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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter105 『風と共に』 105-14


「夏樹くん!」

バッ

(紫苑は夏樹を抱き締め、迎えた。)

「お帰りなさい。」

(夏樹は、一瞬驚いた後、そっと紫苑の背中を支えた。)

「ただいま。」

(夏樹は、噛み締めるように呟くと、間近に感じる紫苑の存在を、
確かめ、留めるように目を閉じた。)

(夏樹の背に添えられた、紫苑の手は、微かに震えていた。)

(心配していた紫苑の手に、夏樹の冷たい体温が届く。)

(夏樹の胸は、熱く、鼓動したが。)

(その手に、風を掴むことは、出来なかった。)

「心配かけてごめん。 紫苑さん。」

(紫苑は顔を上げ、潤む大きな瞳で、首を振った。)

「ううん。」

(夏樹は、躊躇いがちに続けた。)

「ここへ、戻りたかったんだ。」

(紺色の瞳は、滲んだ。)

***



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