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Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter74 『満天』 74-2


(電話の向こうの声は弾んでいた。)

[「菖蒲くん。 こんな時間にどうしたの?」]

[「わたしに会いに来てくれたなら、嬉しいけれど。」]

(菖蒲は思わず、右手に持っていた小さな包みを、見つめ顔を赤らめた。)

「あっ・・、いえっ・・その。

紫苑お嬢様に、差し入れをお持ちしたく・・。///」

トッ トッ

(通信機を片手にうつむく菖蒲の耳に、足音が聞こえ。
近づいてくる気配に、慌てて顔を上げた。)

トッ

「ふふっ、菖蒲くん。

そういう時は、会いに来たって言ってくれても良いのよ。」

(月明かりの下に現れたのは、静乃だった。)

(耳元と、直接と聞こえる静乃の声に、菖蒲はますます赤面し。
黒縁眼鏡の奥の瞳が瞬いた。)

「仕事中の時は来ないって、わかっているわ。」

「正直ね。」

(あわててこちらに振り向いた。 菖蒲の黒く細い髪が、夜風に靡き、
長身でいつも大人びて、落ち着いた様子を醸し出す整った頬が、
困ったように表情を変える様子は。 見ていて愛しさが込み上げた。)



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