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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter100 『涙』 100-142


「うん。 もう少しで、完成なの。」

「時間までに、間に合うと良いんだけど。」

(可愛らしいワンピースに着替えた紫苑は、手元にキャンバスを広げた。)

「この丘の景色?」

(紫苑は楽しそうに筆をとり、答えた。)

「もっと。」

「・・心に残る景色。」

(夏樹は瞬き、微笑んだ。 視線の先で、丘を抜けてゆく風が、
わずかにカールする紫苑の髪先を、揺らすのを。 可愛らしい髪飾りが、
傾きはじめる太陽に光るのを、眩しそうに見つめ。 目を細めた。)

「へぇ。」

(心地よい海風が、夏樹の胸を打つ。 誘い出す風をこらえ。
切なさに、胸が痛んだ。)

***

ジジッ・・ ガガガガッ・・

(耳元で聞こえる、通信音のノイズに、白は気だるげに
顔を上げた。)

「・・ここも。 ゆがんでるね〜・・。」

「・・これなら〜・・、誰でも〜・・、侵入出来るよ〜・・。」

(焦点の合わぬ、虚ろな瞳で。 白は辺りを見た。
賑やかな人ごみであふれる、風見市街は。 休日のせいか、混雑していた。)



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