【ガァァァァーッ】
(壊れそうな結界の中で、“闇”は吠え。
辺りを振動させた。)
(雨の中、雷鳴に逃げてゆく人々。
祭りの熱に興じて、止まる人がいる。)
(誠司が、遊園地の関係者と連絡を取り。
非難を促したが、場は混乱していた。)
(破れそうな、結界の中で、
“闇”が暴れる様子を。 菖蒲は。
紫苑の前で、盾になりながら、間近に見つめた。)
【ガァァッ】
(新たな“闇”が、結界に捕らえられた“闇”の前に。
菖蒲たちの前に、上空から落下した。)
ドササッ
■菖蒲「!」
■菖蒲「夏樹様!」
(“闇”が落下するのと同時に。 風を纏う夏樹が、
菖蒲の前に。 強い風を巻き起こし、舞い降りた。)
ゴオッ バシャシャッ
(夏樹は、“闇”を風で包み、結界の中へ、放ると。
菖蒲と、紫苑。 皆に向かい、微笑んだ。)
■夏樹「大丈夫か、菖蒲。」
■夏樹「皆も。」
(夏樹は、皆の無事を確認した。)
■ピュア「ピュアも守るですv」
(辺りには、ピュアの魔法。 “虹のベール”が
まるで、傘の様に開き。 皆を雨と“闇”の攻撃から、守っていた。)
■夏樹「ありがとう、ピュア。」
(虹色に光る魔法が、雨粒を光らせ。 きらきらと零れ落ちる様子を、
夏樹は、眩しそうに見つめ。 微笑んだ。)
***
■彩『それは、守りのベールを解くためだった。』
■彩『油断させ。 懐(ふところ)に飛び込む。』
■彩『最も大切なものが何か。』
■彩『見失った者に、目を覚まさせるため。』
(彩は、瞳を開き。 息を飲んだ。)
■彩「青葉(あおば)さんは、どこ?」
(彩の中で、時が止まる様に思えた。
彩は、モニターを切り替え。 病院と通信した。)
■幸(看護師)[「先生? 青葉(あおば)さんは病室です。 何も変わりは・・、」]
■彩「良く見て!」
(彩の言葉に、看護師は、顔色を変えた。)
■幸(看護師)[「そんなはずはっ! そんなっ、」]
■幸(看護師)[「さっきまでここに!」]
(聞いて、彩の瞳が、涙に滲んだ。)
■彩「分かったわ。」
■彩「何が、大切なのか、分かった。」
(モニターの向こうで、病院内は、混乱していた。
だが、彩の目は。
モニターを見ずに。)
(石垣を見て。 潤んだ。)
■彩「遠い夢と、理想ばかり見たわね。」
■彩「一番大切なものは、
私の患者だった。」
(彩は、微笑み。 涙が伝う。)
■彩「あなたにとってもよ。」
■彩「石垣首相。(いしがきしゅしょう)」
(石垣は、怒りに燃え。 瞳を開いた。)
■彩「大切な人は、たった一人だったはず。」
■彩「お金と地位。 名誉に眩んで。」
■彩「多くの物を、手にしようとした。」
(彩の目から、止めどなく涙が零れた。
彩の言葉に、石垣は。 炎の様に、怒りが湧いた。)
■彩「もう、間に合わないわ。」
■彩「FOTを信じ切れなかった。」
■彩「そんな甘い考えで、世界は救えないと思った。」
■彩『夏樹君。』
■彩「あの紺色の瞳を。」
■彩「信じるべきだった。」
(彩は、涙を零し、叫んだ。)
■彩「それだけで、良かったのに!」
(彩は、意を決し。
議事堂を、飛び出した。)
バタンッ
(動き出せない大臣達に向かい、
石垣が吠えた。)
■石垣「部隊を出動させろ!」
(大臣達は、躊躇い、息を飲んだ。 FOTに非は見出せず。 民間人に犠牲者が
出ることを、避けられる見込みはない。)
■石垣「構わん!」
■石垣「理由など、必要ない。」
