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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter101 『8月1日(懐古)』 101-190


「・・っく。」

(堪えようとしても、覆う白い両手から、嗚咽が漏れた。)

『留まることなく、想いは、あふれだす。

抑えようと、すればするほど。

燃え上がるようだった。』

(夏樹は顔を上げ。 ゆっくりと、身体を起こした。)

(菖蒲に支えられ、肩越しに。 涙でぼやける視界に、
小さく切り取られた。 春の景色がある。)

(それは、瑠衣が千歳に想いを込めたように。
紫苑が夏樹に想いを込め、描いた。)

(受け取れなかった、小さなキャンバスに描かれた
桜の絵だった。)

「夏樹様。」

(菖蒲は、夏樹を離すことが出来ず。 身体を起こす夏樹を
支えたまま。 静かに、夏樹の身体を抱えた。)

(重なる胸に、響く心音を。 いつまでも聞いていたい想いで。
菖蒲は、氷の様な冷たさなど、気にせず。 夏樹を離さなかった。)

『紫苑さんが贈ってくれた。』

『目の前の桜の絵に、涙があふれる。』

(どうして、こんなに心動かされるのか。 夏樹は、分かっていた。)



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