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Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter25 『芝居』 25-9


「・・すみません。

遅れて。」

「空間の狭間に、つかまっていまして。」

(慌てて来た菖蒲の燕尾服は乱れ。 一つに縛り、流れる
長い黒髪に。 汗が光った。)

「・・静乃さんが、位置の補正を。」

(夏樹の耳に、菖蒲の言葉は、
全く入って来なかった。)

(ただ、自分に向けられた、温かい声に。
涙が出そうな位、ほっとしていた。)

「ああ・・。

そんな事だろうと思ったよ。」

(夏樹は、地面に視線を落としたまま。
菖蒲の両腕が、傷ついた腕や、背中を支えるのに身を任せた。)

「酷い怪我ですね・・。」

「すぐに手当てをしないと。」

(うつむいた夏樹の、深い紺色の髪は、

瓦礫の土埃で汚れ。 白い頬は、土や、赤黒い血痕に染まっていた。)

(晃は、誰にも触れさせない夏樹の怪我に。
菖蒲が、やすやすと触れた事に。 感心した。)



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