* Fragment of Time *

時の欠片の道しるべ

Chapter102『8月1日(継承)』

Section2『嵐』


(夏樹は、祭りに興じる人々。 また、嵐に叫ぶ人々の間を、
駆け抜けた。)

(走りざまに、“闇化”する人々を見極め。
FOTの、聖の創り出す結界の中へ。 誘導した。)

(風が、雨を弾く。)

(嘆いている暇は無かった。 元凶である、自らが。 風に触れる度、
“闇化”は起こる。)

(いや、自らが呼吸し。 生きていることが、“闇化”を起こしている。)

(ソラの魔法の抑制が効かぬほどに、夏樹の感情は、流れ出し。
鼓動する“鍵”が、辺りに黒い波動を漂わせた。)

夏樹「晃(あきら)さん・・!」

夏樹『狐次郎が、僕の情報を、晃さんの物とすり替えたと言っていた。』

夏樹「あいつは、“鍵”の在り処を探りに来る。」

夏樹「僕のために・・、誰かを。 傷つけさせたくない・・。」

(夏樹の思いと裏腹に、晃は。
自らを、守りの無い場所に置き。 静かな表情で、FOTが創り出してゆく結界を。
見つめていた。)

***

「邪魔だよ。 晃(あきら)君・・。」

(薄く開いた、金色の瞳が。 空間の向こうから。
その光景を見ていた。)

「くっくっ。」

(自分はここに居ると、言いたげに。 無防備に立ち。 それでいて、満足そうに、
仲間の様子を見つめている。 晃の笑顔に。
聖は、面倒くさそうに笑った。)

「君の。 そういうところが、

嫌いだ。」

***

夏樹「はぁ・・っ、はぁっ。」

(雨の中、夏樹は、晃の元へ向かい走った。)

(聖の注意が、晃に向いているのを感じた。
挑戦的な晃の行動は、聖の感情を逆撫でた。)

ピコンッ

夏樹「・・はっ、菖蒲(あやめ)。」

(呼び出し音に、夏樹は立ち止まり。 雨の雫が滴る手で、
通信機を起動した。)

菖蒲[「夏樹様。 数馬(かずま)様の元へ向かってください。」]

(夏樹は、迷い、首を振った。)

夏樹「だめだ・・! 晃さんが、結界の外に居る。 おとりになるつもりだ。」

(菖蒲の傍で、静乃が通信機を手にした。)

静乃[「夏樹くん。 数馬くんと、春日(かすが)さん一家が一緒に居るの。」]

静乃[「お願い、行って。」]

(静乃の言葉に、夏樹は、瞬時ためらいながら、苦渋の決断をした。)

夏樹「・・・っ!」

ダッ

(雨が、白いシャツを濡らす。 水たまりを蹴る、スニーカーが、
風を纏い、夏樹を前に進ませた。)

(だが、頭上で、闇夜を照らす、稲妻が。
あちこちで、戦闘が起こっていることを、映し出していた。)

(滴る雨に、夏樹は、顔を歪めた。 雫を払い。 深い紺色の髪を掻き上げる。)

(夏の熱を冷ます、雨は。 人々から、幸せを覆い隠し。
激しく打ち付ける先は、見えず。 稲光が、暗闇の中に。
目を背けたくなる現実を、見せた。)

(夏樹の見上げる、空の彼方まで。 覆い隠す、結界が無数に広がっている。)

(それだけの数の“闇”が、今起こり。
戦いが起こっていた。 自らの向かう先を示していた。 決して、
普通の人々が、向かう場所へは戻れない。)

夏樹「はぁ・・。 はぁっ。」

(祭の中、人々の笑顔の中に、居られた時は。 幻だった。)

(幸せは、一瞬で、壊れるものに思われた。)

夏樹「壊させない・・。」

(深い紺色の瞳は、鋭く光り。
クリーム色に結界が。 淡く、振動するのを、見た。)

夏樹『聖。』

夏樹「僕は、守る。」

***

【ガアァァァァーッ!】

【ゴワッ・・!】

ボキキッ・・ グシャッ

(猛烈なスピードで、数を増す“黒い獣”。 男は、筋骨の目立つたくましい腕一本で。
みなぎる力と、素早さを合わせ持ち。 雨を弾き、黒い血飛沫を上げ、獣たちを倒した。)

「おうら! まだまだ!」

(男は、獣に負けぬ、荒々しさで。 雨に吠えた。)

バシャシャッ・・

(見開く麗の瞳に。 前方から、雨よりも激しく、水飛沫を上げ。
強い水流に乗り、白いシルエットの人物が。 もう一人、姿を現した。)

