HOMENovel

Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter55 『時の流れ』 55-11


(白い鳥の緋色の瞳には、うっすらと、涙が浮かんでいた。)

「楓・・。」

(晃には、それは、楓も同じであろうと感じられた。)

「艶は。 時宗の気配を感じたいだけだ。 もう少し、待ってやってくれ。」

〈あの子は、自分が当主となれば、晃様のおっしゃる。 亡霊にも会えなくなると。〉

〈そう思っておいでです。〉

〈だから、自らを成長させない。〉

〈あの子は・・。

貴方様の様に。 前を向くことが、まだ出来ずにいるのです。〉

「艶は、分かっている。」

〈いいえ・・。〉

〈いいえ。〉

〈わたくしには、艶様の代わりは、重うございます。〉

***

(翡翠の鮮やかな家紋が刻まれた、金屏風の前で、
美しい幾重にも重なる着物の袖に、顔を埋めた楓の肩に。)

(鳥の目を通し見た。 半透明の姿の晃が、そっと近づき。

うな垂れた肩に、手を差し伸べた。)

〈「もう少しだけ、艶に時間をくれ。」〉



『 次ページへ 』 『 前ページへ 』
このページのトップへ