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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter93 『覚悟』 93-49


(鋭い視線で、菖蒲は橘を睨んだ。)

「おやおや。」

(聖はそう言って、笑ったが。 からかっているのではなく、心から嬉しかった。)

「夏樹様を、連れだせるはずはありませんよ。」

「下がりなさい菖蒲さん・・。」

(橘は、体面を取り繕い。 菖蒲を注意した。 だが、菖蒲は気づかず。真剣だった。)

「あなたにはわかるはずです。 なぜ夏樹様が一生懸命なのか。」

(橘が止めるのも気にせず、菖蒲は聖に、向き直った。)

「あなたのために、力になりたかったからですよ。」

「それを・・。」

「辛い夏樹様のそばに、居ようともしない。」

(聖は、菖蒲の言葉を静かに聞き。 穏やかな金色の瞳で、見つめているだけだった。)

「・・街へ帰るのが、夏樹様の願いです。」

「連れて、行きます。」

(菖蒲は、黒い瞳を見開くと。 躊躇い無く、聖に背を向けた。
一つに結わえた後ろ髪が、勢い良く出て行く。 燕尾服の後ろ姿に揺れ。)

カッ・・

「ピヨッ」

(菖蒲の黒い皮靴が、部屋を出た時だった。 青い小さなひよこが、頭上に現れ。)



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