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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter104 『風の声』 104-57


「もう出かけんのかよ?」

「さっき帰って来たばっかじゃん。」

(晴は、散らかったアパートの一室で。 積み上げられた荷物の中。
閉じられたカーテンの間から、射し込む朝日に。)

(父親の吐く、煙草の煙が、燻るのを見つめた。)

「・・おう。 ハレか。」

(父親の勝は、むさ苦しい服装のまま、煙草を片手に。
荷造りに励み。 一瞬顔を上げ、ニヤリとひげの生えた顔で晴に笑った。)

「酒くさっ。」

「また飲んで来たのかよ。」

「あと、はれじゃなくて、せいだ。 せい。」

(親なんだから、分かっているとばかりに、勝は笑い。 ごつごつと荒れた、
黒い手で。 晴の頭と頬を撫でた。)

「み〜んな、ハレって呼んでるじゃねーか。」

(無骨な勝の手は、インクで汚れていた。 不器用だが、男手一つで
育ててくれている、手の温もりに。)

(間近に見つめる瞳は、温かく笑っていた。)

「・・放せって。」

(晴は、寝巻のまま、冷蔵庫に手を掛け。 コップを二つ用意し、牛乳を注いだ。)

「お前も、中学二年生だもんな。 電話、彼女か?」



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