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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-12


(そっと、食器類を拭き上げ。 そばの木製の戸棚の中に、片付けた。)

「ここも。 だいぶ古くなってきたわね。 明日、磨いてあげないと。」

(千波は言いながら、後ろ手に、かけていたエプロンのリボンを解いた。)

「少し、お野菜を買い足そうかな。 ん〜・・裏のおばあちゃんが、畑からわけてくれる

かもしれないわねv」

「ふふふっ。 この間、道に迷って、お屋敷の前に来て。 知らぬ間に、

立派な宿が建ったもんだってv 驚いてたけどv」

(思い返しながら、微笑み。 千波は、テーブルに振り返った。)

(オレンジ色の、仄かなランプは。 少し歪んだ窓から入る、星明かりに。
優しい色彩を添え。 千波の、温かな明るい茶色の髪をゆらめく炎で
きらきらと照らした。)

(仄暗い屋敷の中は。 まだそれほど遅い時間ではないのに、静かで。
周りを森に囲まれているせいか。 しんと、静まり返っていた。)

「それから・・、手軽に食べれるお料理を。 お腹に優しいv」

「消化の良いものがいいわね。 暑いからって、冷たいものはだめ。」

「温かくなるものがいいわ。」

(こぢんまりとして、使い勝手の良い。 流しに手をかけ。 千波は、
キッチンの様子を見渡した。 長年使い古されながらも、年月を経た
木の温もりが。 ほのかに残る、台所仕事のあとの香りと。 その場所は、
広い洋館の屋敷の中で、一番好きな場所だった。)

「そろそろ戻って来たかしら? 今日もご飯に手をつけないで、

困ったものね。」



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