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ストーリー

* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * より
Chapter79『太陽と月(太陽)』

シナリオ

***

***

サラ 【この国に、新たな光の力を・・。】

【祝福されし、“光の樹”の源よ・・。】

【永久に・・この国を栄えたまえ。】

ゴオォーン・・

(どこからか、鐘の音が聞こえる。)

(異国の衣を纏った。 美しい女性の指先が、
幾つも眩い宝石を散りばめた、重量を感じる、大きな王冠を。 空色の髪の
少年の頭上に乗せた。)

ゴオォォォー・・ッ

***

***

ミイ 「ねぇ、ねぇ、ソラ。 美術館見に行こうよぅ。」

「かっこいいよ? A組の子がモデルなんだって。」

(夕暮れの校舎を背に、2人は並んで歩いていた。 高い少年の背中を、
小さな少女は突いたが。 水色の髪の少年は、振り返らず。)

(隣を歩く、小柄な少女の。 オレンジ色の可愛らしく短い髪の頭を
ポンポンと撫でた。)

ソラ 「はいはい。 ミイなら、中学生料金で入れるからな〜っ。」

-1-

(ミイと呼ばれた少女は、手にしていた風見通信という地方紙を右手でぎゅっとにぎり。
少年のシャツの背中を思い切り引っ張った。)

ミイ 「高2です〜っ!」

ソラ 「わぁ〜っ、何だよっ! 引っ張るなって。」

チリリリンッ

(歩道からはみ出たソラにつられて、ミイもバランスを崩し、爪先立った。
通り過ぎる自転車を避け。 ミイを歩道に押し戻し。
ソラは、ベルを鳴らした自転車の主に、ぺこりと頭を下げた。)

ソラ 「・・すみません。」

「ったく、何すんだよ? あぶねーな。」

(そう言い、ソラは。 間近でミイに、やっと振り向いた。)

ミイ 「くすすっ///」

「鈍くさいんだ〜っ、ソラ!」

ソラ 「俺かっ!?」

(光る。 ビー玉の様な水色の瞳は、怒っていながらも
楽しげだった。)

ミイ 「シャツ出てるよっ?」

(壁際に避難し、身体を少しかがめたソラの、水色の瞳に見つめられ。
ミイは面白そうに、だらだらに制服のズボンからはみ出た白いシャツをそっと指さした。)

ソラ 「お前だろっ。」

「は〜ぁ、暑っちい・・。」

-2-

ソラ 「早く夏休みに、なんね〜かなっ?」

(ソラは紺色のネクタイを緩め。 眩しい西日に、目を細めた。)

ミイ 「どこか旅行に行く? ソラのお家。」

「行くわけね〜だろ。 いつもろくに家に帰って来ね〜んだ。」

(歩き出し、ソラは、つまらなさそうに。 水色の髪の頭を掻いた。)

ミイ 「仕方ないよ。 お仕事が、忙しいんだもんっ。」

(ミイは、並んで歩き、不機嫌なソラの顔を見上げた。)

ソラ 「お前のところは? 今日も一人なのか?」

ザサッ

(ミイは突然、ソラから距離をとり、鞄で自身をガードした。)

ミイ 「夜は来ちゃだめっ!」

ソラ 「はぁっ!?」

「やめろっ/// どう見ても、俺とお前じゃ

釣り合わないだろっ?」

(ソラは待ったのポーズで、ミイに右手を差し出したが。
続きの言葉を聞く前に、突然。 湧き出した涙を隠し、ミイは鞄の向こうに隠れ
あっという間に、ソラの前から駆け出した。)

ソラ 「・・身長が。」

(言い終えた時には、ミイの姿は無かった。)

-3-

ソラ 「ったく、何だよ? 冗談通じねえな。」

(ソラは、夕暮れに染まる空を見上げた。)

ソラ 「ふぅ・・。」

「なんか、面白いこと。 ね〜かなぁ・・。」

(夕日を映す、水色の瞳は、オレンジ色の光を集めて、
光った。)

(ビー玉の様な瞳は、悲しげに揺れ。 何かを探し、空を見た。)

ソラ 「こんな小さな街じゃ。 何も起こらない。」

『いつか、都会に出れば。 俺も夢を見たり

するのかな?』

『学校が、つまらないわけじゃない。』

『あいつと居ることだって。』

(ソラは、暮れかけた住宅街の、路地を行き。 一軒家の自分の家に来た。)

