HOMENovel

Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter93 『覚悟』 93-1


「静かな、海ね。」

ザザーンッ・・ ザザーンッ・・

(葵の、薄紫の長くカールしたソバージュの髪が。 背中から吹き抜ける暑い風に
押され。 その身体を少し、海の側へ、向かわせた。)

「こんなに、穏やかなのに・・。」

【人は・・醜い・・。 ものだ・・なぁ?】

【あの・・、“欠片”に群がる者どもの顔を・・見たか?】

【奴らは気づいた・・。 “欠片”にどんな価値があるのかを・・なぁ・・。】

(海を見つめる葵の透明な薄紫の瞳が、誰も居ない中空を注視した。)

【“死”とは、それほど。 恐ろしいものか・・?】

【くっくっくっ。】

【誰も・・、逃れることの出来ない。 時の呪縛から、解放してくれる・・。】

【さぞ、心地良かろう・・。】

(葵は、静かに瞬き。 気配の方へ、ゆっくりと振り向いた。)

「・・・。」

「愛する者へ、それを望むのは酷なことよ。」

(薄紫の美しい瞳は、月光の下で、怪しく煌めき。 長くカールする睫毛の下で、
普段見せることのない、笑みを浮かべた。)

「くすくすくすっ。」



『 次ページへ 』 『 前ページへ 』
このページのトップへ