Scenario

『8月1日(継承)』

Chapter7『崩壊』

ソラ『俺の中に、遠い記憶が。 エアリエル国を去った日の思い出が、甦った。』

ソラ「戴冠式に失敗し。 俺が、防げなかった“闇”は、

夏樹の母親の命を奪った。」

ソラ「これ以上、失いたくない。 青葉・・。」

ソラ「夏樹は、この地上は、エアリエル国は。」

ソラ「俺が、守る。」

(ソラは、混乱の最中に、意識を集中し。
目を閉じ、胸元を握り締めた。)

(開き始めた、異界への扉が。 青葉の想いを届け。 ソラを不可能へ挑戦させた。
舞い降りる、魔物たちを越えて、祈りが届くことを願った。)

ソラ「俺に、二つの力を、授けてくれ。」

ソラ「エアリエル国に宿りし、精霊よ。」

(ソラは、目を閉じ。 詠唱し始めた。)

ミイ「! ソラっ!///」

(ミイは駆け寄り、ソラに向き合い。 共に祈った。)

ソラ【《大地の精霊》よ】

ソラ【《水の精霊》よ】

ソラ【《火の精霊》よ】

ソラ【《光の精霊》よ】

(目を閉じ、祈る、ミイの胸元が。 熱く光った。)

ソラ【《風の精霊》よ】

(呼び掛けに、応える様に。 夏樹を包む、風が、熱を持ち、辺りに吹き流れた。)

(次第に、身体を、絡め取る、張り巡らされた魔法の糸が。 夏樹の四肢を傷つけたが、
夏樹は、痛みに耐え。 顔をしかめただけで、決して攻撃を返さなかった。)

ソラ「“光の魔導師”エアリエル・ライト・セナに、“魔法契約”を願う。」

(激しい雨が打ち付ける、天に向かい、ソラは叫んだ。)

(夏樹が、攻撃を繰り出せば、仲間の命は無いように思えた。)

(何より、怒りを返すことは、自身の中に眠る。
“鍵”を闇化させかねない。)

(夏樹は、守る者のことを、考えた。)

佐織「雨宮っ!」

(佐織は、叫び、走り出そうとした。 春人が止め、チイも佐織をかばった。)

春人「佐織っ! 危ない、下がれっ。」

チイ「佐織ちゃん・・!」

(夏樹は、目を閉じ、痛みに耐えた。)

夏樹『佐織さん・・、春人。 チイさん・・。』

夏樹『駆・・。』

(夏樹は、目を閉じ。 遠く、叫ぶ駆の声を聞いた。)

「夏樹~~っ!!」

(閉じた夏樹の目から、涙が零れた。)

ザーッ

菖蒲「静乃さん、空間通路を修復してください。」

(菖蒲は、冷静に判断し、夏樹を救う術を、考えを巡らせた。)

菖蒲「晃(あきら)様をここへ。 FOTメンバーを呼び戻しましょう。」

菖蒲「光(ひかり)様、葵(あおい)様、数馬(かずま)様、剛(ごう)様は、人々を守り。

ここへ向かって下さっています。」

菖蒲「ですが、間に合わない。」

(菖蒲は、頭上から破壊されて行く、剥がれ落ちて行く、結界を背に。
静乃の隣に立つ、千波を。 滲む瞳で見つめた。)

千波「・・聖。」

(千波は、胸元を握り締めた。)

(雨の雫に、明るい茶色の瞳と、髪が。 クローバーの髪飾りが濡れた。)

トクンッ トクンッ

(千波の胸は痛み。 夏樹の心が、“闇”と戦っていると知った。)

菖蒲「千波様・・。 結界が、崩壊します。」

(菖蒲は、静かに告げ。 千波を見た。)

千波「・・うん。」

(千波は、頷き。 涙を零した。)

千波「夏樹を守って。」

(菖蒲と静乃は、頷いた。)

静乃「ええ。」

静乃「空間通路を修復します。 時雨(しぐれ)くんが居るわ。 力を借りましょう。」

(静乃は、ヘッドフォンを耳に。 携帯機器を取り出し、操作した。)

菖蒲「はい。」

コォォォォーッ

夏樹『菖蒲。 静乃さん。 千波ちゃん。』

(夏樹は、崩壊して行く結界を前に。 自分を奮い立たせた。)

(その時が来た。)

(守れるのは、自らの力だけだ。)

ビシッ ビシシッ

(鋭い糸が、夏樹の腕を切る。 締め上げる糸が、抵抗すれば、きつく自由を奪った。)

ゴォォォッ!