「ニャァ」

(後ろから聞こえた鳴き声に、ぼんやりと振り返る。)

(見ると、向かいの塀に。 小さな黒い子ネコが一匹、しっぽを振っていた。)

ソラ 「(べー。) 何にもね〜よ。」

「残念。」

-4-

(ソラは舌を出し、子ネコを追い払った。)

(子ネコは、向かいの家の。 『美空』の表札をちらりと黄色い目で見た後、
機嫌を損ね、つんと顔を上げ。 その場を後にした。)

ソラ 「(チッ)・・・。」

(猫にまで、馬鹿にされた気がして、ソラは舌打ちし自分の家を見つめた。
古びた、日本家屋の小さな家が。 暮れかけた空の下。 どこか、寂れて、
ソラの気持ちは晴れなかった。)

(年季の入った、『天野』の表札を見て。 ため息をつき、
引き戸の玄関を開いた。)

ソラ 『帰るのが、別の場所ならいい。』

ガララッ・・

ソラ 「ただいま〜っ。 ・・つったって、

誰もいね〜か。」

(軋む木目の玄関を上がり、正面の、居間へ。 のれんをくぐり入った。)

ソラ 「はぁ〜、暇だ。」

(テーブルの上に、メモ書きが何も無いのを見たあと。
居間を通り、そばにある、自室へふすまを開けた。)

バタンッ

ボスッ・・

(ソラはすぐに鞄を投げ捨て。 それだけでいっぱいになってしまう小さな部屋の、
ベッドの上に、上向きに倒れた。)

-5-

(ふわりとシーツが、背中を包み。 側にある、すり硝子の窓から
沈み行く夕日が、ソラを照らした。)

ソラ 「・・・。」

『どうしてだろう・・?』

『生まれた時から、ずっとこの、ちっぽけな街で暮らして来たのに。』

『時々、感じるんだ・・。 違和感・・。』

『俺はここに居ていいんだろうか?』

(見上げた水色の瞳に映るのは、
ただ、古びた天井があるだけで。)

(この街で、自分に出来ることなど、この先も
有りはしないと。 言われている気がした。)

ソラ 「ああ・・っ、何やってるんだ? 俺は・・。」

(その思いは、時折、宵闇と共に、ソラの胸に訪れ。
ソラを揺り動かした。)

ソラ 「んなもんっ、考えてもわかんね〜よっ。」

(苛立ち、水色の髪を両手で掻き上げ、ベッドの上で目を閉じた。)

ソラ 「俺に、出来ることなんて何もないさ。」

「なんか、びっくりするくれ〜、面白いこと。 起これよ・・。」

(出来ることはないと、口にしながら、何かしたい気持ちが、
訳もなく胸の奥に湧き上がる。)

(ソラは、つぶやき、眠りに落ちた。)

-6-

ソラ 『びっくりするくれ〜、面白いこと・・。』

『そんなことを思ったことを。』

『俺は、1時間後に。 後悔した。』

***

ゴウンッ・・

ゴウンッ・・

(風か、嵐か。 唸る音が聞こえ、ソラは薄っすらと目を開けた。)

ソラ 「ん・・。 ん〜・・。」

(額に手をやり、すっかり日が落ちた、窓の外へ。
視線を移した。)

ザワザワザワザワッ・・

ソラ 「ん? ・・・。」

(半目を開け、すり硝子の向こうを見た時。
何か、黒く大きな影が。 窓の奥を通り過ぎるのを見た。)

ソラ 「親父か? お袋か?」

「帰って来たのかな。」

ギッ

(ベッドから身体を起こし、寝ぼけ眼で、居間へ移動した。)

ソラ 「お、やっぱ帰ってたのか。 今夜のおかずは・・海老フライっと。」

-7-

ソラ 「『たくさん食べてくださいね。』・・って、また。 すぐパートに出たのかよ。」

「めったに顔合わせね〜んだから、書き置きじゃなくて、起こせよな。」

(ソラは、言うと。 テーブルの上に乗った、
お皿のラップを外し。 そっと1匹。 つまみ食いに、海老フライを。
口に運んだ。)

