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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter101 『8月1日(懐古)』 101-10


『この力があったことを、今ほど感謝したことはない。』

『無ければ僕は、皆に。 君に出会えなかった。』

(けれど、夏樹の口元が閉じ。 深い紺色の瞳が揺れた。)

「・・・。」

『だけど、

この力が無かったらと、今ほど思ったことはない。』

(紫苑の贈り物を、受け取れるはずの手は。 色白く透き通り、冷たく。)

(紫苑の言葉を、受け止めるはずの心は。 体温さえ感じさせない程、冷たい波動を、
辺りに生み出している。)

『君に、触れたい・・。

どうしてなんだ・・。』

『この力が無ければ、僕は、僕じゃない。』

(夏樹は自分の胸に触れ、その冷たさに、顔を歪めた。 それは到底、人間のものとは
思えなかった。)

「・・受け取れない。」

(沈黙を破って、発せられた夏樹の言葉に。 紫苑は、凍り付いた。)

***

「ばか・・。」

「夏樹くん、困ってた・・。」



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