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Novel ストーリー【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 夏樹の物語】

Chapter76 『青い鼓動』 76-16


(振り向いた一瞬は。 まるでスローモーションの様に、
紫苑の目に、ゆっくりと焼き付いた。)

コォォォッ・・

(その一瞬の時間の流れが、切り取られ。
空間からも引き離され。)

(数歩前にいるはずの、菖蒲の黒い燕尾服の後ろ姿が遠ざかる。)

『あっ・・。』

(声が出ず、紫苑は。 艶やかに靡く菖蒲の細く縛った後ろ髪が、揺れて。
人垣に見えなくなるのを見送った。)

(切り取られたその場所には、紫苑と。
小さな、黒髪の少年しか居なかった。)

「生き写しだ・・なぁ。 まるで・・。」

「これ以上・・俺を・・不快にさせるなよ・・。」

(側を通り過ぎる刹那。 少年は、目を細め、凍える程冷やかに笑みをこぼした。)

『!』

***

タッ

「あっ!」

(不思議な黒い影が、紫苑の瞳の上を通り過ぎ。 時の流れは元に戻った。)

(声が出たと同時に、紫苑は腕を白手袋の手に掴まれた。)



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