ソラ 「いっこ、いただきま〜・・す・・。」

「(あ・・。)・・・。」

(口を開け、食べようとして。 ソラは海老フライを取り落とした。
同時に、目が覚めたソラの目に、足元の。 テーブルの下に、
大きな穴があいているのが見えた。)

ソラ 「わわっ!」

ガシャーンッ パリリッ

ソラ 「・・っ、あぶね〜。」

「あ〜; 俺の海老フライ・・。 何だよ、床に穴開いてんじゃね〜か。」

「どんだけ古・・。」

(様子を見ようと、30センチ位の穴を、覗き込んだ時だった。)

(穴から、突然。 破裂した水道管さながら、黒い水柱が立ち上がった。)

バリバリバリッ・・!

ゴワッ!

ソラ 『!』

-8-

ソラ 「うわっ・・!」

バシャシャシャッ・・

ソラ 「水道管か?」

『黒い水・・。』

バャッ・・バシャシャッ・・

(水柱は始め小さく見えたが、ソラが瞬きした次の瞬間
驚異的に水量を上げた。)

ゴワッ・・!

ソラ 『・・・っ!』

バキッ ドォォォーンッ!

ソラ 「うっ・・!」

(激しく、黒い水は床板を打ち破り、テーブルごと、上に乗った
夕食をこなごなにまき散らし。 居間の天井まで噴き上げ、屋根を突き破った。)

バキバキバキバキッ

ソラ 『・・・っ!』

「あ・・・。 あ・・。」

(ソラは、茫然と仁王立ちし。 無くなった、居間の天井を見上げた。)

ソラ 「おい・・。 おいおい、うそだろ。」

「あ〜、あれだ。 わかった。 夢だ、俺まだ寝ぼけてる。」

-9-

(ソラは、自分に言い聞かせ。 ふむふむと幾度も
頷き。)

(居間を後にして、自室へのふすまを開けた。)

ソラ 「ふぅ・・。 一旦落ち着こうぜ。」

「ろくな夢見ねえな・・。」

ポスッ

(再び、狭い一室で、ベッドに上向きに寝た。)

ゴウンッ・・

ゴウンッ・・

(ソラは、物音を聞かない様にしたが。 どう考えても、すり硝子の窓の奥に。
何かが居る気がした。)

バキッ・・

(その時だった。
天井を静かに見つめ、横になっているソラの頭上で。 ゆっくりと、
はじから天井が、はがれ始めた。)

バキバキッ

(嵐などの災害のせいではない。 水道管の破裂でもない。
巨大な黒い。 ドロドロと流動する生き物の手が、
家の外から屋根をはがしている。)

ソラ 「・・なるほど。」

ピチャン・・

-10-

【ゴォォォォーッ!】

(はがれた天上から、唸り声を上げる生き物の、巨大な口が見え。)

(口からこぼれた、黒い雫が。 1滴、真下に寝ている、ソラの頬に。
落ちた。)

ソラ 「冷たい・・。」

(ソラは、手で頬に付いた雫を拭った。 黒い液体は、ドロリとして、銀色に光る。)

バキバキバキバキ!

(生き物は、完全に屋根をはがし。 真上から、巨大な四肢を、壁にはわせ。
ソラを覗き込んだ。)

バラララッ

(飛び散る瓦礫が、ソラのベッドの上に降り注ぎ。 一つの木片が、
ソラの頬を切った。)

ソラ 「夢じゃないな、これは。」

(巨大な生き物が、見下ろしたが。 ソラは微動だにせず、横たわっていた。
自分の中で、出た答えに納得したソラは。 はじめて身体を起こし、
ベッドの上に立った。)

ソラ 「よし。」

「てめぇ・・。 良い度胸じゃねぇか?」

「俺の家を壊しやがって!」

「どうしてくれんだよ?」

-11-

ソラ 「俺の夕飯、どうしてくれんだよっ!!」

「海老フライはなぁ・・、海老フライは。 俺が一番好きで!

お袋の得意料理なんだよっ!」

(ソラは、頭上から、黒い液体をぼたぼたとこぼす、巨大な生き物に向かい、
拳を上げ叫んだ。)

ソラ 「たしかにっ!

