Scenario

『8月1日(継承)』

Chapter8『黎明』

夏樹「・・聖・・。」

(FOTのメンバーである証の、小さなピンバッジが。 消え入る夏樹の、
意識を保たせた。)

夏樹「信じろ・・。」

夏樹「皆が居る・・。」

夏樹「僕は、ここに・・。」

夏樹「・・この身が、果てるとも・・。」

夏樹「・・風を・・。」

夏樹「風を、残して行く。」

(夏樹は、その瞬間に、強い風を生み出し。 友の居るその場所を。
強い風のベールで包んだ。)

ゴオオオオーッ!!

ガガッ・・ ガガガッ・・!!

バリバリバリバリッ・・!!!

(頭上で、“闇”を包み込み、耐えることが出来なくなった結界が。
空が割れ、落ちてくるように。 崩壊した。)

ミイ「夏樹さん・・っ!!」

(ミイは、両手を握り締め。 祈った。)

ソラ「夏樹!!」

(ソラは、叫び、天を仰ぐ。)

(輝き出す、ミイの胸元が。 熱く、光を放ち、鼓動する。)

(眩い輝きに、ミイは、目を閉じ。 明るいオレンジ色の、短い髪が。
光を反射し、舞い上がった。)

(地響きし、辺りが揺れる。 流れ出る、怪物の姿の“闇”が、魔物が。
滝の様に、襲い来る。)

夏樹「魔法が解ける。」

(夏樹は、涙を堪えることが、出来なかった。)

(これまで、人々を守って来た、FOTの結界は、崩壊した。)

(だが、ただ嘆き、終わりにしたくは無かった。)

(現実の、世界に、“闇”が流れ出る瞬間に、夏樹は。
風で生み出した、球体の巨大なベールで。 人々を包んだ。)

(それはまるで、結界の代わりを成すものに見えた。)

ガッ・・バキバキバキバキッ・・!

(紫苑は、風のベールの中に包まれ。
その光景を見た。)

(壊れて、剥がれ落ちる、結界の向こうから、黒い怪物が、流れ出る。)

【ガアアアアーッ!】

(放たれた“闇”の声が、地響きし、身体を震わせた。)

紫苑「夏樹くんっ!!」

(“闇”と魔物は、流れ出たが、夏樹の風のベールが人々を包み。 通さなかった。)

(だが、夏樹の身体は捕らえられ。 国の使い達と共に、見知らぬ空間通路に、
引き込まれて行く。)

(夏樹の姿が、黒服の男たちの中で、見えなくなる。)

(夏樹は、黒く深い、国の生み出した、空間通路の中へ。 送り込まれた。)

(ミイは、挫けそうになる心を奮い立たせ。 瞳を開いた。)

ミイ「“光の樹”に聖なる力の、祝福を。」

(ミイは、胸元から輝く光に。 両手を開いた。)

ミイ「《二人の王》を導け。」

ゴオッ!

(強い光が、ミイの胸元から放たれる。)

(同時に、ソラは、強く握っていた自身の胸元が、熱く鼓動するのを感じた。)

(夏樹はソラを。 ソラは夏樹を。)

(二人は、互いを。 互いが戦い、勝つことを。 信じた。)

(ソラの、水色の瞳は輝いた。)

ソラ「《光の力を秘めし鍵》よ。 我に力を。」

ソラ「《光の力を秘めし鍵》《解き放て》・・!」

(ソラは、熱を帯びるその手を、力強く開き。 輝くミイの胸元へ、手を伸ばした。)

ソラ「《時の守護》」

ソラ「《光の剣》・・っ!(ひかりのつるぎ)」

(ソラの大きな手が、ミイの胸元から現れた、輝く剣の、柄を握った。)

ゴオオオッ

(美しく、曲線を描く鍔に、刀身に。 刻まれる、二つの樹が絡み合い、支え合う
エアリエル国王家の紋章が、ソラに力を与えた。)

ガッ・・!

ズズズッ・・ キンッ!

(ソラは、ミイの胸元から、美しい刀身の、王家の剣を
取り出すことに、成功した。)

(以前、“闇の魔術”で取り出した時と。 その感覚は、全く異なっていた。)

(まるで、ソラの身体と剣は、一つだった。)

バッ・・!

