Section3『闇』
■光「くそっ。 この“闇”(やみ)の数。」
■光「簡単に、晃(あきら)のところまで、通してくれない。」
(光は、空間通路を渡り、“闇”を人々から切り離し。)
(通信機で、晃の位置を確認した。)
■葵「白(しろ)さんが向かっているわ。 私たちは、街の人々を
守るようにと。」
(葵は、光の怒りを収めるように、静かに頷いた。)
(白が、晃の元へ向かいながら、“闇”に足止めされる様子が伝わる。)
■光『晃。』
■光「あいつっ。 聖(ひじり)とやり合うつもりか?」
■光「聖が、国が、夏樹を狙いに来ることを。 あいつは知ってる。」
■光「馬鹿が、かっこつけやがって。」
(光は、強い煌めきで、“闇”を仕留め。 元の人の姿に戻し、抱き留めた。)
***
(夏樹に、迷っている暇はなかった。
雨に浮かぶ観覧車は。 虹色のイルミネーションを覆い隠すほど、
無数の真っ黒な“闇”に覆われている。)
(ゴンドラは、春日一家を乗せ、頂上で止まっている。)
【ゴォォォォーッ!】
(“闇”の吠え声が響き。 ゴンドラを揺らした。)
(イルミネーションの明かりが、点滅し。
闇夜を引き裂く、雷鳴が、地面を揺らした。)
コォッ・・
(風が、夏樹を包み込み。 雨を切り、夜空へ運ぶ。)
(雨粒の向こうに、深い紺色の瞳が、“闇”を捉えた。)
ゴォォーッ!
ガシャーンッ
【ガァァァァーッ!】
(春日家を乗せたゴンドラは、上空で大きく傾いた。)
(一体の“闇”が、窓ガラスを破り、侵入口を得た。)
バリッ ビシュシュッ・・ ドロッ
ボトッ ボトトッ
■蒲公英「きゃぁぁっ!///」
(蒲公英は、悲鳴を上げ。 桜にしがみ付いた。
誠司は、ガラスの破片から、皆を守る様に、桜と蒲公英の身体を覆った。)
バリリッ!
■数馬「このっ・・! どけ~っ!!」
グワッ!
(数馬の力が創り出す、土で出来た、動物の形の可愛らしい戦士たちは。
“闇”をゴンドラから離そうと。 格闘していた。)
(窓ガラスの侵入口から、顔を出した、恐ろしい“闇”を、
うさぎのぬいぐるみ型の土の戦士が。 可愛らしい手で、引き離した。)
【ゴォォーッ!】
(“闇”の力はこれまでよりも強く。 巨大に開いた無数に牙を持つ口が、
うさぎの首を噛み切り、鋭い爪を持つ獣の腕が、戦士を。 無残な土塊に戻した。)
■数馬「!」
■数馬「くっそっ!」
(数馬は、悔しさに歯噛みした。)
■蒲公英「数馬くんっ!///」
■蒲公英「きゃぁっ!」
(蒲公英は、叫んだ。 “闇”は再び、勢いを増し。 破られたガラス窓に、
飛び付いた。)
ビシャッ・・ ガガガッ!
(一匹が、窓ガラスから顔を突き出し。 長い舌で、中にいる人間の香りを探る様に
呼吸した。 もう一匹が、我先にと。
狭いガラスを突き破り。 穴を広げる。)
■桜「あなたっ・・!」
(桜は青ざめ、蒲公英を抱えた。 窓は破れ、ゴンドラは、崩れ落ちそうに
揺れた。)
(数馬の視線の先で、土塊に変わってゆく、動物たち。 窓の外、ゴンドラを支える
鉄の柱は、しがみ付く無数の“闇”で、黒く覆われ。
数を増す、黒い怪物が。 残された一つのゴンドラを目がけ。 群がっていた。)
■数馬「・・・っ!」
(数馬は思わず、目を閉じかけた。)
(黒く覆われてゆく、窓の外。 赤い、無数の目が。 こちらを見て瞬いている。)
ゴオッ
(数馬が、諦めかけた一瞬。 強い風が、吹いた刹那。)
(窓から、こちらへ突き出していた、“闇”が。 強い力で後ろへ引き戻された。)
ゴバァッ!
【ガアアァァァーッ!】
ババババババッ!
