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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter105 『風と共に』 105-222


「ここは・・、初めて。 紫苑さんと、紫苑さんの家族と。」

「訪れた場所だった・・。」

(驚くほど、広い景色が広がっていて。
風見市の中でも、一際、見晴らしの良いその場所は。
風見市全体を、見ることが出来る。)

(山々を背に、目の前には広大な芝生。)

(遠くに、街並みと。 海が見えた。)

「ふ・・っ。」

(夏樹は、振り絞るように、立ち上がり。
芝生の丘を、歩き始めた。)

(開かれた、その場所は。 潮風を、全身に受けることが出来る。)

(この場所で、晴れた日に、家族全員で見た景色を。)

(身体に感じた風を。 夏樹は、忘れられなかった。)

「この場所でなら、もしかしたら・・。」

「風を・・、感じられるか・・。」

(夏樹は、最後とも思える、一縷の望みを胸に。
重い足を引きずり。 顔を上げた。)

「はぁ・・。 はぁ・・。」

(心の中にある、家族の笑顔。
肌に感じた風。 喜び。)

(ありありと思い出すことが出来るのに。 夏樹の中に、風に触れる力は無い。)



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