(金色の瞳は、涙に濡れた。)
■聖『どうして、君の心臓が、“鍵”が、夏樹の中にある。』
(滲む、金色の瞳が、触れる手の先で。
冷たくなる、粒樹の頬は。 固く、結晶の様に、固まり始めた。)
■聖「“時の欠片”を幾つ集めても。」
■聖「“心臓”を取り返さなければ、」
■聖「君は、甦らない!」
(聖の心は、怒りに燃え。 運命への憎しみが。
深い憎悪となり、聖の瞳を。 燃え上がらせた。)
■粒樹【良いのよ・・。 聖・・。】
■粒樹【もういい。】
(結晶化しながら、粒樹は、瞳を閉じ。 微笑んだ。)
(怒りに燃える、金色の瞳から。
涙が零れた。 それは、自らの心への怒りに見えた。)
■粒樹【わたしは、十分愛された。】
■粒樹【あなたは、彼への愛に。】
■粒樹【気づくべきよ。】
(聖は、瞳を見開いた。)
■粒樹【あなたは、彼を愛している。】
(聖は、首を振った。)
■聖「違う。」
■粒樹【わたしよりも。 ずっと、彼を愛している。】
(聖は、粒樹を強く抱きながら、否定した。)
■聖「違う!」
■粒樹【わたしは、助からないわ。】
■粒樹【もう十分。 あなたは愛してくれた。】
■粒樹【諦めて、良いのよ。】
■粒樹【あなたの、本当の心を見せて。
わたしの代わりに、彼を愛して。】
(過去の幻想に、すがらなければ、目的を見失いそうだった。
夏樹への愛に気づくことは。
自らの中で、粒樹への愛を打ち殺し。
彼女を、本当に。 葬ることに、他ならない。)
(両腕に、思い出を抱き締める聖は。
そのことに、必死に抵抗しているように、見えた。)
■粒樹【彼は、愛に飢えている。】
■粒樹【愛し方も、愛され方も、知らないの。】
■粒樹『【あなたも、同じね・・。】』
■粒樹『【不器用で・・。 愛しい人・・。】』
■粒樹『【あなたを、愛せる人が・・。】』
■粒樹『【わたしであれば、どんなに嬉しかったか・・。】』
(粒樹もまた、涙を零した。)
(小さな手が、そっと。 牢獄の中から、聖の。 輝く銀色の髪を撫でた。)
(粒樹もまた、夏樹を愛していた。)
(エアリエル国の、最後の“闇の鍵”。 “闇の魔女”により、滅ぼされた、
“闇の樹”の最後の一粒。 “闇の樹”の王家の血を引く、ルイが
地上の女性、千歳と授かった、夏樹は。)
(王家の“闇の樹”を継ぐ、最後の一人だ。)
(“闇の魔女”リザが、自らを滅ぼすため、かけた“闇”の呪いは。
夏樹を滅ぼすまで、止まることは無い。)
(しかし、王家の“闇の樹”から生まれた粒樹は。 自らが滅んでも、
最後の一粒を守りたかった。)
(そして、夏樹の中で生きるうち。)
(夏樹自身に惹かれ。 その想いは強まった。)
(聖への想いを絶ち、自らの存在を消すことで。
夏樹を生かすことが出来るのではないかと、考えた。)
■粒樹【愛すべき人に、出会ったばかりなの。】
■粒樹【あなたなら、分かるわね。】
■粒樹【だって、彼は、あなたに良く似てる。】
■粒樹【彼と千波ちゃんと、家族に。】
■粒樹【本当には、なれないって。
いつか、あなたが、わたしに言ったわね・・。】
■粒樹【そうかしら?】
(粒樹は、聖に、優しく語り掛けた。)
***
(聖は、微笑み。 その瞬間を待った。)
■粒樹【あなたにとって、彼は・・。】
■粒樹【彼にとって、あなたは・・。】
(だが、手の中で、砕け落ちてゆく、粒樹を前に。
聖の心に。 粒樹の言葉は、届かなかった。)
■聖「・・夏樹・・。」
■聖「“闇”を呼び覚ませ。」
(怒りに燃える、聖の、金色の瞳が光った。)
■紫苑「!」
(紫苑は、駆け抜け、その場に辿り着いた。)
■紫苑「・・・っ!!」
(一瞬の間に、起こる出来事に、叫び声も出せず。 紫苑は、両手を縮こめ。)
(その場で、身体を硬直させた。)
(恐怖が全身を貫き。 口を開いたまま、身動きが出来ない。)
■善【ルイ・・。】
■善【来たか・・。】
(善は、静かに。 青葉に語り掛け。 背後に回った。)
(青葉の瞳から、涙が零れた。)
(悔しい思いが、青葉を包む。 これ以上、抵抗することは、出来ないと悟った。)
(だが、その時。
同時に。 青葉の願いは、叶えられた。)
ゴオオッ!
