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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter92 『籠の中の世界(赤)』 92-64


(紫苑は恐る恐る、菖蒲の腕の中にいる、夏樹を見つめた。)

「夏樹、お前はわかってねー。 こんな風に守ってもらっても、

誰もうれしくないんだよっ。 紫苑は、お前が守るんじゃないのか?

馬鹿やろうっ!」

「夏樹くん・・。」

(紫苑は、涙していた。 楽しいはずだったのに、それは。 自分が、
招いたことのように、思えてならなかった。)

「しっかりして・・。」

(紫苑は泣きながら、夏樹を抱き寄せた。 その頬や手は、赤い血に染まり、
触れた紫苑に同じ跡を残した。)

「大丈夫。 みんなきっと・・、大丈夫だからね。」

(紫苑は、冷たい夏樹の体温を感じながら。 心の中で、励まし続けた。)

「みんな、いるからね。」

(夏樹を抱きしめながら。 紫苑は、目の前に、楽しい夏祭りの景色が、
現実の景色が。 変わらず、そこにあるのを見た。)

「ありがとう。 また、夏樹くんが皆を守ってくれたんだね。」

(にぎやかな祭りばやし。 聞こえてくる笑い声、足音。)

(みんなのいるその場所は。 守られていた。)







『籠の中の世界(赤)』
Chapter92 End

Fragment of Time・・・時の欠片の道しるべ



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