■ソラ『俺の中に、遠い記憶が。 エアリエル国を去った日の思い出が、甦った。』
■ソラ「戴冠式に失敗し。 俺が、防げなかった“闇”は、
夏樹の母親の命を奪った。」
■ソラ「これ以上、失いたくない。 青葉・・。」
■ソラ「夏樹は、この地上は、エアリエル国は。」
■ソラ「俺が、守る。」
(ソラは、混乱の最中に、意識を集中し。
目を閉じ、胸元を握り締めた。)
(開き始めた、異界への扉が。 青葉の想いを届け。 ソラを不可能へ挑戦させた。
舞い降りる、魔物たちを越えて、祈りが届くことを願った。)
■ソラ「俺に、二つの力を、授けてくれ。」
■ソラ「エアリエル国に宿りし、精霊よ。」
(ソラは、目を閉じ。 詠唱し始めた。)
■ミイ「! ソラっ!///」
(ミイは駆け寄り、ソラに向き合い。 共に祈った。)
■ソラ【《大地の精霊》よ】
■ソラ【《水の精霊》よ】
■ソラ【《火の精霊》よ】
■ソラ【《光の精霊》よ】
(目を閉じ、祈る、ミイの胸元が。 熱く光った。)
■ソラ【《風の精霊》よ】
(呼び掛けに、応える様に。 夏樹を包む、風が、熱を持ち、辺りに吹き流れた。)
(次第に、身体を、絡め取る、張り巡らされた魔法の糸が。 夏樹の四肢を傷つけたが、
夏樹は、痛みに耐え。 顔をしかめただけで、決して攻撃を返さなかった。)
■ソラ「“光の魔導師”エアリエル・ライト・セナに、“魔法契約”を願う。」
(激しい雨が打ち付ける、天に向かい、ソラは叫んだ。)
(夏樹が、攻撃を繰り出せば、仲間の命は無いように思えた。)
(何より、怒りを返すことは、自身の中に眠る。
“鍵”を闇化させかねない。)
(夏樹は、守る者のことを、考えた。)
■佐織「雨宮っ!」
(佐織は、叫び、走り出そうとした。 春人が止め、チイも佐織をかばった。)
■春人「佐織っ! 危ない、下がれっ。」
■チイ「佐織ちゃん・・!」
(夏樹は、目を閉じ、痛みに耐えた。)
■夏樹『佐織さん・・、春人。 チイさん・・。』
■夏樹『駆・・。』
(夏樹は、目を閉じ。 遠く、叫ぶ駆の声を聞いた。)
■駆「夏樹~~っ!!」
(閉じた夏樹の目から、涙が零れた。)
ザーッ
■菖蒲「静乃さん、空間通路を修復してください。」
(菖蒲は、冷静に判断し、夏樹を救う術を、考えを巡らせた。)
■菖蒲「晃(あきら)様をここへ。 FOTメンバーを呼び戻しましょう。」
■菖蒲「光(ひかり)様、葵(あおい)様、数馬(かずま)様、剛(ごう)様は、人々を守り。
ここへ向かって下さっています。」
■菖蒲「ですが、間に合わない。」
(菖蒲は、頭上から破壊されて行く、剥がれ落ちて行く、結界を背に。
静乃の隣に立つ、千波を。 滲む瞳で見つめた。)
■千波「・・聖。」
(千波は、胸元を握り締めた。)
(雨の雫に、明るい茶色の瞳と、髪が。 クローバーの髪飾りが濡れた。)
トクンッ トクンッ
(千波の胸は痛み。 夏樹の心が、“闇”と戦っていると知った。)
■菖蒲「千波様・・。 結界が、崩壊します。」
(菖蒲は、静かに告げ。 千波を見た。)
■千波「・・うん。」
(千波は、頷き。 涙を零した。)
■千波「夏樹を守って。」
(菖蒲と静乃は、頷いた。)
■静乃「ええ。」
■静乃「空間通路を修復します。 時雨(しぐれ)くんが居るわ。 力を借りましょう。」
(静乃は、ヘッドフォンを耳に。 携帯機器を取り出し、操作した。)
■菖蒲「はい。」
コォォォォーッ
■夏樹『菖蒲。 静乃さん。 千波ちゃん。』
(夏樹は、崩壊して行く結界を前に。 自分を奮い立たせた。)
(その時が来た。)
(守れるのは、自らの力だけだ。)
ビシッ ビシシッ
(鋭い糸が、夏樹の腕を切る。 締め上げる糸が、抵抗すれば、きつく自由を奪った。)
ゴォォォッ!