■石垣「捕えた後、地下施設で。 “闇化”させてやる。」
(頬骨が目立つ顔は、心労で黒ずみ。
爛々と光る瞳は。 骸骨の中に灯る炎の様だ。)
(取り付かれたように。 石垣の顔は変わった。)
ドクンッ
■善【くっくっくっ・・。】
(背後に、善の笑い声が響く。)
■石垣「FOTと“鍵”の宿主。 彩と契約した能力者を。」
■石垣「始末する。」
(石垣の目は、鋭く前方を見た。)
■善【僕が・・。】
■善【本当は・・、何を望んだか。 分かるかい?】
■善【くっくっ。 お前だよ。】
■善【お前が、この国を、動かしているんだろう?】
■善【その力を、僕におくれよ。】
■善【もう少しで。】
■善【お前の心は、僕のものだ。】
(石垣は、怒りに身を任せ。
迫る危機に、気付けなかった。)
(善の魔法は、彩を通し。 石垣を捕らえようとしていた。)
■石垣『聖・・。(ひじり)』
■石垣『貴様・・っ。 貴様という奴は・・っ!』
■石垣『青葉・・っ!(あおば)』
***
(歯ぎしりする、石垣の視線の先に。
空間の扉の先に。 こちらを見ている、聖が居る。)
■聖「始まりだね。」
(金色の瞳が、流れる銀髪の奥で、輝いた。)
■聖「願いを。」
■聖『守りたいものを。』
■聖「失った者が、負ける。」
(夜光に、真っ白なスーツが光り、
聖は、立ち上がった。)
■聖「さて。」
■聖「行こうか。」
***
(鋭い瞳で、周囲を睨む。
嵐を避けてゆく人々に反して。
遠く。 一人、雨の中。 立ち止まる少女が居る。)
■狐次郎「首相(しゅしょう)の一人娘?」
(瞬時に。 狐次郎は。 聖の意図を察した。)
■狐次郎「アホが。」
■狐次郎「あの能力者が。 来やがった。」
(次の瞬間。 狐次郎は、予想した、最悪のシナリオ通りに。
雷雨に、目の前に。 駆け込んで来る人物を。
横目で捉えた。)
■狐次郎「夏樹!」
ガッ・・! ドッ
(狐次郎は、夏樹の他に。 もう一人。
少女に向かい、姿を現した。 少年から、夏樹の姿を隠すように。)
(雨に走り込んできた、夏樹の腕を掴み。
自らが身を隠していた、アトラクションの建物の。 狭い路地に、
夏樹を引き込んだ。)
■夏樹「(はぁっ)・・! 狐次郎!」
(不意に両腕を掴まれ、深い紺色の瞳は、困惑し、狐次郎を見上げた。)
(雨音が、二人を隠す。 底知れぬ“闇”を秘めた、深い紺色の瞳は燃え。
息が掛かる距離で睨む、狐次郎の吊り上がる瞳を映した。)
(狐次郎は、夏樹を全力で押さえ込んだが。 細く白い夏樹の腕は、
満身の力で、狐次郎をはね除けようとしていた。)
■夏樹「見逃してくれ。」
■狐次郎「馬鹿野郎が。」
(揺れる、紺色の瞳を捉え。
夏樹を抵抗できぬ様、路地の外壁に、身体ごと押さえ付けた。)
■狐次郎「行かせたら、死ぬじゃねーか。 ひっひっ。」
(夏樹は、怒りを覚え、狐次郎を睨んだ。 だが、狐次郎は譲らず。
夏樹の冷たい身体を、全身で受け止めた。)
■夏樹「離してくれ。」
■狐次郎「離せるか。」
■夏樹「!」
■夏樹「僕を、かばったら、お前も命が無いぞ。」
(深い紺色の瞳の内側に、“闇”が灯るようで、怒りに燃える白い肌に、
深い紺色の瞳を包む。 睫毛に。 頬に。 零れる雨粒に、狐次郎は息を飲んだ。)
■夏樹「頼む。 離してくれ。」
(夏樹は、狐次郎の腕の中で、抵抗を止めなかった。)
■狐次郎「させるか。」
■狐次郎「忘れろ。」
■狐次郎「あのお嬢ちゃんは、寿命が尽きてる。」
ゴオッ!