(流れる力は、ソラの心に灯る、太陽と同じ。 明るい熱と、エネルギーを持つ。)

(悲しみの最中にあっても、その力は、衰えず。 さらに力を増し。)

(夏樹の風のベールの前に、立つ。 ソラの一振りが。
崩壊する結界から、襲い来る、“闇”と魔物を切り崩した。)

ザンッ・・!

(止み始めた、雨の代わりに。 降り注ぐ無数の“闇”の前に、
ソラが切り開いた一振りを合図に。)

(クリーム色に輝く、空間通路が。 四方から集まり、降り注ぐ“闇”の下に
結合し。 散っていた、FOTメンバーを。)

(一堂に、呼び戻した。)

【ガアアアアーッ!】

ドオオオオーンッ

(晃の生み出した巨木が。 地中から、見る見る根を張り、張り出した枝が、
“闇”を止めた。)

(白の生み出す、水流が。 雨を払う、清き流れと成り。
水の壁を創り。 魔物を取り押さえた。)

(葵の創り出す、影のベールが、魔物から、人々を隠し。
また、人々の目から、おぞましい“闇”を遠ざけた。)

(光は、手にした鋭い光の輝きで。 魔物の動きを封じ、
“闇”を鋭い光が、切り払った。)

(剛の拳から生まれる、衝撃が。 “闇”を微塵にし、
魔物を砕いた。)

夏樹「・・FOT・・。」

(ピンバッジを握り締める、夏樹の手は、汗に、血に、雨に濡れていた。)

(集う仲間が、夏樹の心に火を灯し。 つかの間、深い紺色の瞳は、微笑んだ。)

「木々(きぎ)よ。」

(晃は、開いた手に、込めた力で。 大地を揺るがし、伸びて行く木々の力で。
壁と成し。 結界の代わりに、“闇”を覆った。)

「水(みず)よ。」

(白の生み出す水は、清く。 “闇”を封じた。)

「影(かげ)よ。」

(葵の生み出す影が、傷付く人々から、“闇”を静かに包んだ。)

「光(ひかり)よ。」

(光の生み出す、強い光が。 “闇”を光の壁の向こうへ、通さなかった。)

「内なる力よ。」

(剛の拳から、繰り出す波動が。 壁を生み、“闇”を閉ざした。)

ゴオオオッ!

(崩壊した結界の代わりに、夏樹がそうした様に。
FOTのメンバーは、自らの力を束ね。 盾となり、人々を守る壁を生み出していた。)

「剛(ごう)・・。 皆の力が、結界に成(な)っている。」

(彩は感動した。 惨劇の中、明けて行く空を見上げた。)

「夜が明けるわ。」

(雨は弱まり、夜明けが近いことを、知らせていた。)

***

(雲間から射し込む光は、次第に強くなり。
公園を照らし始める。)

「ピヨッ」

(青葉の上で、光を浴びるぴよの青い羽根が。 小さく羽ばたくと思うと。)

シュンッ

(ぴよの中に、閉じ込められたメッセージが。
紫苑の前に、映像となり、展開した。)

コオオオッ

青葉[「紫苑ちゃん。」]

(紫苑は、息を飲んだ。)

紫苑「青葉ちゃんっ!///」

青葉[「これを聞いている時。 もしかしたら、悲しい時かもしれない。」]

(青葉は、顔を上げ。 笑顔で紫苑を見た。)

青葉[「夏樹くんは、守ってくれる。」]

青葉[「世界は、終わったりしない。」]

(透明な、青葉の笑顔の映像の向こうには。 崩壊した公園が広がっていた。)

青葉[「正しく、生きた者に。」]

青葉[「道は、開かれる。」]

(射し込んで来る光は、次第に強まり。
透明な、青葉の姿を、かすませた。)

青葉[「・・世界は、変わってしまった?」]

青葉[「だけど、もし。 扉が開かれたなら。」]

青葉[「それは、夏樹くんが、あなたを選んだ証(あかし)。」]

(青葉は、強く。 拳を握り。 自身の胸元に当てた。)

