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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter105 『風と共に』 105-243


(菖蒲は、夏樹を胸に抱き。 黒い四角い縁の眼鏡の奥の、瞳を細めた。)

(眼鏡硝子と、細く長い後ろに一つに縛った黒髪に、
雨粒が流れる。)

(整う、燕尾服も、白手袋も、雨と泥に塗れた。)

「皆、何かを背負っている。

完璧な人など居ません。」

「あなたも、人間なのですから。」

(菖蒲は、熱を込め。 夏樹に語り掛けた。)

(体温を失う、冷たい主人の身体。 それでも、雨に濡れるその白い肌から。
鼓動が、菖蒲に伝わり。 深い紺色の髪から、雨と夏樹の匂いがした。)

「あなたは、その分。

誰かを、許せるかもしれません。」

「あなたは、戦った。 戦いに、負けたとしても。」

(菖蒲は、涙を飲み込んだ。)

(今すぐ、苦しみから主人を開放したい。 その思いは、
菖蒲も同じだった。 けれど、それは。 正しくはない。)

(立ち上がることが、必要だった。)

バッ・・!

「!」



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