びっくりするくれ〜、面白いことって言ったけどよっ。」

「こんなの面白くね〜だろうがっ!」

「馬鹿やろうっ!」

(巨大な生き物の黒い目は、爛々とし。 不気味に回転し、ソラの姿を、
映していた。)

(風見ヶ丘高校の、制服は。 滴る黒に染まり、水色の髪に雫を残す。)

(ソラは、恐れていなかった。 水色の瞳が、睨み返すのを。
生き物は、ただ見つめ。 攻撃してくる様子は無い。)

ソラ 「はぁっ、はぁっ・・。」

(ソラは叫び、生き物を睨み、肩で息をした。)

ソラ 「ん?」

サァァァァーッ

(その時。 屋根の上を、風が流れ。 ソラの見上げる先で、黒い生き物は、
ゆるやかに。 ベールに包まれるかの様に、形を歪め。)

-12-

(ソラの目の前から消えた。)

ソラ 「・・・っ。 向かいの家へ!

はっ、ミイ・・。」

(生き物が、向かいの家の方へ、消えた気がして。
ソラは、突然不安になり。 自室から駆け出した。)

ガララッ

バキッ・・

(足元に家の残骸が転がり、つまずき、慌てて玄関を開く。)

ガララッ

(一歩、ソラが、玄関から外へ出た時。
足元に不思議な柔らかさを感じ、ソラははっとした。)

グワンッ・・

ソラ 『な、なんだ・・?』

『家の外まで、何かおかしい・・。』

「ミイ・・!」

(玄関から出て。 すぐ目の前のミイの家を見た。
夕方に見たのと同じ景色がそこにあったが。 目の前にあるのに、
ソラの足は。 それ以上、一歩も前に進まなかった。)

ドンッ

ソラ 『なんだ? 壁?』

-13-

(すぐ目の前に、何か。 巨大な、透明な壁が、
ソラの進路をふさいでいる。)

ドンッ

(ソラは、拳で見えない、透明な壁を叩いたが。 びくともしない。)

ソラ 「んっ、ぎぎぎっ・・!」

(両手で、引き戸を引く様に、壁に手をかけてみたが、どこにも扉は無く、
開かなかった。)

ドンッ

ソラ 「ミイ・・!」

(ソラは、両手の拳で、壁を叩いた。)

ミイ 【ソラ・・!】

ソラ 「はっ・・。」

(目を見開くソラの前に、透明な壁の向こうに。 涙して立つ、幻の様な
ミイの姿があった。
ミイは、そっと。 開いた両手で、壁に触れた。)

ゴォォォーンッ

(突然、耳元で、鐘の音が聞こえ。 ソラは耳をふさいだ。)

ソラ 「あっ・・!」

ゴォォォーンッ

(かろうじて目を開け、鐘の音が聞こえる空を見定めた。)

-14-

ソラ 「はっ・・。」

(星空の彼方。 三日月の照らす夜空に。 ソラは、遠く宙に浮かぶ人影を見た。)

(小柄な人影のそばに、先程の黒い生き物が居た。 良く見ようと、瞬きをしたソラの、
水色の瞳に。 月明かりに照らされる瞬間。 紺色のネクタイをした少年が見えた。)

ソラ 『人が空に浮いてる・・。』

『あの服・・。』

シュワンッ・・!

ソラ 「・・っ! わわわっ!」

「っ、ぶねぇ。」

(目の前にあった壁が、突然消え。 体重を乗せていたソラは、転びそうになり、
身体を起こした。)

ソラ 「はっ!」

「・・マジかよ・・。」

(ソラは、慌てて、自分の家へ振り返った。)

(そこには、帰宅した時と、まったく同じ。 古びているものの。
味があり、どこかほっとする。
日本家屋の我が家が。 無傷で、当たり前の様に、建っていた。)

ソラ 「うっ・・。 夢だったのかよっ!」

「家が直ってる・・。」

(ソラは、安心すると同時に。 唖然とした。)

-15-

ソラ 「白昼夢か?」

「はっ、そうだミイ!」

ダッ

(ソラは慌てて、ミイの家のベルを鳴らした。)

ピンポーン ピンポーン

ドンドンドンッ

ソラ 「おい! ミイ、俺だ。」

「無事かっ! さっき変な怪物が・・。」

「(チッ)・・。」

(ソラは、ミイの応答を待ち切れず。 いつも開けたままになっている、
縁側から、窓を開けて。 中へ入った。)

