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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter101 『8月1日(懐古)』 101-129


(千歳は、悲しい想いで、ドアを見つめた。)

(自ら、その場を去ったことは、確かだった。
けれど、いつか帰れたらと。 笑顔を向けてもらえたらと。)

(願わずにいられなかった。 叶わないと分かっていても、
今ならと。 願った自分を悔やんだ。)

『さよなら。』

『二度と、目の前のドアは開かれないと分かった。』

『いつか、帰れたらと。』

『願った、我が家だった。』

(千歳は、涙を浮かべ。 そっと、お腹を優しく撫で。 微笑み、
語り掛けた。)

「大丈夫よ・・。」

「お母さんが、居るからね。」

(本当は、不安で押しつぶされそうだった。)

(母親になるということだけが、千歳を支えていた。)

「しっかりしなさい。 千歳。」

(涙がこぼれぬ様、千歳は顔を上げた。
必要な、僅かな荷物をトランクに詰め。 依子の元を訪ねた。)

ピンポーン

「千歳!」



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