(見開かれた水色の瞳が、上空からの力を受け、強く前を見た。)
***
■ミイ「お願い・・、届いて・・。」
(ミイは胸に手を当て、目を閉じた。)
(ソラの魔法を閉じ込めている、ミイの胸元が、熱を持つ。)
(“闇の魔法”で封じ、“闇の魔法”でいつも開いている、ソラの切り札が。
ミイの中で眠っていた。)
(ソラは、それを。 本来の宿る力。 “光の魔法”で、呼び覚まそうとしていた。)
■ソラ「届け。」
(水色の瞳が、強く念じ。 自身の胸の奥に眠る、“光の鍵”を共に呼び覚まそうと、
強く、自身の胸を掴んだ。)
ドクンッ!
■ソラ『俺は、選ばれなかった、偽物の王だろうか。』
■ソラ『答えを聞かせてくれ!』
■ソラ『“聖なる樹”よ!』
(ソラの呼び掛けに答える様に、共鳴し。 夏樹の中に眠る、“闇の鍵”が強く
鼓動した。)
ドクンッ!
■夏樹「・・っ!」
(ソラの中に眠る“光の鍵”が力を得れば、反して、夏樹の中の“闇の鍵”が
痛みに悲鳴を上げた。)
■夏樹「ああ・・っ!」
(夏樹は、ソラの力を感じた。 エアリエル国において、“光”と“闇”の力は、
どちらか一方しか、継ぐことは出来ない。)
(夏樹の存在が、“闇の鍵”の存在が、ソラの“光の鍵”を妨げていることを、
肌で感じた。)
(ソラが、力を得れば、夏樹は、生きる術を失う。)
(ソラは、そのことを知らなかった。 だが、夏樹は、それを感じていた。)
■夏樹『ミイさん・・、ピュア。』
■夏樹『ソラ。』
(痛みに、心を失わない様、夏樹は。 異世界からの三人の友の名を、
心に刻んだ。)
***
ゴオオーッ!
(強い風が湧き起こり、夏樹を。 紫苑から、そして守るべき者たちから、
切り離した。)
(瞬間に、それは起こった。)
■響「捕えよ!」
ビシュシュッ・・!
(黒いサングラスを掛ける、執事達が、一斉に、魔法の糸を
夏樹に向け、放出した。)
ガッ・・! ビシシッ!!
(攻撃を受けてもなお、
夏樹は、風を、反撃に使わなかった。)
(全身全霊を込めて、守る者のことを思った。)
自らを失っても、構わなかった。)
■夏樹『この命に代えても、守るべき人が居る。』
バシッ バリバリバリッ・・!
■夏樹「う・・っ! ぐ・・っ。」
(無数の糸が、夏樹の身体を絡め取り、傷つけ、拘束した。)
(首を、締め上げる糸に、白い肌は出血し。 呼吸を圧迫した。)
■夏樹『あの時、母を守れなかった。』
■夏樹『守るべき時は、今だ。』
(強い思いが、夏樹の自我を留めた。 “鍵”の”闇化”を留めた。)
(金色の瞳が、夏樹を見ていた。)
■夏樹『風の、使い方を、僕に。 教えてくれた。』
(囚われて行く夏樹を、見下ろす、金色の瞳に。
菖蒲は、耐え切れずに、叫んだ。)
■菖蒲「夏樹様・・っ!!」
(千波は、菖蒲が何をしようとしているか悟り、力一杯、
後ろから、その腕を引き留めた。)
■千波「菖蒲くんっ!」
(菖蒲は、千波の腕を払い、聖に向き直った。)
■菖蒲「聖様・・!」
(衝撃と雨に、吹き晒されながら、菖蒲は、金色の瞳を睨んだ。)
■菖蒲「“鍵”の開放・・? 粒樹(りゅうじゅ)の開放・・?」
■菖蒲「笑わせないでください。」
(菖蒲は、なりふり構わず、聖に叫んだ。)
■千波「菖蒲くん・・っ、だめだよ。」
(千波は、必死に、菖蒲の燕尾服の背中を、引っ張った。)
(菖蒲の言葉は、聖の、逆鱗に触れた。)
