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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter89 『Friend』 89-41


(アンティーク扉の向こうは、四季を問わず。 咲き誇る。
バラの海だった。 むせ返るほどの香りと。 溢れる色彩は、今の聖の心と裏腹で。
扉を閉ざすと、出口さえ見失うその場所は。 魔力の様な魅力で、聖の心を癒した。)

「・・ふぅ・・。」

(扉を閉ざした途端。 深いため息とともに。 全身の力を抜き、
美しく、白いスーツが汚れるのも気にせず。 その場にくずおれるように腰を下ろし。
きらきらと靡く、銀の長い髪を揺らし。 何もかまわず、花びらが舞い落ちた朝露の。
芝生の上へ。 仰向けに横たわった。)

パサッ・・

(スーツに施された金の装飾が。 小雨に濡れ、光る。 流れる銀の髪は、草の上に、
無数に舞い落ちた、色とりどりのバラの花びらの上に乱れて流れ。)

(小さな雨粒が、金の瞳を覆う睫毛の上を伝い。 表情を無くしたその頬に、
幾筋かの跡を残した。)

サー・・ ピチャン・・

「・・ふぅ。」

(金の瞳は瞬き、静かに呼吸した。 ここに戻れば、自分の目的を
見失わずに済む。)

「何年も待ったよ。 何年も。」

「もう少しだけ、彼を守ってくれないか? もう少しだけでもいい。」

「粒樹・・。」

(包み込むバラの香りの中。 聖は仰向けに横たわったまま。
静かに、小雨の降り続く空を見た。 いつの間にか、横たわる聖の側に、小さな少女が
姿を現していた。)



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