* Fragment of Time *

時の欠片の道しるべ

Chapter102『8月1日(継承)』

Section6『思い出』


(金色の瞳は、涙に濡れた。)

『どうして、君の心臓が、“鍵”が、夏樹の中にある。』

(滲む、金色の瞳が、触れる手の先で。
冷たくなる、粒樹の頬は。 固く、結晶の様に、固まり始めた。)

「“時の欠片”を幾つ集めても。」

「“心臓”を取り返さなければ、」

「君は、甦らない!」

(聖の心は、怒りに燃え。 運命への憎しみが。
深い憎悪となり、聖の瞳を。 燃え上がらせた。)

粒樹【良いのよ・・。 聖・・。】

粒樹【もういい。】

(結晶化しながら、粒樹は、瞳を閉じ。 微笑んだ。)

(怒りに燃える、金色の瞳から。
涙が零れた。 それは、自らの心への怒りに見えた。)

粒樹【わたしは、十分愛された。】

粒樹【あなたは、彼への愛に。】

粒樹【気づくべきよ。】

(聖は、瞳を見開いた。)

粒樹【あなたは、彼を愛している。】

(聖は、首を振った。)

「違う。」

粒樹【わたしよりも。 ずっと、彼を愛している。】

(聖は、粒樹を強く抱きながら、否定した。)

「違う!」

粒樹【わたしは、助からないわ。】

粒樹【もう十分。 あなたは愛してくれた。】

粒樹【諦めて、良いのよ。】

粒樹【あなたの、本当の心を見せて。

わたしの代わりに、彼を愛して。】

(過去の幻想に、すがらなければ、目的を見失いそうだった。
夏樹への愛に気づくことは。
自らの中で、粒樹への愛を打ち殺し。
彼女を、本当に。 葬ることに、他ならない。)

(両腕に、思い出を抱き締める聖は。
そのことに、必死に抵抗しているように、見えた。)

粒樹【彼は、愛に飢えている。】

粒樹【愛し方も、愛され方も、知らないの。】

粒樹『【あなたも、同じね・・。】』

粒樹『【不器用で・・。 愛しい人・・。】』

粒樹『【あなたを、愛せる人が・・。】』

粒樹『【わたしであれば、どんなに嬉しかったか・・。】』

(粒樹もまた、涙を零した。)

(小さな手が、そっと。 牢獄の中から、聖の。 輝く銀色の髪を撫でた。)

(粒樹もまた、夏樹を愛していた。)

(エアリエル国の、最後の“闇の鍵”。 “闇の魔女”により、滅ぼされた、
“闇の樹”の最後の一粒。 “闇の樹”の王家の血を引く、ルイが
地上の女性、千歳と授かった、夏樹は。)

(王家の“闇の樹”を継ぐ、最後の一人だ。)

(“闇の魔女”リザが、自らを滅ぼすため、かけた“闇”の呪いは。
夏樹を滅ぼすまで、止まることは無い。)

(しかし、王家の“闇の樹”から生まれた粒樹は。 自らが滅んでも、
最後の一粒を守りたかった。)

(そして、夏樹の中で生きるうち。)

(夏樹自身に惹かれ。 その想いは強まった。)

(聖への想いを絶ち、自らの存在を消すことで。
夏樹を生かすことが出来るのではないかと、考えた。)

粒樹【愛すべき人に、出会ったばかりなの。】

粒樹【あなたなら、分かるわね。】

粒樹【だって、彼は、あなたに良く似てる。】

粒樹【彼と千波ちゃんと、家族に。】

粒樹【本当には、なれないって。

いつか、あなたが、わたしに言ったわね・・。】

粒樹【そうかしら?】

(粒樹は、聖に、優しく語り掛けた。)

***

(聖は、微笑み。 その瞬間を待った。)

粒樹【あなたにとって、彼は・・。】

粒樹【彼にとって、あなたは・・。】

(だが、手の中で、砕け落ちてゆく、粒樹を前に。
聖の心に。 粒樹の言葉は、届かなかった。)

「・・夏樹・・。」

「“闇”を呼び覚ませ。」

(怒りに燃える、聖の、金色の瞳が光った。)

紫苑「!」

(紫苑は、駆け抜け、その場に辿り着いた。)

