖を。 太陽が照らしていた。)

狐次郎「あの“闇”が、もう一度、動き出す。」

***

【ご機嫌よう。】

(青葉の前に、小さな少年が現れた。)

サーッ・・

(青葉は雨に、顔を上げた。 透明なビニール傘に、描かれた花弁が。 雨を弾く。)

青葉「・・・。」

(白いワンピースは、雨を受け始めた。)

青葉「あなたが。 ここへ来ると思った。」

(傘を持つ、青葉の手は震えた。)

(少年は、青葉に近づき。
わずかに背の高い、青葉の顔を、見上げた。)

【生きていたいか? かわいそうに。】

【その顔が、俺には甘美だ。】

【俺が味わわせてやろう・・。 命とは、残酷なほど、儚いものだということを・・。】

(少年は、青葉に触れる程近づき、冷たい左手で。
青葉の頬に触れた。)

(青葉は、静かに呼吸し。
目を細めた。)

(青葉は、緊張の中で。
唇を開いた。)

青葉「あなたが、企み。」

青葉「わたしをおびき寄せたのだと、はじめから

分かっていた。」

青葉「どうして、ここへ来たか、

わかる?」

(青葉は、傘をしっかりと握り締め。
善を見つめた。)

青葉「あなたに、時の欠片を渡さないためよ。」

青葉『夏樹くんが、戦っている。』

青葉『わたしも、戦うと。』

青葉『決めたの。』

(善の想いに反して、
青葉の顔は輝き。 その瞳には、力が宿っていた。)

(紅潮する頬は、生き生きとし。
赤らむ唇は、微笑んだ。)

青葉「信じるということは、

信じ続ける、ということよ。」

(聞いた、善の瞳が、赤く燃えた。)

***







『8月1日(継承)』

Chapter5『青葉』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

SCENARIO

『8月1日(継承)』

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