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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-18


「んん。」

(2階へ上り、ほの暗い廊下の。 最奥、大きな。 焦げ茶色の扉の前で、
千波は一呼吸。 整えた。)

「帰ったなら、そう言えばいいのに・・。」

(階下に比べて、なぜか、重たい空気が流れている様に。 千波には感じられた。
ランプが音を立て。 消えるように、炎が揺らめいている。)

『もう・・。』

(不思議な重力が、その場には流れ。 扉は、重く閉ざされているようだ。)

「世話の焼ける人。」

(千波はためらわず、足を踏み出し。 重い扉に、手をかけた。)

ガチャッ・・ ギギィ

(今、その部屋に入りたいと思う人は。 誰もいないと思われるほど。
圧力にも似た、重たい空気が垂れ込めている。)

(それでも、千波は。 そっと、扉を開き。 暗い室内を覗いた。)

「聖?」

トッ・・

(息を止めそうになるくらい。 張り詰めた空気とともに。
流れるバラの香りが。 千波に押しよせ。 はっとした。)

「・・ぁ、眠ってる。」

(窓際の木製の、アンティークデスクの上には。 仄かなランプが灯り。
椅子にかけ。 少し顔をうつむいたまま眠る、この屋敷の。 主の頬を照らしていた。)



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