■菖蒲「どんな時も離れなかった。」
■菖蒲「どんな時も向き合ってきた。 苦しみの中、ぎりぎりの場面に立たされても、
なお、あの方は戦ってきたのです。」
(千波は、涙を零し、菖蒲の大きな背中を、必死に引き止めた。)
■千波「菖蒲くんっ・・、やめてっ!」
(黄金色の瞳が、激高し、こちらを見下ろした。)
(菖蒲は、千波と紫苑を庇う様に、前に立ち、聖に向かい。 歩を進めた。)
■菖蒲「私はずっと、見てきました。」
■菖蒲「誰が知らなくとも、私が知っています。」
■菖蒲「あの方が、どれほど頑張っているか。」
■菖蒲「それを、利用しただけだというのですか?」
(菖蒲は、聖に向き合った。 見下ろす、金色の瞳から、
千波と紫苑を守る様に、菖蒲は、聖と対峙した。)
(歩を進める菖蒲を、千波は止めた。 それ以上言えば、
聖を止めることが出来ない様に思えた。)
(だが、菖蒲は、引き下がらなかった。)
(千波と、紫苑の前に、立ち塞がり。 聖から、視線を逸らさなかった。)
(恐ろしい、黄金色の瞳の冷徹な輝きを。 何より、千波に見せたく無かった。)
■千波「菖蒲くんっ!」
(菖蒲は、続けた。 菖蒲の言葉は、千波の想いも、宿していた。)
(黄金色の瞳と、夏樹を奪おうとする国の使いに向け、菖蒲は、言い放った。)
■菖蒲「分からないのですか・・?」
■菖蒲「“闇”を止めるために、ご自分の命を捨てるつもりです。」
■菖蒲「それが、あなた方には、わからないのですか?」
■菖蒲「それでもなお、あの方は。 FOTを、あなたを愛している。」
(菖蒲の声は震えた。 込み上げる怒りを抑えられず、
胸を熱くした。)
■菖蒲「あなたは・・。」
(菖蒲が、聖を引き付ける間に。 静乃は、空間通路を組み上げていた。)
■菖蒲「自らを開放するために、夏樹様を利用した。」
■菖蒲「自分が自由になるために、夏樹様を犠牲にしたのですか?」
■菖蒲「なんていう人だ・・。」
(聖の、金色の瞳に、横切る光を。 紫苑は、菖蒲の後ろから見た。)
■紫苑「!」
(それは、かつて、紫苑が見たことのある物だった。 目にした瞬間、
叫ぶことしか、出来なかった。)
(一瞬の光が過る、菖蒲が、聖に絞り出す怒りを叫んだ時。 同時に、その音は届いた。)
■菖蒲「あなたが、苦しんでいたのは。 夏樹様のせいではない。」
■菖蒲「あなた自身の、過ちではないですか!」
ドンッ・・!
(音と同時に、紫苑は、恐怖に身を固くし。 叫んだ。)
■紫苑「菖蒲さんっ!!」
(にわかに、起こった出来事を、紫苑は、信じることが出来なかった。)
(それはただ、画面の向こうで。 繰り広げられる、ただの映像だと思いたかった。)
(感覚が麻痺し、現実から、紫苑を遠ざける。)
(鳴り響く音は、強く轟き。 一瞬の出来事を、スローモーションに見せた。)
■菖蒲「・・・っ。」
(それは一瞬だった。 紫苑が見た時。 白いスーツの腕が、上がった。)
(同時に、見えた光は。 その手に握られていた、金色の拳銃だ。)
(能力者用に、創られた特別な弾丸に。 夏樹の風が、打ち破られ。
残酷に放たれた弾丸は、菖蒲の、右胸を貫通した。)
■紫苑「!!」
■ミイ「きゃぁぁぁぁ~!」
(燕尾服の胸元から、赤い滴が舞う。 弾丸の衝撃に、紫苑が目にしていた、
菖蒲の背中は、撃ち抜かれ、花開く様に、紫苑の視界を赤に染めた。)
ドサッ・・!
