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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter91 『籠の中の世界(黒)』 91-23


「ふふっ。 夏樹くんの言う通り。 来て良かった。」

「燕尾服じゃないのって、パジャマ姿以外。 ほとんど見た事ないんだけど私。」

(静乃は、まじまじと。 菖蒲の顔を覗き込み。 それからちょっと身体を引き、
長身の菖蒲の、全体像を見て。 ほほうと感心した様子を見せた。)

(だが、感動したのは菖蒲も同様だった。 静乃は美しく、大人っぽい、菖蒲と同じ
白色の浴衣に身を包み。 控えめに描かれた、淡い花柄の袂が綺麗で。 菖蒲は、
一時、心のつかえを忘れ。 感嘆のため息をついた。)

「良くお似合いですね。」

「本部に行かれたと聞きましたので・・。 会えると思いませんでした。」

(素直に喜べば良いのに。 そんな気持ちになれずに、菖蒲は、賑やかな屋台の外れ。
明かりの途絶えた、木陰の下にいて。 静乃はもどかしかった。)

「夏樹くんは?」

「向こうに。」

(静乃は、菖蒲に手を差し出した。 木陰の下で、浮かない表情をしているものの。
暗がりの下でも。 四角い黒縁眼鏡の奥の瞳は、艶やかで。 細く、サラサラと流れる
長く一つに結わえられた後ろ髪が、白い。 浴衣の襟元に流れる様子は、静乃の心を、
愛おしさで満たした。)

「菖蒲くん。」

「行きましょう? ふふっ。 桜さんが着つけてくれたの?」

「・・あの。 はい、ですが私はここで。 夏樹様は、まだ戦闘直後。 顔を見たら、

すぐにここに戻るから。 待つようにと。」

「みんなが、帰してくれるわけがないでしょう? もうっ。 くすくすっ。」



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