青葉[「幸せを望めば、叶えられず、信じれば、裏切られ、夢は、壊れてしまう。」]

青葉[「そんなこの世界で。 幸せを願った証。」]

青葉[「紫苑ちゃんと二人でなら。」]

青葉[「この世界で、生きて行ける。」]

青葉[「きっと、そう思ってる。」]

(青葉は、強く握り締め、閉じていた拳を開き。)

(紫苑に、両手を開き、微笑んだ。)

青葉[「紫苑ちゃん。」]

青葉[「大好きよ。」]

青葉[「必ず、幸せになれる。」]

(雲間から、淡く降り注ぐ光が、透明な、青葉を照らし。
上がる雨の雫に。 この夜に起こった惨劇を。)

(明るく照らし始めた。)

青葉[「・・、ありがとう。」]

青葉[「夏樹くん。」]

(青葉は、両手を開き。 胸に光を集めたまま。
微笑み、目を閉じた。)

(青葉の残した、光の残像が、消える。)

(それでも、地上に差し込む光は、消えず。)

(次第に明らかになる、惨状と。
紫苑の前に、目を閉じ横たわる。 青葉の、安らかな顔を。
照らしていた。)

紫苑「・・・っ。」

紫苑「(ひっく・・)」

(それは、とても神々しかった。 紫苑は、両手に、
青いひよこを抱き。)

(光の下で、涙を零した。)

***

(もう一つの世界、エアリエル国で。 大巫女は、その様子を水鏡に映し、見ていた。)

大巫女「ソラよ。」

大巫女「命(いのち)とは。 愛しきものじゃ。」

(大巫女は、水鏡の向こうを、愛し気に見つめた。)

大巫女「人の運命は、違(たが)えぬ。」

大巫女「背負い、生きるものじゃ。」

(運命を変えようと、戦うソラの姿と。 運命を受け入れようと、戦う夏樹の姿を。
大巫女の瞳は映し。 告げた。)

大巫女「じゃが。」

大巫女「足掻くことは、出来よう。」

大巫女「そなたが変えると言うならば。」

大巫女「エアリエル国の、聖なる力が、そなたに宿ろう。」

大巫女「時には、幸せとなり。 時には、不幸となり。」

大巫女「時には、喜びとなり。 時には、悲しみとなり。」

大巫女「そなたを導くものがある。」

大巫女「力を尽くし、生きよ。」

(大巫女の皺の手が、慈しむように、水の上を撫で。
二人の王に、祈った。)

大巫女「時に。」

大巫女「寄り添い、分かち合うものがある。」

大巫女「そして。」

大巫女「たとえ、孤独となるとも。」

大巫女「聖なる力が、そなたを見ておる。」

大巫女「人は、愛され生まれてくる。」

(大巫女は、孤独と向き合う。 “闇の王”へ、
かつて、深い愛情を込め、育てた。 ルイの忘れ形見に、
指を伸ばした。)

(大巫女は、静かに語った。)

大巫女「幼き時。」

大巫女「そなたを愛した者がおる。」

大巫女「慈しみ、大切に育てた。」

大巫女「愛は、受け継がれ。」

大巫女「次の愛を、生む。」

(大巫女は、目を閉じた。)

大巫女「そして、同じ愛で。」

大巫女「いつの日か。」

大巫女「そなたを迎えに来る。」

大巫女「全ての命(いのち)は。 愛と共にある。」

(大巫女は祈り、輝く星の砂を、水鉢に放った。)

シャラララッ・・

(女王サラは、崩壊した大聖堂から。 続く、祈りの塔へ歩いた。)

(砕けて行く外壁と、床に転がる石が。 サラの美しい靴の音に、
小さく鳴る。)

(エアリエル国でも、静かに夜が明けようとしていた。)

(大小の星が煌めく空は、色を変え、輝き始める。)

(青い石で創られた塔内に、硝子の天井から光が注ぎ始める。)

トッ

(サラの美しい、絹の様なドレスが、青い石の床に舞った。)

(流れる清き水。 降り注ぐ光、茂る緑の木々。 塔内とは思えない、美しい自然は。
エアリエル国そのものだった。)

(サラは、小さな石段を登り。 その中央にそびえる、
一本の樹に、跪いた。)

