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Chapter1『はじまりの夜』






「ふぅ・・、これだけの数の欠片が、今度の街に眠っているんだ。」



「静乃さんのデータ分析は、間違いない・・。」

「闇化を防げる方法が、早く見つかると良いんだけど。」

「聖が、移動する先の街を決めたなら、

僕も早く、動きたいな。 このデータの状態なら・・。

いつ闇化してもおかしくない。」



「・・聖は・・。」





「ふぅ。」



「夜は、少し肌寒いな。」



「・・、潮風が来る。」





『風は、次の街、風見市から吹いてる・・。』

『聖が、空間をつなぐ結界を創りはじめたんだ。』



「今夜は帰りそうにないな。」

「千波ちゃんに教えてあげようか。 まだ起きて待っているかも

しれない。」



「ん?」

「・・静乃さんだ。 オフラインにしていたのに、

僕も夜更かしが見つかったかな。」



[「こんばんは。 夏樹くん。」]



「こんばんは。 静乃さん、真夜中でも元気だね?」



「くすくすくすっ。」

「何してるの? 夏樹くん。 彩先生に、ドクターストップかけられてるくせに。」

「静乃さんこそ、学校の先生なら、とっくに帰る時間だろう?」



[「残念。 ここは職員室とつながった別空間、新しい街、風見市に新設した

FOT分室、よ。」]



[「今は、君の先生じゃないの。 クラスに転入してくるの、

楽しみにしてるわ。」]

「・・何言ってるの。 毎日会ってるし、明日も朝食の時、会うだろう?」

[「気分が違うでしょ。」]

「ふっ、そうだな。」



「聖は、結界を創り始めてる。」

[「ええ。 新しい移転先は、風見市に決まりよ。」]

[「メンバーには、明日伝える。 国には、もう活動許可を取っているわ。」]

「・・データの通りなら・・、これまでのどの街より

多くの欠片が眠っていることになる。」

「広域結界を張るつもりかな?」



[「そうなるわね。 今、晃君と出かけてるわ。」]

[「風見市の方角へ、少しつながりはじめている。」]



「うん。 わかる、風が吹いてるから。」



「どう? 今度の風は、扱いやすいかしら?」



[「う〜ん、戦ってみないとわからない。 潮風は・・、身体にまとったことない。」]



「そっか、千波ちゃんが海苦手だから、

夏樹くん海に行かないものね。 聖も遊ばせないし。」



「・・もう子供じゃないんだけどね。 いつまでも、聖の許可ばかり

取っていられないよ。」

[「あら、総司令官の許可は、メンバーの活動には必須よ。」]

「・・僕が言ってるのは、そっちの許可じゃないよ。」

[「くすくすっ、わかってるわよ。 あの人、親ばかで、過保護だからね。」]

「静乃さんからも、言ってくれないかな?

ドクターストップなんて彩さんが言うから、聖が大げさに僕を現場から遠ざけるんだよ。」



[「あら。 残念、わたしは、ただのFOTオペレーター。

国家生命科学研究所の所長、彩さんへも、国家機密組織、Fragment of Time総司令官、

聖くんへも意見できるほどの立場じゃなくてよ。」]

「冗談・・。」

[「冗談じゃないわ。 あなたから、お願いしたら?」]



[「FOT VIP No.3の、雨宮夏樹くん?」]



「ふぅ・・、わかった。 もう寝るよ。」



「思ったより、元気そうで良かったわ。

あまり考え込まないで。 君を悩ませたくて、データを横流ししているわけじゃ

ないんだからね。」



[「うっ・・、さりげなく、無理を頼んだ事せめてるみたいだ。」]

「違うわよ。 もう一人、あなたを心配して起きている人がいるの。」

[「? 千波ちゃんのこと?」]



「大丈夫、千波ちゃんなら、もう眠ったわ。 さっきまで、聖くんに差しいれ持って行く

かどうか、ずいぶん悩んでいたみたいだけど。」



[「・・、そんなことしたら、不安定な空間の狭間に身体ごともっていかれちゃうよ。」]

「それくらい好きなの。」



[「んん・・。」]

「なあに?」



「別に・・。」

『面とむかって言われると、わけもなく気まずい。』

『千波ちゃんが、僕の双子の姉だからか。』

『聖のことは、僕らにとって、父親と同じで。 良く知っていて。

どこか敵わないところがあるからかもしれない。』



[「シスコン。」]

「違う!」



「夏樹くん、眠る前に、あなたの部屋のドアの外を見てね。」

「何?」



[「あなたが眠るまで、ドアの外で、守っているつもりよ。」]





「はっ。」



[「お休みなさい。 彼にもそう伝えて。」]

[「私の恋人。 あなたのナイトに。」]



「Fragment of Time・・。」



『通称、FOT。 時の欠片と呼ばれる、国家機密組織。』



『ここは、その本社で。 僕のもう一つの家だった。』



「・・僕がオフラインにしていても。 あいつがオンラインなら、

意味ないな。」

「ふぅ。」





「あっ、夏樹様。」

「菖蒲・・。」



「・・すみません、眠られるまで・・と思って。」

「ふぅ。 今日はここに泊まるから、先に屋敷に帰って良いって、言ったのに。」

「あ・・、はい。」

「お邪魔でしたか?」



「ったく、それ。」

「え?」



「・・静乃さんに筒抜けだ。」

「はっ・・、すみません!」

「くすくすっ、良いよ。」



「菖蒲、立ってて疲れただろう。 中入る?」

「いいえっ、セキュリティーもありますし。 もう休まれた方が・・。」



「そうか。 メンバーまで部屋から閉め出すとは思わないけど、聖がしかけた

セキュリティーだから、信用できない。」



「くすくすっ、そうですね。」

「空間の狭間に、飛ばされないうちに、私も戻ります。」

「うん。」



「菖蒲、もし良かったら。 明日僕と、街まで付き合ってくれないか?」

「・・はい?」

「街へ、ですか?」



「新しい街が決まったんですね。」



「ああ。 少し手が掛かりそうなんだ。」



「かしこまりました。 もちろんです、どこまでもお供いたします。」

「くすっ、ありがとう。」



「お休み。 菖蒲、静乃さんから伝言だ。」

「たまには僕の側にいないで、」



「会いに来てほしいって。」



「はっ、」

「くすくすっ。」



「夏樹様!」



「嘘ですね。」



イラスト:東風 背景美術:Studio Fuji タイトル:二月ほづみ

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