HOMENovel

Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter101 『8月1日(懐古)』 101-163


***

【さよなら。】

(夜明けと共に、粒樹は目覚め。 バラの香りに包まれる、美しい庭の中で。
身体を起こすと、そっと。 隣に眠る男性に、別れを告げた。)

(二人の間には、花弁が敷き詰められ。 そよぐ風が、アンティークの窓を揺らし、
辺りを覆う花々から、二人の頭上に花弁を舞い散らす。)

【聖。】

(粒樹は優しく、小さな手で。 眠る聖の頬に触れた。)

(初めて触れ合った二人は。 幸せに包まれていた。
はじめて見せる、聖の。 穏やかな、安らかな寝顔。)

(粒樹の胸に、愛しさが込み上げ。 最後と自らに言い聞かせ。
起こさぬように、静かに。 眠る聖の胸に、頬を寄せた。)

【・・聖。】

(深い紺色の瞳から、零れ落ちた涙が。 笑顔で眠る聖の頬に。
美しく掛かる、長い銀色の髪の上に。 落ちた。)

【・・愛してるわ。】

(聖は、粒樹の声にまどろみ。
くすぐったそうに微笑み。 目を閉じたまま、粒樹の手に、
指先を絡めた。)

【・・っ。】

(粒樹は、強く握り返し。 意を決し、その手を離した。)



『 次ページへ 』 『 前ページへ 』
このページのトップへ