HOMENovel

Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter88 『覚醒』 88-18


(生涯でただ一人愛した女性は、今。 誰を愛しているのか気づき。
そして、自らがその男性を送りだすことで。 はるか遠い異界の地で、愛する別の女性と、
永遠に結ばれることを知り、悲しみに絶望していた。)

【そうよ・・。 私は・・。】

【彼を、愛しているの・・。】

「・・! その目で、俺を見るなっ!」

(フェルゼンは、怒りに牙をむいた。 その想いは、夏樹に良く似た。
ルイという男性に向けられたものだった。 過去に生きた者への想いは、
晴れることなく、この重い空の様に、厚く。 フェルゼンの心に垂れ込め。 湧き上がる
衝動は、心をむしばみ。 水気を含む血の様な瞳は、まるで。 リザと呼ばれる女性と、
同じ絶望に苛まれ。 けして取り返すことの出来ない苦しみに、もがき涙した後の様に、
夏樹には思えた。)

「・・・っ。」

(痛みに耐え、夏樹は深い紺色の瞳を歪めた。 フェルゼンは、怒りに震え。
夏樹をつかんでいた。)

コォォォーッ

バサッ・・!

(強い想いに囚われ、フェルゼンは、すぐ側に、その人物が現れるまで
気づけなかった。)

「俺の友達に、なにしてるんだよ。 ガキ。」

(振り向いたフェルゼンの身体は、魔力が切れ。 小さな、小学生ほどの、
仮の姿に戻っていた。 見上げた視線の先に居た、長身のソラと、その背中を覆う
赤い翼を見て。 《善》は息を飲んだ。)

「・・、僕の姿が見えるのか・・?」



『 次ページへ 』 『 前ページへ 』
このページのトップへ