■夏樹「諦めて、たまるか!」
(夏樹が、青葉の前に、駆け込んで来た。
舞い上がる風が、青葉の頬を撫でた。)
■青葉「・・夏樹く・・。」
(薄れる青葉の視界の最後に。 滲んでゆく瞳に。)
(深い紺色の瞳を捉え。 青葉は、最後のひと時。
微笑んだ。)
ドッ・・!
(善の、鋭い青い爪が。
青葉の、白いワンピースの背中を、貫いた。)
(次の瞬間、青葉は、事切れ。
雨の降る、水たまりの中に。 ゆっくりと、倒れた。)
(白いワンピースと、長い髪が、舞う様子は。
永遠に思えた。)
ドサッ
(善の手に、握られている。 小さな“時の欠片”の輝き。)
(水たまりに、横たわる青葉の、背中に。
雨に打たれ、広がる。 赤い染みに。)
(閉じられた青葉の瞳に。 白い頬に、跳ねる、雨水と泥。)
(二度と、起き上がることは無いと。)
(夏樹には、分かった。)
■夏樹「青葉っ!!」
ゴオッ!!
ドクンッ・・!
(強い風が湧き起こり、辺りを揺らし、善にぶつかった。)
・・ドウンッ・・
■善【あははははっ!】
■善【そうだ・・。 “闇”を起こせ・・っ!】
ドウンッ
(青葉から、取り出した“時の欠片”に纏う、“闇の魔力”が、
善の手に移り。 夏樹から湧き起こる風が、善に力を与えた。)
■フェルゼン【あっはっはっはっ・・!】
(黒い煙に包まれ。 善の身体は、透明な、フェルゼンの姿に変わった。)
(以前より、幾分実体を増したフェルゼンから強い波動が流れ出る。)
■夏樹「フェルゼン・・!」
(夏樹は、怒りに燃えたが。 その深い紺色の瞳には、“闇”以外のものが、
輝き、宿っていた。)
■フェルゼン【ほしい・・。 ほしい・・。 命・・。】
■フェルゼン【無理やり手にすれば、散ってしまう。
花と同じだった。】
■フェルゼン【・・なぁ?】
(フェルゼンは、満足げに、闇の波動を身体に受け、微笑み。)
(効力を失う、“時の欠片”を、冷めた目で見つめた。)
(夏樹は、水たまりの中に、跪き。
うつ伏せに、倒れた青葉の身体を、抱き上げた。)
(その身体は冷たく。 雨と泥に濡れる頬に、
かかる髪を、夏樹は、整えた。)
(夏樹の白い手は、青葉の身体と同じく。
生気を宿さぬようだ。)
(だが、青葉の身体に、もう魂が、宿っていないことを感じ。
夏樹の手は震えた。)
■夏樹「ごめん・・、青葉。」
(閉じられた瞳、青葉の顔は、穏やかで。
その口元は、微かに、微笑んでいるように見えた。)
チリンッ
■夏樹「・・っ!」
(夏樹は、フェルゼンが落とした、“時の欠片”を右手に受け止め。
青葉の遺体を、左手で支えた。)
■フェルゼン【《闇の力を秘めし鍵》】
■フェルゼン【《解き放て》】
■フェルゼン【《次元の扉》】
(フェルゼンは、右手を頭上に掲げ。 雷鳴の中に、魔法を放った。)
ゴゴッ・・!
