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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter94 『薄雲』 94-1


チュンチュンッ チチチチッ

(明け放たれた窓から、白いレースのカーテンの裾を揺らし。
心地良い風が、室内に流れた。)

(微かな潮の香りに、照り始めた暑い日差し。
窓の側をゆく小鳥の、飛び立つ羽音と、影が。 ちらつき、
ベッドの上に横になる夏樹の。 眉が動いた。)

「ん・・、ん。」

(白いシーツの上で、わずかに動いた頬は白く、透き通る様だったが。
まるで、すっかり心地良く。 深く眠った後のように、すっきりと。
穏やかな心持で、夏樹は目を覚ました。)

「あ・・、紫苑さん。」

(目を開け、驚き。 体を起こした。)

(と、同時に夏樹は、自分の右手を。 紫苑がしっかりと握っているのに
気がついた。)

『心配で、側にいてくれたのかな。』

(目を開けた夏樹の傍らには、ベッド脇に座ったまま、頭をもたれ
眠っている紫苑がいた。 その右手はしっかりと、夏樹を握っていたが。
眠る横顔は、どこか疲れた様子で。 夏祭りのとき、
美しく結われていた明るいベージュ色の髪は、あちこちほつれ。 羽織った部屋着も、
眠る紫苑の肩から、落ちていた。)

「すぅ・・すぅ・・。」

『きっと、何かあったんだ・・。』

(いたたまれない気持ちになりながら、夏樹はそっと、紫苑から手を離し。
落ちた上着を静かに直し、紫苑にかけた。)



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