■夏樹「嘘をつくな。」
(抑えきれず、夏樹は叫び、堪えられない思いが。 風を湧き起こした。)
■狐次郎「馬鹿野郎が。」
(狐次郎の瞳が、滲んだ。 夏樹が、自分に、風の力を使うまいと、
堪えているのが、分かった。)
(だが、長身の狐次郎に、腕力で敵うはずも無かった。)
■狐次郎「“時の欠片”が生かしていただけだ。」
(狐次郎は、あえて、その言葉を告げた。)
■夏樹「嘘だ!」
■夏樹「青葉は、生きている!」
■夏樹「僕とは、違う。」
■夏樹『生きる価値も無い、僕とは違う。』
(狐次郎は、歯ぎしりした。)
■狐次郎「分かってるんだろう、おめぇだって。」
■狐次郎「それが、運命だ。」
(狐次郎は、夏樹に。 一言一言。
刻むように、言葉を告げた。)
■夏樹『・・っ!』
■夏樹「運命は、変えられる。」
(夏樹は、心の中に。 ソラの、水色の瞳を、思い描いた。)
■狐次郎「ふざけんじゃねー!」
(狐次郎の瞳が揺れ、夏樹を壁に、押さえ付けた。)
(夏樹から伝わる、冷たい体温が。
狐次郎に、夏樹も青葉と同じだと。 伝えていた。)
(子供の頃、死んでしまった夏樹の身体は。
夏樹の中に秘められた、粒樹の心臓。 “鍵”と呼ばれる、巨大な“時の欠片”の
力により。 生かされているに過ぎない。)
■夏樹「・・っ!」
(狐次郎は、滲む瞳で、薄ら笑った。)
■狐次郎「ひっひっ。 見ろや。」
■狐次郎「あぁ? この状況を。」
■狐次郎「甘いこと、言ってんじゃねーぞ!」
(特殊部隊が、FOTの結界の周りを、包囲している。)
(聖が、守ることを放棄した。 街の結界は。
薄らぎ。 中で戦っている、FOTと無数の“闇”たちを、今にも。
この世界に、解き放とうとしていた。)
■狐次郎「見捨てなけりゃ、おめーが殺される。」
■狐次郎「この俺が。」
■狐次郎「二度も、てめぇを、死の淵に。 たった一人、残してたまるか。」
***
(狐次郎は、子供の頃を思い出していた。)
■狐次郎『俺は逃げた。』
■狐次郎『俺は、子供の頃、もう一度、あいつに手を差し伸べることが、
出来なかった。』
■狐次郎『“闇”に飲まれた街に。』
■狐次郎『恐ろしさに、その場を動けず。
立ち尽くしていた・・。』
(掴んだ手から伝わる冷たい体温に。 雨に目がにじんだ。)
■狐次郎『あいつに手を差し伸べたのは、
あの男だけ。』
(それが出来たのが、自分だったらと。 幾度後悔しても、
過去を取り戻すことは出来なかった。)
(あの日、海に取り残された、夏樹と聖を。 太陽が照らしていた。)
■狐次郎「あの“闇”が、もう一度、動き出す。」
***
■善【ご機嫌よう。】
(青葉の前に、小さな少年が現れた。)
サーッ・・
(青葉は雨に、顔を上げた。 透明なビニール傘に、描かれた花弁が。 雨を弾く。)
■青葉「・・・。」
(白いワンピースは、雨を受け始めた。)
■青葉「あなたが。 ここへ来ると思った。」
(傘を持つ、青葉の手は震えた。)
(少年は、青葉に近づき。
わずかに背の高い、青葉の顔を、見上げた。)
■善【生きていたいか? かわいそうに。】
■善【その顔が、俺には甘美だ。】
■善【俺が味わわせてやろう・・。 命とは、残酷なほど、儚いものだということを・・。】
(少年は、青葉に触れる程近づき、冷たい左手で。
青葉の頬に触れた。)
(青葉は、静かに呼吸し。
目を細めた。)
(青葉は、緊張の中で。
唇を開いた。)
■青葉「あなたが、企み。」
■青葉「わたしをおびき寄せたのだと、はじめから
分かっていた。」
■青葉「どうして、ここへ来たか、
わかる?」
(青葉は、傘をしっかりと握り締め。
善を見つめた。)
■青葉「あなたに、時の欠片を渡さないためよ。」
■青葉『夏樹くんが、戦っている。』
■青葉『わたしも、戦うと。』
■青葉『決めたの。』
(善の想いに反して、
青葉の顔は輝き。 その瞳には、力が宿っていた。)
(紅潮する頬は、生き生きとし。
赤らむ唇は、微笑んだ。)
■青葉「信じるということは、
信じ続ける、ということよ。」
(聞いた、善の瞳が、赤く燃えた。)
***
『8月1日(継承)』
Chapter5『青葉』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。
■物語全文はこちらから。
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