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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter95 『強く』 95-10


ヒュー・・

(吹き抜ける風が、頬に触れることさえ。 おぞましい様子で。
善は、まるで、頬に付いた泥をぬぐいさるように、片手で細いあごに触れ。)

(吐き捨てる様に言った。)

「触れたくないからだよ・・。 あの女は、僕の代わりだ。」

「僕の代わりに、あいつに近づいてもらうんだよ。」

***

「はっ。」

キンコンカンコーンッ

(まだ朝早いとはいえ、すでに日が照りつける。 旧校舎の、温かな木造建築の
部室の中で。 紫苑は、身震いした。 寒いはずはない。 恐ろしい気配を
感じたからだ。)

「もう・・。 行かなくちゃ・・。」

(えんぴつを握った紫苑の手は、かすかに震えていた。)

「だめね。 キャンバスに向き合えば。 いつもなら集中して、

悪いことは全部、忘れられるのに・・。」

「・・夏樹くん・・。」

(小さな木造の、美術室の中に紫苑はいた。 古い木目の、
年月を経たその場所は。 不思議な温かさと、辺りに漂う。 絵具の香りに包まれ。
紫苑を癒してくれる場所だった。 何か迷ったときには。
いつもその場所で、キャンバスに向き合ってきた。)



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