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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter101 『8月1日(懐古)』 101-142


(それはまた、ある日の記憶だった。)

(雨の日だった。)

(少しでも生活費を浮かそうと、離れたスーパーへ買い物に出かけた。)

サーッ

(雨の中、カッパを着せた千波の手を引き。 買い物袋を下げ、傘を差す千歳は。
滴る雨粒と、重い袋にため息をつき。 止みそうにない雨雲と。
目の前に、頑として動かない夏樹とを。 交互に見て、眉根を寄せた。)

「夏樹。」

「連れていけないよ。」

「置いてきなさい。」

(夏樹は、雨の中。 カッパをかぶり、
小さな手で、重そうに。 柴犬の赤ちゃんを胸元に抱きかかえていた。)

「やだ。」

(雨の中、ずり落ちそうになる柴犬の頭に。 夏樹は顔を寄せ。
深い紺色の瞳が、じっと千歳を見た。)

「んもうっ!」

『そんな余裕ないのにっ。』

(千歳は、雨粒に打たれながら、天を仰ぎ。 片手で額を覆った。)

『捨てられた子犬を見ると、つい放っておけなくなるの。

誰に、似たのかしら・・?』



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