HOMENovel
Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】
Chapter56 『傍にいる』 56-17
「それから・・、気になるやつがおるのじゃ・・。 わらわが、
いなければならぬ・・。」
「じゃから・・、まだ宗家を継ぐわけには
いかないのじゃ。」
(艶はそっと、翡翠色の瞳を見上げ。
自分を撫でている、兄の。 黒の着物に触れた。)
「兄上に、会えなくなるからではないぞ。」
(格子窓から、雨音が、届く。)
サァーッ・・
「けして。」
「そうではないぞ・・。」
ザァァーッ
***
ザァァーッ
(強くなった雨が、晃の頬を打った。)
「時宗。」
「・・元気か?」
(晃の、黒い切れ長の瞳に。 大きな雨粒が、冷たく、幾つも。 幾つも流れた。)
(けれど、傍の、石段に置いた、小さな和蝋燭の炎は消えなかった。)
『 次ページへ 』 『 前ページへ 』