ソラ 「ミイっ!」

(カーテンの向こうから現れたソラに、向かいのキッチンに腰かけていたミイは驚き。
大きな瞳で、瞬きした。)

ミイ 「ソラ?」

ダンダンッ

(ソラは勢い良く室内を横切り、ミイの目の前でテーブルに身を乗り出した。)

ソラ 「大丈夫かっ! はぁっ・・。 やっぱり、

何かあったんだな?」

-16-

ソラ 「無事で良かったよ・・。 はぁ〜。」

(ソラは安堵し、オレンジ色の可愛らしく短い髪の頭を
ポンポンと撫でた。)

ミイ 「ううっ・・; ううん。 何もないよ・・。」

(一人で夕食の食卓を前に小さく座っているミイの、大きな茶色の瞳に。
大粒の涙が浮かんでいた。)

ソラ 「泣いてるだろうが?」

(言いながら、可愛らしいテーブルカバーの食卓に、一人前の食事が。 こぢんまりと
乗っているのを見て。 次に胸元に大きなクマのぬいぐるみを抱いているのを見て、
ため息をつき、困ったようにミイを見た。)

ソラ 『さっきも、お前が泣いている様な気がしたんだ。』

「それ何? お前、クマと一緒に飯食ってんのかよ?」

ミイ 「・・っ!/// 別にいいでしょっ!」

「どうせガキですっ。 笑えばっ?」

(ミイは完全にふてくされ。 頬をふくらませ、怒って見せた。)

ソラ 「ぷっ、ははははっ!」

ミイ 「ほんとにっ、笑うな〜っ!///」

(ソラはニッと笑い、ミイを誘った。)

ソラ 「俺ん家来いよ。 海老フライあるぜ。 あ〜・・たぶん?」

(先ほど破壊された、台所を思い出し、ソラはちょっと空をあおいだ。)

-17-

ミイ 「うん!」

ソラ 「クマは置いて行け!」

ミイ 「ええ〜っ;;」

(クマを持つ、ミイにびしっと指摘し。 ソラはミイを連れ、
自宅へ戻った。)

***

ソラ 『不思議だ・・。 どこも、壊れてない。』

『ほんとうに、夢だったのか?』

(ソラは、向かいに腰かけ。 もりもり食べる笑顔のミイを見つめ、
ぼんやり思い返した。)

ソラ 『あの、黒いやつのそばに、誰か居た。』

『あの制服・・、風見ヶ丘高校に見えた。』

「いや、空飛んでたぜ。 ないだろ。」

(考え込み、ソラの箸は止まった。)

ミイ 「何ひとりごと言ってるの? ソラ、もっと食べなよ。」

ソラ 「ん? あ・・ああ。」

ミイ 「あれ? ソラ、頬っぺたどうしたの? ケガしてる?」

(はっとして、ソラは我に返った。)

ソラ 「・・・。 やっぱ、夢じゃねえよな。」

-18-

(降り注いだ木片が、切った頬は。 傷つき、触れるとヒリッと痛んだ。)

ソラ 「ミイ。 お前、最近家族にいつ会った?」

(ソラは頬に触れ。 真剣な瞳で、考えを巡らせた。)

ミイ 「え? いつって・・、何言ってるの?」

「毎日会ってるでしょう? ほら、夜帰りは遅いけど。」

「ソラの家だって、お母さんご飯用意してくれてるじゃない。」

(水色の瞳は、瞬き。 何か、答えを探す様に、目の前の景色の向こう側を、
見つめている様だ。)

ソラ 「そうかな? 俺は・・、こんなことしている場合じゃない様な気がするんだ。」

(ソラの水色の瞳は、ミイを見た。)

ソラ 「お前も、そうじゃないか? 何か。」

「忘れているような気がする。」

「大事なことだ。」

(ミイはふるふると、首を振った。)

ミイ 「ううん。 わからない・・。 でも、夜になると怖いの。」

「・・何か、起こる様な気がして。」

(ミイはきゅっと、小さな肩を縮めた。)

