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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter101 『8月1日(懐古)』 101-38


『自然に宿る命を見たのは、初めてだった。』

「・・、王と命を共にし。」

「この命を守っているのか・・?」

(ひとつの花に、なぜそれ程の感動を覚えるのか、
灰色に染まる故郷で。 見ることすら叶わぬ、輝きに。)

(フェルゼンは知らぬ間に、涙を流していた。)

「命を懸け、守るべきもの。」

(無機質な国土に、凍り付いた心が。 涙を流したことに、
フェルゼンは気づいていなかった。)

「涙・・?」

「泣いているの?」

(赤い瞳は、涙に滲み、震えていた。 そのことにさえ、気づかぬ。
フェルゼンの不器用さに。 頑なな心に、リザは愛しさを覚え、
頬に触れ涙をぬぐった。)

「フェルゼン。」

(記憶に、セナの思考が混じる。)

『あの男の涙が、そこに居る者たちの心を動かし。』

『他国が踏み入れたことのないこの国に。』

『触れることを許した。』

「人を信じ。 許した。」



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