(夏樹は、白い手の中に光る。 “時の欠片”を静かに、見つめていた。)
(輝く宝石の様な“時の欠片”には、もう“命”の力は、宿っていない。)
(それでも、透き通る輝きは、美しく。
ただの、ガラス玉に還ったとしても。 “時の欠片”の価値を、
夏樹は、感じ。 その手に握り締めた。)
■夏樹「受け取ったよ。」
(透明に輝く欠片の表面には、赤い血が滲み。 夏樹は、
自らの手が傷付く程、欠片を握り締めた。)
ゴワッ・・!
■フェルゼン【一足遅かったな。】
■フェルゼン【くっくっくっ。】
(頭上に開かれて行く、魔法の扉の下で。
フェルゼンは、目を細めた。)
ダッ・・!
(雨粒を弾く、鮮やかな水色の髪を振り、ソラが結界を抜け、
着地した。)
■ソラ「夏樹!」
(遊園地の人々を、人知れず誘導し、結界内に導き。
次々と、“闇化”する“闇”から、守ることは、容易ではなかった。)
(FOTとソラ、ピュアは、連携し。 消えてゆく、FOTの結界を。
ソラが、魔法で補った。)
(だが、ソラの中に眠るのは、“光の鍵”。 “闇の呪い”の中で、通用する。
“闇の力”を魔法の源としていたが。 本来の力を、発揮することは、難しい。)
ザッ ザザザッ・・!
(次の瞬間。 召喚術よりも先に。 ソラが気づいた、何者かの無数の気配達が、
姿を現した。)
(黒いサングラスを掛けた男が、現れたと思うと、次々と、黒服の執事達が、
膝を突く夏樹を包囲し。)
(その外周に現れた執事達が、ソラ達に向かい、立ち並び。)
(一歩動けば、攻撃されると思われた。)
■ソラ「国の使いか・・っ。」
■ソラ「陸も、空も。 逃げ場は無い。」
(黒いサングラスの男は、夏樹の真横に現れ。
夏樹の、深い紺色の髪の頭に、拳銃を突き付けた。)
■響[「FOT No.3(エフオーティーナンバースリー)を発見。」]
ガチャッ
(いかつい男は、通信機で、外部に連絡し。 手にしている銃には、
対能力者用に、国が開発した。 特別な物質で創られた、弾丸が込められていた。)
■響「下手な真似をすれば、殺す。」
(銃口が、深い紺色の髪に触れ。 男は、サングラスの顔を傾け。)
(俯く夏樹の腕の中の、動かぬ
少女を確認した。)
■響[「少女の死亡を確認。」]
(通信機の向こうで、報告を受けた男の心は、
崩壊した。)
***
■石垣「あああああっ!」
(異空間の扉の向こうに響く、男の叫びに、笑みを浮かべたフェルゼンが、
頭上に掲げた手を、振り下ろした。)
ゴワァッ・・!
ドッ・・ ドドッ・・
【ガァァァァーッ!】
■ソラ「《闇の力を秘めし鍵》
《解き放て》
《漆黒の壁》」
(ソラは魔法を唱えた。 同時に、雷雲の中、異空間の扉を通り、深紫色の魔法陣から、
巨大な、狼に似た魔物が、地上に舞い降りた。)
(ソラは、瞬時に、魔法で障壁を創り出し、魔物を捕らえようとしたが、
魔物の巨体は、魔法を跳ね除け。 ソラを弾き飛ばした。)
ドウンッ・・!
(フェルゼンは、その隙に、空間扉の向こうへ消えた。)
(フェルゼンは、FOTの結界を難なく通り抜け。 代わりに姿を現す人物が居る。)
■ソラ「聖!」
(入れ替わりに、姿を現した、人物に。 ソラは、驚愕した。)
■ソラ「フェルゼンと、組んでいるのか?」
■ソラ「何をしてる!」
■ソラ「早く、結界を閉ざせ。 このままじゃ、魔物が! 闇が、
街の中に!」
■ソラ「人々を、傷つける!」
■ソラ「何をしたか。 分かってんのか、てめぇ。」
■ソラ「青葉が、死んだ。」
■ソラ「これ以上、罪を重ねるな!」
■ソラ「“欠片”を集める為だなんて、言わせねー!」
■ソラ「何の為に、戦ってるんだ!」
■ソラ「てめぇ、それでも! 人間かっ!!」
(ソラは、怒り、水色の瞳が。 激しく、聖を睨んだ。)
『8月1日(継承)』
Chapter6『思い出』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。
■物語全文はこちらから。
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