(強い風が、“闇”を巻き取り。 ゴンドラへ群がる、黒い塊を。
夜空の向こうへ、引き離してゆく。)
■数馬「夏っちゃんっ!!」
(安堵と喜びに。 数馬の瞳に、涙が弾けた。)
■誠司「夏樹君・・。」
(誠司は、桜と蒲公英をかばいながら、顔を上げた。)
(ゴンドラを支える、鉄の柱の上に。 嵐の中、風を纏い現れたのは、
夏樹だった。)
ゴオオオッ
(引き剥がされて行く、黒い“闇”の向こうに、
夏樹の白い腕が。 見える。 白い肌に、闇夜の中、
鋭く煌めく、深い紺色の瞳の眼光が。 月明りを受け、
眩しく光る。)
ゴババババッ!
バキキッ・・
ガガガガッ
■誠司「!」
(誠司は、桜と蒲公英。 そして、数馬を抱え。
叫んだ。)
■誠司「伏せて。」
(夏樹の風と、“闇”は激しく衝突し。 打ち付ける“闇”が
観覧車の巨大な柱を圧し折り。 耳に響く轟音を上げながら、
七色のイルミネーションをショートさせ。
崩壊してゆく観覧車は、ゆっくりと。 傾き。)
(分解し、落下する柱と、ゴンドラが、
土と、水飛沫を上げ、地面に突き刺さった。)
バキキキッ ドーンッ
■誠司「夏樹君・・!」
(誠司の見つめる先で、“闇”を四散させた風が。
深い紺色の髪を、真っ白な肌を、
暗闇の中に、浮かび上がらせる。)
(深い紺色の瞳の鋭い輝きは。
怒りに満ちているように見えた。)
ゴオオォォォーッ
(風は、春日一家の乗るゴンドラを包み。
衝撃を与えぬ様、そっと。 地面に下ろした。)
ドッ ガクンッ
■夏樹「大丈夫ですか。 すみません、
外へ。」
(夏樹は、ゴンドラのドアをこじ開け。
白い腕を、桜に差し出した。)
■桜「ええ。」
(桜は、戸惑い。 夏樹に手を出した。
夏樹は、強く、桜の腕を引き。
蒲公英と二人を、外へ出した。)
■桜「・・・。」
(強く引く、夏樹の腕は白く。 冷たく、
雨に混じり、黒い“闇”の飛沫が、白い手に、頬に掛かっている。)
(深い紺色の瞳は、微笑んでいたが。
風の力を宿す、瞳の奥は。 底知れぬ気配を発し。 煌めく紺色の深い輝きに。)
(桜は、どこか、触れてはいけない、恐ろしさを覚えた。)
■夏樹「怪我は、ありませんか。」
(覚醒した風の力は、夏樹を包み。
躍動する“鍵”が、夏樹の胸を鼓動させる。)
(止まることのない波動が、流れ出し、夏樹の胸は痛んだ。)
■夏樹『記憶の保持を許された、春日一家(かすがいっか)だけが、
取り残されている。』
(夏樹は、居たたまれない気持ちで、深く頭を下げた。)
■夏樹「危ない目に会わせて、すみません。
ここを離れてください。」
(顔を上げた誠司が、微笑み、頷いた。)
■誠司「私たちは、大丈夫です。」
■誠司「皆を、避難させるよう、手配します。」
■誠司「夏樹君。 君は、行くべきところへ。」
(誠司は、体を起こし。 夏樹の腕を、強く掴んだ。)
■誠司「気を付けて。 必ず、帰って来て下さい。」
■誠司「でなければ、迎えに行きます。」
(夏樹は、微笑んだ。)
■夏樹「はい。」
■夏樹「数馬。(かずま)」
■夏樹「頼んだぞ。」
(夏樹は、“闇”の滴る白い手で、数馬の頭を。
カラフルな帽子の上から、強く撫でた。)
■数馬「わっ///」
■数馬「わかってるっ!」
(数馬の目に、涙が浮かんだ。)
■数馬『・・・っ。』
(思っていても、力の足りない、自分が悔しかった。)
(紺色の瞳は、微笑んでいたが、
透き通る肌は、蒼白で。 皆を残し、飛び立って行く
夏樹の横顔は、悲痛に見えた。)
■蒲公英「数馬くん。」
(蒲公英が進み出て、夏樹を真似て、帽子の上から、数馬の頭を撫でた。)
■蒲公英「よくがんばりました!」
(数馬は驚き、見開く瞳から。 涙が弾けた。)
■数馬「・・っ、ああ・・っ。」
■数馬「行くぞ。」
■数馬「みんなを無事に、帰す。」
(熱を持つ、数馬の頬に、涙がこぼれた。)
(数馬は、気にせず。 拳で、涙を拭った。)
■数馬「きっと。 雨は、止む。」
(お気に入りの帽子を。 数馬はぎゅっと、被り直した。)
***
Chapter102
『8月1日(継承)』
Section3
『闇』
Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ
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