紫苑「・・・っ!!」

(一瞬の間に、起こる出来事に、叫び声も出せず。 紫苑は、両手を縮こめ。)

(その場で、身体を硬直させた。)

(恐怖が全身を貫き。 口を開いたまま、身動きが出来ない。)

【ルイ・・。】

【来たか・・。】

(善は、静かに。 青葉に語り掛け。 背後に回った。)

(青葉の瞳から、涙が零れた。)

(悔しい思いが、青葉を包む。 これ以上、抵抗することは、出来ないと悟った。)

(だが、その時。
同時に。 青葉の願いは、叶えられた。)

ゴオオッ!

夏樹「諦めて、たまるか!」

(夏樹が、青葉の前に、駆け込んで来た。
舞い上がる風が、青葉の頬を撫でた。)

青葉「・・夏樹く・・。」

(薄れる青葉の視界の最後に。 滲んでゆく瞳に。)

(深い紺色の瞳を捉え。 青葉は、最後のひと時。
微笑んだ。)

ドッ・・!

(善の、鋭い青い爪が。
青葉の、白いワンピースの背中を、貫いた。)

(次の瞬間、青葉は、事切れ。
雨の降る、水たまりの中に。 ゆっくりと、倒れた。)

(白いワンピースと、長い髪が、舞う様子は。
永遠に思えた。)

ドサッ

(善の手に、握られている。 小さな“時の欠片”の輝き。)

(水たまりに、横たわる青葉の、背中に。
雨に打たれ、広がる。 赤い染みに。)

(閉じられた青葉の瞳に。 白い頬に、跳ねる、雨水と泥。)

(二度と、起き上がることは無いと。)

(夏樹には、分かった。)

夏樹「青葉っ!!」

ゴオッ!!

ドクンッ・・!

(強い風が湧き起こり、辺りを揺らし、善にぶつかった。)

・・ドウンッ・・

【あははははっ!】

【そうだ・・。 “闇”を起こせ・・っ!】

ドウンッ

(青葉から、取り出した“時の欠片”に纏う、“闇の魔力”が、
善の手に移り。 夏樹から湧き起こる風が、善に力を与えた。)

フェルゼン【あっはっはっはっ・・!】

(黒い煙に包まれ。 善の身体は、透明な、フェルゼンの姿に変わった。)

(以前より、幾分実体を増したフェルゼンから強い波動が流れ出る。)

夏樹「フェルゼン・・!」

(夏樹は、怒りに燃えたが。 その深い紺色の瞳には、“闇”以外のものが、
輝き、宿っていた。)

フェルゼン【ほしい・・。 ほしい・・。 命・・。】

フェルゼン【無理やり手にすれば、散ってしまう。

花と同じだった。】

フェルゼン【・・なぁ?】

(フェルゼンは、満足げに、闇の波動を身体に受け、微笑み。)

(効力を失う、“時の欠片”を、冷めた目で見つめた。)

(夏樹は、水たまりの中に、跪き。
うつ伏せに、倒れた青葉の身体を、抱き上げた。)

(その身体は冷たく。 雨と泥に濡れる頬に、
かかる髪を、夏樹は、整えた。)

(夏樹の白い手は、青葉の身体と同じく。
生気を宿さぬようだ。)

(だが、青葉の身体に、もう魂が、宿っていないことを感じ。
夏樹の手は震えた。)

夏樹「ごめん・・、青葉。」

(閉じられた瞳、青葉の顔は、穏やかで。
その口元は、微かに、微笑んでいるように見えた。)

チリンッ

夏樹「・・っ!」

(夏樹は、フェルゼンが落とした、“時の欠片”を右手に受け止め。
青葉の遺体を、左手で支えた。)

フェルゼン【《闇の力を秘めし鍵》】

フェルゼン【《解き放て》】

フェルゼン【《次元の扉》】

(フェルゼンは、右手を頭上に掲げ。 雷鳴の中に、魔法を放った。)

ゴゴッ・・!