(見開かれた水色の瞳が、上空からの力を受け、強く前を見た。)

***

ミイ「お願い・・、届いて・・。」

(ミイは胸に手を当て、目を閉じた。)

(ソラの魔法を閉じ込めている、ミイの胸元が、熱を持つ。)

(“闇の魔法”で封じ、“闇の魔法”でいつも開いている、ソラの切り札が。
ミイの中で眠っていた。)

(ソラは、それを。 本来の宿る力。 “光の魔法”で、呼び覚まそうとしていた。)

ソラ「届け。」

(水色の瞳が、強く念じ。 自身の胸の奥に眠る、“光の鍵”を共に呼び覚まそうと、
強く、自身の胸を掴んだ。)

ドクンッ!

ソラ『俺は、選ばれなかった、偽物の王だろうか。』

ソラ『答えを聞かせてくれ!』

ソラ『“聖なる樹”よ!』

(ソラの呼び掛けに答える様に、共鳴し。 夏樹の中に眠る、“闇の鍵”が強く
鼓動した。)

ドクンッ!

夏樹「・・っ!」

(ソラの中に眠る“光の鍵”が力を得れば、反して、夏樹の中の“闇の鍵”が
痛みに悲鳴を上げた。)

夏樹「ああ・・っ!」

(夏樹は、ソラの力を感じた。 エアリエル国において、“光”と“闇”の力は、
どちらか一方しか、継ぐことは出来ない。)

(夏樹の存在が、“闇の鍵”の存在が、ソラの“光の鍵”を妨げていることを、
肌で感じた。)

(ソラが、力を得れば、夏樹は、生きる術を失う。)

(ソラは、そのことを知らなかった。 だが、夏樹は、それを感じていた。)

夏樹『ミイさん・・、ピュア。』

夏樹『ソラ。』

(痛みに、心を失わない様、夏樹は。 異世界からの三人の友の名を、
心に刻んだ。)

***

ゴオオーッ!

(強い風が湧き起こり、夏樹を。 紫苑から、そして守るべき者たちから、
切り離した。)

(瞬間に、それは起こった。)

「捕えよ!」

ビシュシュッ・・!

(黒いサングラスを掛ける、執事達が、一斉に、魔法の糸を
夏樹に向け、放出した。)

ガッ・・! ビシシッ!!

(攻撃を受けてもなお、
夏樹は、風を、反撃に使わなかった。)

(全身全霊を込めて、守る者のことを思った。)
自らを失っても、構わなかった。)

夏樹『この命に代えても、守るべき人が居る。』

バシッ バリバリバリッ・・!

夏樹「う・・っ! ぐ・・っ。」

(無数の糸が、夏樹の身体を絡め取り、傷つけ、拘束した。)

(首を、締め上げる糸に、白い肌は出血し。 呼吸を圧迫した。)

夏樹『あの時、母を守れなかった。』

夏樹『守るべき時は、今だ。』

(強い思いが、夏樹の自我を留めた。 “鍵”の”闇化”を留めた。)

(金色の瞳が、夏樹を見ていた。)

夏樹『風の、使い方を、僕に。 教えてくれた。』

(囚われて行く夏樹を、見下ろす、金色の瞳に。
菖蒲は、耐え切れずに、叫んだ。)

菖蒲「夏樹様・・っ!!」

(千波は、菖蒲が何をしようとしているか悟り、力一杯、
後ろから、その腕を引き留めた。)

千波「菖蒲くんっ!」

(菖蒲は、千波の腕を払い、聖に向き直った。)

菖蒲「聖様・・!」

(衝撃と雨に、吹き晒されながら、菖蒲は、金色の瞳を睨んだ。)

菖蒲「“鍵”の開放・・? 粒樹(りゅうじゅ)の開放・・?」

菖蒲「笑わせないでください。」

(菖蒲は、なりふり構わず、聖に叫んだ。)