(菖蒲は、声を上げることも出来ず。 そのまま、背中から倒れた。)
ガシャンッ
(衝撃に、眼鏡のレンズが砕け、雨に濡れた長い後髪が、揺れた。)
■菖蒲「(ごぼっ・・)」
(見る見る蒼白になる頬に、閉じた睫毛に。 雨が打ち付ける。)
(水溜りに、鼓動する胸が赤く染まり、砕けた眼鏡に、口元に。
赤い滴が飛んだ。)
■紫苑「菖蒲さんっ!!」
(紫苑は、その光景が信じられず。 駆け寄ったが、恐ろしさに身体が痺れ、
何も出来なかった。)
■静乃[「空間結合、完了。」]
(静乃は、菖蒲が創り出した僅かな時間に、空間を修復し繋ぎ留めた。)
(恐怖に震えぬ様、道筋を誤らぬ様、指先に力を込め、念じた。)
■静乃「・・戻って来て、皆!」
(機器を離し、菖蒲に駆け寄る静乃の目に、
信じ難い現実が映る。)
■静乃「(ひっく・・)菖蒲くん・・。」
(静乃は、菖蒲の身体にすがり、傷ついた胸を、両手で強く圧迫した。)
■静乃「大丈夫よ。 皆を呼んだわ。」
■静乃「皆が、すぐに来てくれるから・・。」
■静乃「夏樹くんも。 街の人達も、皆、大丈夫よ。」
■静乃「菖蒲くん・・。」
(零すまいと思っても、静乃の目から、涙が零れた。)
■静乃「大丈夫よ。」
(菖蒲に笑顔を向けようと。 静乃は、両手を離さぬまま、雨雲を切って、
明るみ始めた、空を見上げた。)
(顔を上げ、涙を弾いたが。 菖蒲の身体から流れ出る温かさが、
静乃の手を染め。 小さな花の、ネイルの指先は、赤に染まり、震えた。)
■彩「代わって・・。」
(駆け付けた彩が、静乃の手を取り、代わりに止血した。
静乃に指示し、すぐに処置に取り掛かる。)
■彩「研究所には、手が入るかもしれない。 ここへ、繋いで。」
■彩「静乃。 必ず、助ける。」
■彩「菖蒲君を、励まし続けて。」
(彩は、光を取り戻した瞳で。 静乃を、見つめた。)
(静乃は頷き、菖蒲の手を両手で握り締めた。)
■静乃「・・菖蒲くん・・っ。」
(菖蒲の手を強く握り、うつむく静乃の手の中で。
菖蒲の指先が、動いた。)
■静乃『助けて、FOT・・。』
(静乃は祈った。)
(頭上で、結界が崩壊して行く様は、絶望的に思えた。)
(静乃は、脳裏を過る、生死の予感に。
負けないよう、囁いた。)
■静乃「大丈夫よ。」
(静乃の言葉に応える様に、菖蒲の指先が、微かに動いた。)
(砕けた、眼鏡の奥の瞼が、僅かに開く。)
(静乃には、菖蒲が頷いた様に見えた。)
(薄らぐ瞳に、まだ、菖蒲は。 こちらに向かって吹く風を感じた。)
(風の方に向かい、菖蒲は僅かに顔を向けた。)
(夏樹は、拘束され、身動きすることが出来なかった。)
(だが、まだ風は、皆の元に留まり、守っていた。)
(菖蒲は、安堵し。 目を閉じた。)
■静乃「菖蒲くんっ!!!」
(力を失う、菖蒲の手を握り締め、静乃は叫んだ。)
チリンッ・・
(糸が絡め取る、夏樹の胸元から。 辺りを破壊して行く、崩壊する結界の衝撃に。
小さな、銀の鎖が、姿を見せた。)
(失いかけた、意識の中で。 深い紺色の瞳は、その鎖の先に輝く。
小さな指輪を見た。)
(崩壊して行く衝撃に、痛みに、悲しみに。 景色が滲んで、見えない。)
(だが、薄れ行く、視界に、銀の指輪の輝きだけは、見失わなかった。)
***
『8月1日(継承)』
Chapter7『崩壊』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。
■物語全文はこちらから。
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