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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter92 『籠の中の世界(赤)』 92-10


(提灯の明かりに揺らぐ、左右の屋台の明かり。 通り過ぎて行く人波には、
いつもと違った空気が流れ。)

(夜空から流れる。 生温かな風が、夏樹の倒した闇の気配を。
辺りに運び込み。)

(艶は、匂いをかぎわけるかのように。 小さなその視線を少し上げ。
漆黒のように美しい大きな瞳を周囲に向けた。)

「すぅっ。」

「鼠が紛れておる。」

(黒い視線は、屋台の向こうを見つめた。)

「艶ちゃ〜ん・・、見て〜・・。 ・・、キレー。 これ〜・・。」

「飴細工〜・・だね〜・・。」

「お主。 まじめにやらぬかっ。」

「いまのところ、静かだからといって。 気を抜くでないぞ。」

「敵もさる者。 闇を操ることができる者がおるという、うわさじゃ。」

(聞いて白は、長身の身体を揺らし。 ふわりと柔らかな白い髪をなびかせ。
艶の方を、今にも、閉じかけた眠そうな瞳で振り向いた。)

「・・夏っちゃんの〜・・こと〜・・?」

(真っ白な服に、銀の装飾が光り。 ぼんやりと笑った、その瞳の奥にも。
小さな輝きが残り。 今にも寝てしまいそうな様子の白が。 普段と違い、
それでも、しっかりと。 起きているのだと。 艶にはわかっていた。)

「寝言はっ、寝ているときにいうものじゃっ。」



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