***

ソラ 『考えてみたところで、俺の頭で、わかることじゃない。』

-19-

ソラ 『あれ以来、家は普通で。』

『何事も、起こらない。』

『あの怪物が夢だったのなら、一瞬見えた、あの高校生を。』

『探そうとするのも、無意味なことだ。』

(ソラは、またいつもの帰り道。 夕暮れの、住宅街を歩いていた。)

(あの日の出来事が気に掛かり、つい。 手掛かりになるあの人物を、
探そうと、校内を見たが。)

(思い当たる人は居なかった。)

ソラ 「はぁ〜っ。」

(相変わらず、虚しい無力感が、時折ソラを襲い。 何も出来ずに居る自分に、
訳もなく、腹が立った。)

ソラ 「なんか手掛かりがね〜かな?」

「この状況が、わかるやつ! 誰でもいいから来いよ・・。」

(ソラは、水色の髪を掻き上げ。 空を睨んだ。)

ソラ 「俺の思い過ごしならいい。 だけど・・。 何かがおかしい。」

『この状況が、わかるやつ。 誰でもいいから来い・・。』

『そんなことを思ったことを。』

『俺は、即座に。 後悔した。』

***

-20-

ガララッ・・

ソラ 「ただいま〜っ。 ・・つったって、

誰もいね〜か。」

(ソラはいつもの様に。 古びた、日本家屋の家の、玄関を開いた。)

(途端にソラの口が、まるで顎が外れた様にぱかっと開き。 鞄が手元から落ちた。)

ソラ 『・・・!』

ドサッ

(そこに、見たこともない可愛らしい女の子が立っていた。)

(ソラが帰ったことに気づくと、女の子は玄関から振り向き。 クリーム色にカールした
長い睫毛を瞬かせ、ふわふわと軽やかに。 幾重にもカールした長い髪をゆらし。
やわらかに微笑んだ。)

ピュア 「おかえりなさいです! ソラさまっv」

(ソラは、その姿を一瞬確認すると、即座に玄関を閉めた。)

ガララッ・・

ソラ 『・・・。』

「ふぅ・・。 一旦落ち着こうぜ・・。」

「あれだ、俺。 このところ、考えごとし過ぎただろ。」

「勉強でも使ったことない頭が、疲れて・・。」

(ソラは、玄関扉に手をかけ。 苦悶する様に、額を扉につけ、うなった。)

-21-

ピュア 「ソラさまっ?v どうかなさいましたか?」

(扉の向こうから聞こえる、とろけそうな甘い声に、ソラは目を開き。
勢い良く。 玄関扉を再び開けた。)

ガララッ

ソラ 「・・お前っ!」

「誰だかしらね〜けど。 人の家に不法侵入だぜ!」

「俺はコスプレの趣味はねえ!」

(ソラは、厳しく言い放ち、小柄な少女を指さした。)

ピュア 「? コスプレ?」

(指さされ、クリーム色の瞳をぱちぱち瞬く少女の服装を、ソラは改めて見た。)

(小さくつま先の丸いクリーム色の靴に、ニーハイソックスの細い脚。
きらきらした石の装飾が施され、その上のふわふわと丸みを帯び、
綿を包み込んだように膨らむドレス。 袖元から見える、細かなレースは、女の子らしく。)

(クリーム色に、カールし、腰までも届く。 柔らかな髪も。
見れば見る程、まるでショートケーキの様に可愛らしかった。)

ソラ 「・・・っ、ヤベー。 かわいい・・。」

(ソラは眉間に手をやり、頭を冷やそうと。 目をつむった。)

ソラ 「どう見ても、魔法少女じゃねーかよ。」

(それを聞き、少女はぱっと表情を輝かせ。 ソラの元へ駆け寄った。)

ピュア 「はい! やっぱり、覚えていてくれたんですねっ!」

-22-

ピュア 「よかった〜v “次元の扉”を越えた者は、記憶を無くすと。

聞いていましたからっ。 きっと、忘れてしまっているだろうと

思ったんです!」

「そんなことになったら・・; ピュア、悲しくて泣いちゃいます・・;;」

(言うと、少女はドレスのポケットから、手のひらに乗る小さな
棒を取り出し。 ソラの目の前で、囁いた。)

ピュア 「《闇の力を秘めし鍵》よ。 我に力を。」

キュキュッ ポンッ!

