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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter103 『四神』 103-9


(紫苑の手の中には、青葉の残した、“時の欠片”が握られていた。)

(うつむき、見つめる瞳は、虚ろで。)

(薄く開かれた口元と、欠片に向けられた瞳は。 表情を無くし。)

(告げるべき言葉を、失っていた。)

(力を落とした肩に、誰かが、タオルをかけてくれた。)

(誰かが、寄り添い、肩を抱き。 車に乗せてくれた。)

(眩い朝日が、車窓から降り注ぎ。 紫苑を照らした。)

(窓ガラスの向こうの景色は、滲んで良く見えない。)

(朝もやに、煙る光の向こうに。 新しい1日を迎える、街があった。)

(それなのに。)

(光は、見えたが、滲んでいた。)

「・・・。」

(眩しさに、紫苑は目を細めた。 緩く開いた、手の中に。
“時の欠片”の存在を、感じ続けた。)

「・・。」

(音は、聞こえない。)

(周りに人がいたが、遠くに感じた。)

(全ての感覚が、遠ざかる。)

(紫苑は、耐えられず。 小さく身を縮めると。 朝日に眩い車窓に、顔を伏せた。)



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