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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter89 『Friend』 89-5


「闇は消えない。」

(深い紺色の瞳の先で、その手は。 透き通る様に白く冷たい肌だった。)

(温か味のないその手が、触れることで。 この街の暖かな風の熱を奪い。
幸せに、笑っているべき人を。 闇の恐怖に落とし入れているのだろうか。)

「『力は、人を幸せにしない。』 『時には、触れた相手の人生を変え・・。』

『命を奪うことがある・・。』」

(両手を見つめる紺色の瞳が、うつむき揺れた。)

「『だから、君は、今一人きりなんだ。』」

(誰かの言葉を思い出し、つぶやく様な夏樹の様子を、菖蒲は静かに見つめていた。)

「え?」

「菖蒲と出会うずっと前、僕がまだ小さかったころ。 聖に出会った時、

言われたんだよ。」

(夏樹はおぼろげに、見つめていたその手を自身で力を込めにぎった。)

「『だから、誰も、君に触れないだけだ・・。』」

「『だから・・。』」

(つづきを言おうとした夏樹は、驚き。 閉じたその手を見つめ、瞬いた。)

「夏樹様。 私は、ここへ戻ると言って下さり。 嬉しかったです。」

「あくまで執事の身ですから。 私が勝手に、好きなところへ、

行くわけには参りません。」

「私はここへ、戻りたかったです。」

(白手袋の手が、閉じられた夏樹の。 白い手を上から覆い。 握っていた。)



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