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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter85 『花弁』 85-1


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「なんと不吉なことじゃ・・。」

(しわの寄る、小さな老婆の手が。 仄暗い部屋の中、
僅かな炎の明かりに、オレンジ色に浮かび上がり。)

(壁面に灯るランプが照らす室内の中央に置かれた、
大きな水鉢に、そっと、その手をかざした。)

「ソラのすぐそばに。 強大な闇がおる・・。」

「《地上の国》は、《闇》に満ちておるわい・・。」

(老婆は、水面から手を離すと。 気遣わしげにその目を閉じ、
すぐ側の薬瓶から、薬草を一つまみすると。

水鉢へ投げ入れた。 薬草は、濃い紫色に水を染めながら、
溶けた。)

「これはいかん・・。 見つけるのは容易くとも、

壊すのは、困難と出ておる。」

「はたして、ソラにできるかのぅ・・。」

(老婆は、まるい背中をわずかに揺らし、小さな台座に
座り直すと。 しわの額を寄せて。 静かに目を閉じ、
両手を組んだ。)

(閉じた瞳の奥、老婆の思考は、遠く。 遥か彼方。
異界の地へと、向けられていた。)

(祈る様に、時折、小さく開いた口からは、声にならずとも遠くへ届く、



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