千波「菖蒲くん・・っ、だめだよ。」

(千波は、必死に、菖蒲の燕尾服の背中を、引っ張った。)

(菖蒲の言葉は、聖の、逆鱗に触れた。)

菖蒲「どんな時も離れなかった。」

菖蒲「どんな時も向き合ってきた。 苦しみの中、ぎりぎりの場面に立たされても、

なお、あの方は戦ってきたのです。」

(千波は、涙を零し、菖蒲の大きな背中を、必死に引き止めた。)

千波「菖蒲くんっ・・、やめてっ!」

(黄金色の瞳が、激高し、こちらを見下ろした。)

(菖蒲は、千波と紫苑を庇う様に、前に立ち、聖に向かい。 歩を進めた。)

菖蒲「私はずっと、見てきました。」

菖蒲「誰が知らなくとも、私が知っています。」

菖蒲「あの方が、どれほど頑張っているか。」

菖蒲「それを、利用しただけだというのですか?」

(菖蒲は、聖に向き合った。 見下ろす、金色の瞳から、
千波と紫苑を守る様に、菖蒲は、聖と対峙した。)

(歩を進める菖蒲を、千波は止めた。 それ以上言えば、
聖を止めることが出来ない様に思えた。)

(だが、菖蒲は、引き下がらなかった。)

(千波と、紫苑の前に、立ち塞がり。 聖から、視線を逸らさなかった。)

(恐ろしい、黄金色の瞳の冷徹な輝きを。 何より、千波に見せたく無かった。)

千波「菖蒲くんっ!」

(菖蒲は、続けた。 菖蒲の言葉は、千波の想いも、宿していた。)

(黄金色の瞳と、夏樹を奪おうとする国の使いに向け、菖蒲は、言い放った。)

菖蒲「分からないのですか・・?」

菖蒲「“闇”を止めるために、ご自分の命を捨てるつもりです。」

菖蒲「それが、あなた方には、わからないのですか?」

菖蒲「それでもなお、あの方は。 FOTを、あなたを愛している。」

(菖蒲の声は震えた。 込み上げる怒りを抑えられず、
胸を熱くした。)

菖蒲「あなたは・・。」

(菖蒲が、聖を引き付ける間に。 静乃は、空間通路を組み上げていた。)

菖蒲「自らを開放するために、夏樹様を利用した。」

菖蒲「自分が自由になるために、夏樹様を犠牲にしたのですか?」

菖蒲「なんていう人だ・・。」

(聖の、金色の瞳に、横切る光を。 紫苑は、菖蒲の後ろから見た。)

紫苑「!」

(それは、かつて、紫苑が見たことのある物だった。 目にした瞬間、
叫ぶことしか、出来なかった。)

(一瞬の光が過る、菖蒲が、聖に絞り出す怒りを叫んだ時。 同時に、その音は届いた。)

菖蒲「あなたが、苦しんでいたのは。 夏樹様のせいではない。」

菖蒲「あなた自身の、過ちではないですか!」

ドンッ・・!

(音と同時に、紫苑は、恐怖に身を固くし。 叫んだ。)

紫苑「菖蒲さんっ!!」

(にわかに、起こった出来事を、紫苑は、信じることが出来なかった。)

(それはただ、画面の向こうで。 繰り広げられる、ただの映像だと思いたかった。)

(感覚が麻痺し、現実から、紫苑を遠ざける。)

(鳴り響く音は、強く轟き。 一瞬の出来事を、スローモーションに見せた。)

菖蒲「・・・っ。」

(それは一瞬だった。 紫苑が見た時。 白いスーツの腕が、上がった。)

(同時に、見えた光は。 その手に握られていた、金色の拳銃だ。)

(能力者用に、創られた特別な弾丸に。 夏樹の風が、打ち破られ。
残酷に放たれた弾丸は、菖蒲の、右胸を貫通した。)

紫苑「!!」

ミイ「きゃぁぁぁぁ~!」

(燕尾服の胸元から、赤い滴が舞う。 弾丸の衝撃に、紫苑が目にしていた、
菖蒲の背中は、撃ち抜かれ、花開く様に、紫苑の視界を赤に染めた。)

ドサッ・・!

