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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter85 『花弁』 85-6


「この婆の、声が聞こえるのであれば、

返事をせい。」

「そろそろ戻ってきても、よかろうが?」

「・・かの異界の地で果てたなど・・。」

「そんな冗談を・・、婆が信じると思うたか?」

「・・返事をせい・・。」

(小さな波紋が、水面の上に広がった。)

ピチャン

(しかしそれは、呼び掛けた相手からの返答ではない。
ただ、小さな涙の一滴が、老婆の頬から流れ落ち。 水面を揺らしただけだった。)

「いかん。 涙は見せぬと、約束であった。」

「ほっほっ。 この年寄りよりも先に、

そちが消えたせいじゃわい。」

「《鍵》は、どこにある?」

「そちが、罪と思うならば・・。」

「ソラを、導けよ。 ルイ。」

(老婆はそっと、その目を閉じ。 水鉢の底へ、語りかけた。)

***



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