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Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter57 『雨音』 57-10


バタンッ・・

(紫苑は、急いで帰ってしまった千波に、
一瞬あっけにとられ瞬きしてから。 そっと、窓の外へ視線を向けた。)

「ほんとね。

降って来たみたい・・。」

(紫苑は、小さくつぶやき。 一層、暗くなり始めた窓越しの夜空を、見上げた。)

ピチャンッ・・

(雨水が、窓を伝う。)

『どうしてかしら、急に。 思い出すなんて・・。』

(暗い夜空は、紫苑を不安な気持ちにさせた。)

(瞬きをする紫苑の瞳に。 何かが映る。)

『水滴をまとった夜空は・・。』

『まるで、あの時見た、黒い生き物の様・・。』

(大きな茶色の瞳が瞬いた。)

『空いっぱいに・・広がっているみたいに・・。』

(茶色の瞳に、黒い影が揺れた。 それは、窓に映った。 暗い夜空か。
それとも、紫苑の脳裏に蘇った。 闇の姿の様に見えた。)

「はっ・・。」

(紫苑は、突然鮮明に思い出された。 瞼の裏に残る記憶に。
胸がドキドキするのを感じて。 夜空から視線を離した。)



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