ピチャンッ

(現れた長身の男の腕の中で。 先ほど、剛と呼ばれた男が
倒した、獣が。 姿を変える。)

シュゥゥゥーッ ドロロッ・・

(倒した獣の身体は。 白い髪の、気だるげな表情を浮かべる男の腕の中で。
黒い滴から、透明な水に。 解き明かされるように、
本来の少女の姿を取り戻した。)

「“時の欠片”がこんなに“闇化”(やみか)するなんて、」

「さすがに、夏っちゃんの力は~・・、強いね。」

「もう。 じきに~・・、結界は~・・。」

「もたないよ。」

(男は。 絶望的な、うつろな瞳で。 激しい雨空を見上げた。)

音々「“時の欠片”・・?」

音々「お前たち、能力者か!」

(音々は、麗の腕の中から、顔を上げた。)

「音々ちゃん!」

(麗は、止めたが。 音々は男たちの前に、躍り出た。)

「おおっと。 少年。 お嬢ちゃん。」

「FOT(エフオーティー)の結界に入り込むとは。」

「あんた達も、誰かの友達(フレンド)《Friend》かい?」

(巨大な男は、“闇”の返り血を浴びたまま。 雨に濡れる鋭い瞳で、
音々を覗き込んだ。)

音々「(ヒッ)化け物・・!」

(音々は、“闇”の香りから離れる様に、麗の方へ身を引いた。)

「がっはっはっ!」

(剛は笑い、口に付いた黒い飛沫を。 大きな手でぬぐった。
頬に伸びる、黒い跡に、音々は身震いした。)

音々「こいつらが原因だって、父が言ってた!」

音々「国に背いた、反逆者たちだって。」

音々「この街を、こんな風にした、元凶を隠し持ってる。」

(剛は聞き、面食らったあと、笑った。)

「お嬢ちゃん。 俺たちが、倒れたら。

この場所は、お終いだ。」

(剛は、“闇”の雫の滴る顔で、音々の顔を覗き込んだ。)

「お嬢ちゃん、記憶を無くさねーとは。」

「国側の関係者かい?」

(麗が、剛と音々の間に、割って入った。)

「ここから。 音々ちゃんと俺を。 もとの場所へ、戻してくれ。」

「頼む。」

(両手を上げ、降参のポーズを取り、下手に出る麗に。
音々は、愕然とした。)

(麗を意気地がないと思った音々は、思い切り拳で、
麗の背中を殴った。)

音々「ばかっ!!」

(麗は、音々の拳を掴んだ。)

「俺に、音々ちゃんを守らせて。」

(音々は、驚き、瞳を開いた。)

音々「!」

(剛は、にっと笑い、身体を起こした。)

「少年。 良い判断だ。」

「お嬢ちゃん、たやすく能力者に触れるもんじゃねーぜ。」

「戦いを知らない人間は、噂だけで、判断しやがる。」

「まだ、戦いを。 その目で見るには、早い。」

(音々は、剛に。 子供だと、馬鹿にされた様に思った。)

「帰りな、お嬢ちゃん。」

(剛は、麗と音々を、異空間の中から、送り出した。)

シュンッ・・!

(麗と、音々は。 淡いクリーム色の光が。 自分たちを押し出すのを感じた。)

(眩い光に、瞬き、麗は、音々の肩を抱き留めた。)

(音々は怒りと恐怖に、肩を震わせた。)

(花火が終わり、約束の時間を過ぎても、青葉は訪れない。)

(音々は、はっとし。 雨の中、麗を見つめた。)

音々「青葉(あおば)は、知りすぎてるんだ。」

音々「きっと、能力者に接触してるっ。」

(音々は言うと、携帯を取り出した。 雨に濡れて、手が震え。
上手くボタンを押せない。)

音々「・・っ、青葉っ!」

音々「電話に出てっ!」

(音々は、携帯を手放し。 麗の腕を掴んだ。)

音々「青葉を探してっ! 来させたらだめだっ

ぜったいに!」

(音々はもう、雨の中へ走り出した。)

(思ったら一直線の音々に。 麗は、雷鳴の中で唇を噛んだ。)

「待てって!」

(麗は、混乱する頭を、振り払った。 見上げる頭上には、無数の淡いクリーム色の
輝きがある。 幾つも浮かび上がる異空間へと続く結界が。
次々と現れる怪物を、閉じ込め。 地上から切り離す。)

「遊園地の、アトラクションってわけじゃねーよな。」

「さっきの人たちが、戦ってるんだ。」

(麗は、信じられない気持ちで、雨の中を、駆け抜けた。)

***







Chapter102
『8月1日(継承)』

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『嵐』

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