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Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter56 『傍にいる』 56-19


「ああ。」

(晃は、全身ずぶ濡れだったが、その人は、今さらながら。
晃を傘の中に入れた。)

「俺を待っていなくて良いと、言っただろう。」

「時雨。」

(顔を上げた時雨の黒い瞳が、繊細な、黒い縁取りの半月形の眼鏡の奥で、神経質そうに
ちらりと光った。)

(時雨の、表情の読めない顔つきと。 黒い燕尾服に施された、金の装飾一つ一つに、
冷たい。 不思議な緊張感が漂う。)

『こんな時雨の顔を見ると、なぜか帰って来たと実感するな。』

(ほっとした晃に、時雨は、冷やかに言った。)

「生きて帰らないのではないかと。 思いましたので。」

ザァーッ・・

「・・俺を心配してくれたのか。 礼を言いたいところだが。

何か言いたげだな。」

(こんな時、菖蒲なら。 タオルでも持ってきて笑いかけるだろうと思いながら。
そんな事はお構いなしに、冷たい視線を投げる。 自分の執事に耳を傾けた。)

「恐れながら・・。」

「晃。

あいつは死んでる。」



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