サラ「聖なる“光の樹”よ。」

(サラの呼び掛けに、光の樹はそよぎ。 風が、香りを運んだ。)

サラ「わたしの力を。 エアリエル国の人々へ。」

サラ「地上の人々へ。」

サラ「届けたまえ。」

(サラは、王家の聖なる“光の樹”を見上げた。)

(“光の樹”は、花弁を散らしながらも。 頭上を埋め、咲き誇っていた。)

(それは、その樹に宿る。 最後の花だった。)

(ソラが王位を継げなければ。 散って行く命だ。)

サラ「世界の“境界”(きょうかい)、砂(すな)の海・・“砂海”(さかい)。
かつて“聖(せい)なる闇の樹の森”だった場所・・。」

サラ「“闇の魔女”の力・・。」

サラ「世界の“扉”が開かれた。」

(サラの水色の瞳が。 風に舞い散る花弁を見た。)

***

(ソラの水色の瞳が。 風に舞い散る、結界を見た。)

ソラ「くっ・・。」

(錯覚が襲い、ソラは戦闘の最中。 風見市の砂貝海岸から、花弁が舞うのを見た。)

ソラ「世界はひとつだ。」

ソラ「魔法が解け。」

ソラ「世界が繋がる。」

ソラ「この世界と、異世界の。」

ソラ「運命は、ひとつだ。」

(ソラは、強い魔法を込め、剣を放った。)

***

(エアリエル国の宮殿に、大聖堂に。 祈りの塔に。)

(太陽の光が、届き始める。)

***

(ソラは魔法の羽根を纏い、飛ぶ。)

(明けて行く空の向こうに。 海の上に。 太陽が昇り始める。)

(風見市の海と、エアリエル国の砂漠の海は。 繋がっていた。)

(太陽が、風見ヶ丘の校舎を、桜ヶ丘を照らす。)

ソラ「はぁ・・っ。 はぁっ。」

(燃えるような光が。 夜を越え、水色の瞳に映る。)

***

(遠い記憶が、甦る。)

(心を閉ざした、幼い夏樹に。 聖は、話しかけていた。)

「夏樹・・。」

(黄金色の瞳は、深い紺色の瞳を映し。 微笑んでいた。)

「心が湧く瞬間がある。」

「それを捉えれば。 風は、ずっと。 君のものだ。」

(あの時。 確かに、黄金色の瞳は微笑んでいた。)

***

夏樹『僕は、あなたに挑む。』

夏樹『僕は、逃げない。』

(夏樹は、友と。 切り離された。)

(だが、友の、存在を。 風を。)

(夏樹の中に留めたのは、聖の言葉だった。)

夏樹『あなたが大切に、育ててくれた。』

夏樹『だから、』

夏樹『僕は・・、負けない。』

(夏樹の目が、光を映すことは無い。)

(だが、胸元に、ピンバッジが残されていた。)

***

(夜が終わりを告げ。 世界は、朝日に包まれていた。)

(雨の後の世界は。 黄金色に染まり。)

(燃える太陽が、熱く。 新しい一日を運ぶ。)

(“闇”と魔物を制圧し。 人々は、静かに。 集い始めた。)

(如何なるものにも、等しく、太陽は注ぎ。
悲しみの上にも、眩い輝きをもたらす。)

(雨上がりの日射しが、あまりに美しく。
人々は、惨劇の中に立ち。 それぞれの想いを抱いた。)

(海浜公園を、遊園地を。 輝く日射しが、染める。)

(葵は、手を伸ばし。 生み出した影で。
眩い光から、少女を静かに。 覆い隠した。)

(雨と共に、風見市の上から。 結界が消えた。)

(海の上に、扉は開いた。)

ソラ「二つの世界に、太陽が昇る。」

(ソラは、傷を負い、痛む頬に。 潮風を感じた。)

(太陽を見上げる、水色の瞳が。 風を追った。)







『8月1日(継承)』

Chapter8『黎明』

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ





シナリオは、Chapter101『8月1日(懐古)』・Chapter102『8月1日(継承)』の各場面です。

物語全文はこちらから。

Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ

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『8月1日(継承)』

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