(夏樹は、白い手の中に光る。 “時の欠片”を静かに、見つめていた。)

(輝く宝石の様な“時の欠片”には、もう“命”の力は、宿っていない。)

(それでも、透き通る輝きは、美しく。
ただの、ガラス玉に還ったとしても。 “時の欠片”の価値を、
夏樹は、感じ。 その手に握り締めた。)

夏樹「受け取ったよ。」

(透明に輝く欠片の表面には、赤い血が滲み。 夏樹は、
自らの手が傷付く程、欠片を握り締めた。)

ゴワッ・・!

フェルゼン【一足遅かったな。】

フェルゼン【くっくっくっ。】

(頭上に開かれて行く、魔法の扉の下で。
フェルゼンは、目を細めた。)

ダッ・・!

(雨粒を弾く、鮮やかな水色の髪を振り、ソラが結界を抜け、
着地した。)

ソラ「夏樹!」

(遊園地の人々を、人知れず誘導し、結界内に導き。
次々と、“闇化”する“闇”から、守ることは、容易ではなかった。)

(FOTとソラ、ピュアは、連携し。 消えてゆく、FOTの結界を。
ソラが、魔法で補った。)

(だが、ソラの中に眠るのは、“光の鍵”。 “闇の呪い”の中で、通用する。
“闇の力”を魔法の源としていたが。 本来の力を、発揮することは、難しい。)

ザッ ザザザッ・・!

(次の瞬間。 召喚術よりも先に。 ソラが気づいた、何者かの無数の気配達が、
姿を現した。)

(黒いサングラスを掛けた男が、現れたと思うと、次々と、黒服の執事達が、
膝を突く夏樹を包囲し。)

(その外周に現れた執事達が、ソラ達に向かい、立ち並び。)

(一歩動けば、攻撃されると思われた。)

ソラ「国の使いか・・っ。」

ソラ「陸も、空も。 逃げ場は無い。」

(黒いサングラスの男は、夏樹の真横に現れ。
夏樹の、深い紺色の髪の頭に、拳銃を突き付けた。)

[「FOT No.3(エフオーティーナンバースリー)を発見。」]

ガチャッ

(いかつい男は、通信機で、外部に連絡し。 手にしている銃には、
対能力者用に、国が開発した。 特別な物質で創られた、弾丸が込められていた。)

「下手な真似をすれば、殺す。」

(銃口が、深い紺色の髪に触れ。 男は、サングラスの顔を傾け。)

(俯く夏樹の腕の中の、動かぬ
少女を確認した。)

[「少女の死亡を確認。」]

(通信機の向こうで、報告を受けた男の心は、
崩壊した。)

***

石垣「あああああっ!」

(異空間の扉の向こうに響く、男の叫びに、笑みを浮かべたフェルゼンが、
頭上に掲げた手を、振り下ろした。)

ゴワァッ・・!

ドッ・・ ドドッ・・

【ガァァァァーッ!】

ソラ「《闇の力を秘めし鍵》

《解き放て》

《漆黒の壁》」

(ソラは魔法を唱えた。 同時に、雷雲の中、異空間の扉を通り、深紫色の魔法陣から、
巨大な、狼に似た魔物が、地上に舞い降りた。)

(ソラは、瞬時に、魔法で障壁を創り出し、魔物を捕らえようとしたが、
魔物の巨体は、魔法を跳ね除け。 ソラを弾き飛ばした。)

ドウンッ・・!

(フェルゼンは、その隙に、空間扉の向こうへ消えた。)

(フェルゼンは、FOTの結界を難なく通り抜け。 代わりに姿を現す人物が居る。)

ソラ「聖!」

(入れ替わりに、姿を現した、人物に。 ソラは、驚愕した。)

ソラ「フェルゼンと、組んでいるのか?」

ソラ「何をしてる!」

ソラ「早く、結界を閉ざせ。 このままじゃ、魔物が! 闇が、

街の中に!」

ソラ「人々を、傷つける!」

ソラ「何をしたか。 分かってんのか、てめぇ。」

ソラ「青葉が、死んだ。」

ソラ「これ以上、罪を重ねるな!」

ソラ「“欠片”を集める為だなんて、言わせねー!」

ソラ「何の為に、戦ってるんだ!」

ソラ「てめぇ、それでも! 人間かっ!!」

(ソラは、怒り、水色の瞳が。 激しく、聖を睨んだ。)







Chapter102
『8月1日(継承)』

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