ソラ 『んおっ・・!?』

(瞬きするソラの目の前で。)

(小さな棒は、少女の手のひらの中で回転し、大きな魔法のステッキに姿を変えた。)

ピュア 「どうです?v ソラさまっ!」

「ピュアは完全にv 《闇の魔術》を、習得しましたよっ。」

「ソラさまは、できるようになりましたか?v でもっ、《光の魔術》もまともに

使えなかったのですからっ/// 反対魔法が出来るかなんてっ、ピュアは心配です・・;」

「ですがっ、ソラさまっ!」

「《闇の魔女の力》が注がれた今・・。 通用するのはっ、これしかありませんようっ!」

「剣術だけでは、通用しませんっ。 ソラさまっ、ふぁいとです!v」

-23-

ピュア 「ピュア、応援しますっv」

(ピュアは熱気を持った目で、ソラに近づき。
クリーム色の睫毛を瞬かせ、好きな魔法のことを語り出すと止まらない癖で。
一気にまくし立てると、熱い視線で、ソラに迫った。)

ソラ 『・・・・!』

「・・・。 お前、何言ってんだよ?」

(ソラは一瞬、近づいた少女から漂う、甘いバニラの香りにドキッとしたあと。
冷静になり、冷たい視線で見つめ返した。)

ピュア 「うううっ;; ソラさま・・っ!」

「やっぱり、忘れてしまったのですね・・;///」

(少女のクリーム色の瞳が、キラリと潤み。 ソラは慌てた。)

ソラ 「は?///」

ピュア 「でもっ! ピュアが来たからには安心ですv 魔法使いは、

記憶を無くさないんですよv」

「こんな時のために、あとから追いかけると。 誓いました。」

(ピュアは、顔を上げ。 じっと、古びた日本家屋の天井や、
壁。 台所を見つめ、ソラへ視線を戻した。)

ピュア 「上手く。 この世界に溶け込んでいますね?」

「姫巫女さまも、この近くに?」

(少女の言葉に、ソラは瞬いた。)

-24-

ソラ 「え?」

(クリーム色の瞳は。 真剣に、ソラの水色の瞳を見た。)

ピュア 「《時の欠片》は、見つかりましたか?」

ソラ 『時の欠片・・?』

(水色の瞳が、目の前に立つ、現実離れした少女の。
真剣な瞳を見つめ返した。)

ソラ 『何のことだ・・?』

『だけど、俺は。 この少女の言葉で、まるで、ぼやけていた視界が。

はっきりする様な。 目が覚めるような、不思議な感覚を覚えた。』

(少女はにっこりと微笑み、ソラを見た。)

ピュア 「わたしはピュア。」

「王室に仕える、魔導師です。 見習いですけどv」

(ピュアは、柔らかく、優しく。 現実と、夢を彷徨うソラを導く様に、
手を差し伸べ微笑んだ。)

ピュア 「まだ、間に合います。」

「エアリエルと共に、この世界を救うために。」

「探しだしましょう。 最後の《闇の鍵》。」

「お迎えにまいりましたv」

「次期、エアリエル国の王・・。」

-25-

ピュア 「《エアリエル・ライト・ソラ》」

「あなたになら出来ます。」

(ソラは瞬く、水色の瞳を開いた。 この、ありえない。 非現実的な少女と、
少女の語る話に、耳を傾け、大きく見開く瞳を輝かせた。)

ソラ 「俺は、天野空だ。」

「まぁ、良い。」

「ピュアか?」

「どうせ暇だ、話を聞こう。

もう少し、分かるように話せ。」

(ソラは落とした鞄を拾い、玄関へ上がった。)

(ピュアはたちまち笑顔になり、クリーム色の瞳を煌かせ満面の笑みで
頷いた。)

ピュア 「はいっ!v」

(後ろから付いてくるピュアに、ソラはビシッと足元を指さした。)

ソラ 「お前っ! さっきから土足じゃね〜かよっ;」

ピュア 「えっ?」

(ピュアは小首をかしげ、嬉しそうにソラの後につき、のれんをくぐり、
台所に向かった。)

ソラ 『何が何だか、俺には分からなかった。』

『だけど。 これだけは、間違いない。』

-26-

ソラ 『何か、面白いことが、

起こり始めたんだ。』

-27-

『太陽と月(太陽)』
Chapter79 End

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ

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