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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-11


実際、僕は何もしていない。」

「橘。 人は僕をうらやみ。 あるいは妬み。 僕が、何もかも持っていると

言うだろう。」

「だが、最も欲しいものを。 僕は、手に入れていないんだ。」

「あの深い、紺色の瞳を見ていると。 それでも、悪くないと思える。」

「闇を失くして、人々を守るなんて言っている。 あの子を見るとね。」

「あの深い、紺色の瞳が。 笑うのを見ると、まるで。」

「僕を許してくれているような気がする。」

「彼の手で、終わるのは悪くない。」

「困ったね。」

「彼はもう僕の元へ、戻らないだろう。 遠くへ、

やるんじゃなかった。」

(聖は、そう言って笑った。 喜びとも、悲しみともつかない思いが。
湧き起こり。 目を細める聖の姿を前に。 橘は、瞳に込み上げる熱いものを。
やっとの思いで、こらえた。)

***

カチャンッ カタンッ・・

(仄かなオレンジ色のランプが灯す。 アンティークのキッチンの中に、
千波はいた。)



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