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Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter56 『傍にいる』 56-14


「ええ。 お気をつけて。」

(楓は、一本の和蝋燭に、側の灯りから、炎を移した。)

シュウッ・・

(炎は温かに燃え。 晃を、あの世との境界が曖昧なこの屋敷から。
無事に、現実世界に、導いてくれる安心感があった。)

「悪いが、行くぞ。」

(黒い着物を纏う男性は、眠る艶の髪を撫で。
怪しく光る。 翡翠色の瞳を、ゆっくりと、晃に向けた。)

『〈行け。〉』

『〈艶の炎がお前を守る。〉』

「また来る。」

(晃は振り返らなかった。)

『〈じきに、雨が降る。〉』

(男性は、美しい髪を揺らし、格子窓の向こうを
翡翠色の瞳で見上げた。)

『〈雨が消してくれる炎であるならば、〉』

『〈わたしもお前を行かしはしない。〉』

***

ジャリッ ジャリッ

(晃は白い敷石の上を歩き、先程来た道とは、反対に。 本殿からさらに奥へ



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