(菖蒲は、声を上げることも出来ず。 そのまま、背中から倒れた。)

ガシャンッ

(衝撃に、眼鏡のレンズが砕け、雨に濡れた長い後髪が、揺れた。)

菖蒲「(ごぼっ・・)」

(見る見る蒼白になる頬に、閉じた睫毛に。 雨が打ち付ける。)

(水溜りに、鼓動する胸が赤く染まり、砕けた眼鏡に、口元に。
赤い滴が飛んだ。)

紫苑「菖蒲さんっ!!」

(紫苑は、その光景が信じられず。 駆け寄ったが、恐ろしさに身体が痺れ、
何も出来なかった。)

静乃[「空間結合、完了。」]

(静乃は、菖蒲が創り出した僅かな時間に、空間を修復し繋ぎ留めた。)

(恐怖に震えぬ様、道筋を誤らぬ様、指先に力を込め、念じた。)

静乃「・・戻って来て、皆!」

(機器を離し、菖蒲に駆け寄る静乃の目に、
信じ難い現実が映る。)

静乃「(ひっく・・)菖蒲くん・・。」

(静乃は、菖蒲の身体にすがり、傷ついた胸を、両手で強く圧迫した。)

静乃「大丈夫よ。 皆を呼んだわ。」

静乃「皆が、すぐに来てくれるから・・。」

静乃「夏樹くんも。 街の人達も、皆、大丈夫よ。」

静乃「菖蒲くん・・。」

(零すまいと思っても、静乃の目から、涙が零れた。)

静乃「大丈夫よ。」

(菖蒲に笑顔を向けようと。 静乃は、両手を離さぬまま、雨雲を切って、
明るみ始めた、空を見上げた。)

(顔を上げ、涙を弾いたが。 菖蒲の身体から流れ出る温かさが、
静乃の手を染め。 小さな花の、ネイルの指先は、赤に染まり、震えた。)

「代わって・・。」

(駆け付けた彩が、静乃の手を取り、代わりに止血した。
静乃に指示し、すぐに処置に取り掛かる。)

「研究所には、手が入るかもしれない。 ここへ、繋いで。」

「静乃。 必ず、助ける。」

「菖蒲君を、励まし続けて。」

(彩は、光を取り戻した瞳で。 静乃を、見つめた。)

(静乃は頷き、菖蒲の手を両手で握り締めた。)

静乃「・・菖蒲くん・・っ。」

(菖蒲の手を強く握り、うつむく静乃の手の中で。
菖蒲の指先が、動いた。)

静乃『助けて、FOT・・。』

(静乃は祈った。)

(頭上で、結界が崩壊して行く様は、絶望的に思えた。)

(静乃は、脳裏を過る、生死の予感に。
負けないよう、囁いた。)

静乃「大丈夫よ。」

(静乃の言葉に応える様に、菖蒲の指先が、微かに動いた。)

(砕けた、眼鏡の奥の瞼が、僅かに開く。)

(静乃には、菖蒲が頷いた様に見えた。)

(薄らぐ瞳に、まだ、菖蒲は。 こちらに向かって吹く風を感じた。)

(風の方に向かい、菖蒲は僅かに顔を向けた。)

(夏樹は、拘束され、身動きすることが出来なかった。)

(だが、まだ風は、皆の元に留まり、守っていた。)

(菖蒲は、安堵し。 目を閉じた。)

静乃「菖蒲くんっ!!!」

(力を失う、菖蒲の手を握り締め、静乃は叫んだ。)

チリンッ・・

(糸が絡め取る、夏樹の胸元から。 辺りを破壊して行く、崩壊する結界の衝撃に。
小さな、銀の鎖が、姿を見せた。)

(失いかけた、意識の中で。 深い紺色の瞳は、その鎖の先に輝く。
小さな指輪を見た。)

(崩壊して行く衝撃に、痛みに、悲しみに。 景色が滲んで、見えない。)

(だが、薄れ行く、視界に、銀の指輪の輝きだけは、見失わなかった。)

***







『8月1日(継承)』

Chapter7『崩壊』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

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『8月1日(継承)』

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